第22話:ボス戦の後に
ロンドとボスゴブリンの戦いを見ていた
最初の頃は「キャー」とか「イヤー」と叫んでいたのだが、段々と戦いの激しさに目を奪われてしまい、最後にはただ黙って見つめていた。
「……か、勝ったの?」
「ロンドの勝ちだにゃ!」
「…………はああああぁぁ、よかったよー! ロンド君に何もなくてよかったー!」
「メグルメグル」
「何よニャルバン」
ロンドの勝利に喜んでいる廻なのだが、ニャルバンは何故か冴えない表情をしている。
「メグルは経営者なのにゃ」
「その通りよ」
「ダンジョンを経営しているのにゃ」
「経営者だからね」
「……」
「……何が言いたいのよ?」
首を傾げる廻に、ニャルバンは言い難そうに口を開いた。
「その、モンスターが倒されて喜ぶ経営者はあまりいないのにゃ」
「えぇっ! だって、ロンド君が無事だったんだよ! そりゃあ私が配置して、育ててるモンスターだし、最初の頃は死んでほしくないって思っていたけど……やっぱり私も人間なんだね。ロンド君とモンスターのどっちを取るのかって考えたら、やっぱりロンド君を取るんだなって思ったよ」
苦い表情をする廻を見て――ニャルバンは首を傾げてしまった。
「にゃにゃ? それは当然だと思うのにゃ」
「……えっ? 私、今結構なシリアスモードだったんだけど、あれ?」
予想外の反応に戸惑う廻を置き去りにしてニャルバンは話し続けた。
「そもそも、モンスターは倒されても復活するから問題ないのにゃ。それは最初にそう言ったのにゃ。だけど人間は死んでしまうとそれで終わりなのにゃ。だから、人間を大切にするのは間違いじゃないのにゃ」
「で、でもニャルバンはさっき言ったじゃないの! モンスターが倒されて喜ぶ経営者はあまりいないって!」
「言ったけど、それは今がお試しだからだにゃ」
「……お、お試し、だから?」
「だって、お試しなら痛みはあるけど絶対に死なないのにゃ。致命傷を受けても
「でも、だって、痛いんでしょ? ニャルバンは痛くても平気なの?」
「痛いのは嫌だけど、死なないのにゃ」
「……それじゃあ、ニャルバンがお試ししたら良かったんじゃないの?」
ボソリと呟かれた廻の言葉に、ニャルバンがビクリと体を震わせる。
ジト目で睨まれているニャルバンは首を徐々にあらぬ方向へと向けていくが、廻が両手で頭を掴み無理やり視線を合わせていた。
「なーんで、目を逸らすのかなー?」
「ぼ、僕じゃあお試しにならないのにゃ! すぐに殺されて終わりなのにゃ!」
「でも死なないんだから、何度も試して強くなればいいんじゃないの? そうよ、きっとそうよ!」
「い、嫌だにゃ! 痛いのは嫌なのにゃ!」
「えー? さっきの態度と違うわよねー?」
「ごめんなのにゃー! 許してくれなのにゃー!」
大きな瞳がウルウルしてきて、小さな体が震えだしたので、廻もやり過ぎたかと想い手を離した。
「ニャルバンも痛いのは嫌なんでしょ? だったらあんなこと言わないでよね」
「ご、ごめんなさいなのにゃ」
「うん、分かればよろしい!」
一人で大きく頷いていると、珍しくロンドから声が掛かった。
『――メグル様? 聞こえますか?』
「聞こえてるわよ! ロンド君、凄かったね! 最後のあれ何よ、ビュンって速くなってたじゃない!」
『――あはは、そうですかね……』
興奮している廻に対して、ロンドの口調はどこか苦しそうだった。
「ど、どうしたの? 嬉しくないの?」
『――嬉しいんですけど、疲労の方が強く出ているんです』
致命傷を避けていたとはいえ、体中の傷からは未だに血が滲み出ている。
「そっか、そうだよね」
『――この状態で先に進むのは、さすがに厳しいかと』
「そうだよね。うん、その通りだ。無理をさせるわけにはいかないものね」
廻もロンドに無理をさせて、無駄に痛みを伴うのは意に反するのでロンドの意見に大きく頷いた。
「ニャルバン、ロンド君をこっちに戻すにはどうしたらいいのかな?」
すかさずニャルバンに伺いを立てた。
「ダンジョンの帰還ボタンを押してもらうと戻ってこられるのにゃ!」
「ありがとう。それじゃあロンド君、準備はいいかな?」
『――ありがとうございます、大丈夫です』
ロンドの返事を聞いた廻は、メニューの帰還を押す。
すると、モニターに映っていたロンドの足元に白い光を伴った魔法陣が現れると、ロンドの体が魔法陣の中に沈み込み、姿を消してしまう。
そして、未だに口を開いているダンジョンの裏口、その目の前に同じ魔法陣が現れると、その中からロンドが現れた。
その体にはキラービーやボスゴブリンとの戦闘で負った傷はなく、苦しそうだった表情もいつも通りに戻っていた。
「ロンド君、お疲れ様です」
「……お、お疲れ様です」
「どうしたのにゃ?」
「いえ、さっきまで相当苦しかったんですが、戻ってきたら元に戻っていたので驚いていたんです」
「本当に傷も治るんだね。やっぱり、ニャルバンが潜っても良かったんじゃないの?」
「メグルー! イジメないでほしいのにゃ!」
「うふふ、ごめんなさいね」
二人のやり取りに首を傾げるロンドだったが、すぐに一階層の感想を口にしてくれた。
「一階層は概ねいいんじゃないかと思います。ランダムとオートが別ではありますが、キラービーという新人キラーもいるので緊張感は保てるかと」
「……新人キラー?」
キラービーとマジシャンが新人キラーと呼ばれていることを知らない廻は首を傾げてしまう。
そこでロンドが新人が躓くことの多いモンスターについて説明した。
「――へぇ、知らなかったわ。キラビとミスターってそんな風に呼ばれているんだね」
「そうなんです。だから、自信がつくまでの新人はどちらかに出会った場合は逃げるように言われるくらいですね」
「そうなんだ。……えっ、でもロンド君は一人で倒しちゃったよね?」
戦闘力が平均よりも低いロンドで倒せたのだから、キラービーはそこまで強くないのではと考えてしまう。
だが、それはロンドの戦い方とその時の状況が影響していたようだ。
「僕はキラービーとマジシャン対策を嫌という程やってきましたから。それに、運良く他のモンスターもいなかったですしね」
「そっか。みんなちゃんと勉強してるんだね」
「メグル様だってダンジョンの配置とか、都市運営について勉強しているじゃないですか」
「勉強って言えるのかな。ただニャルバンの言われるがままって感じなんだけど」
「にゃにゃ! そ、そんなことはないのにゃ! メグルは頑張ってくれているのにゃ! ロンドもだし、他の人ともちゃんと交渉を成功させたのにゃ!」
「……そ、そうかなぁ? うふふー」
ニャルバンに褒められて気を良くした廻。
話の流れて、ロンドは先程から気になっていたことを聞いてみることにした。
「あの、換金所に雇った人なんですけど、元冒険者の方なんですか?」
新人冒険者としては、やはり元冒険者が同じ都市にいるというのは心強いものがある。
「やっぱり冒険者としては気になるものかな?」
「当然ですよ。冒険者としての心構えや、師事を仰ぐことだってできますからね」
「ロンド君は十分やれていると思うけどな。勉強もしてるし。……正直、あいつに毒されてほしくないっていうのが本音だけど」
「ど、毒される?」
アルバスの態度に思うところがあった廻は嫌々ながらロンドに教えることにした。
「換金所の管理人はアルバス・フェローさんよ」
「アルバ――ア、アルバス・フェロー様ですか!」
「そうだけど、えっ? アルバス、様?」
ロンドの驚きように目を丸くしてしまった廻。何がそんなに驚くことなの全く分からなかった。
「メグルメグル、アルバスは冒険者ランキングでトップを争っていた有名人だにゃ。ロンドが驚くのも無理はないのにゃ」
「あー、そんなことも言ってたわね」
「凄いですよ、メグル様! アルバス様がやってくるなんて、普通じゃ考えられないですよ!」
「えー、でも態度はもの凄く悪かったわよ?」
「ですが、元トップランカーですよ? そんな人が換金所を任されるなんて……ぼ、僕も、教えてもらえるでしょうか!」
「えっ? 換金所の仕事を?」
「ち、違いますよ! 冒険者としての心構えとか、戦い方とかですよ! さっき言ったじゃないですか!」
「あはは、冗談よー」
ロンドもただ経営者を敬うだけではなく、廻に対してはところどころ言葉が砕ける部分も見えてきている。
廻としては嬉しいことで、このまま上下関係なく仲良くしたいと思うのだった。
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