第15話:換金所とは
何とか決まった道具屋の店主だが、最後の換金所に関しての知識を全く持たない
「換金所はダンジョンから持ち帰った戦利品をお金に替える場所なのにゃ!」
「お金って、そんなお金はここにないわよ?」
ただでさえ人を雇うお金もなく、最低限の人数しか雇っていないのだ。他の人に渡すお金があるわけがない。
「換金所には専用の換金機材があるのにゃ! それに戦利品を入れると、価値に見合ったお金が自動的に出てくるのにゃ!」
「えっ? それって、無限にお金が出てくるってこと? そんな機械があったら一生遊んで暮らせるよね?」
「神様が全てのダンジョンに与えている
「本当になんでもありなのね。それだったらギフトのチェンジもできるんじゃないの?」
「そ、それは無理なのにゃ」
「……」
「ほ、本当に無理なのにゃ!」
ジト目を向ける廻に慌てて言葉を付け足すニャルバンは、早口で神の遺産について説明を始めた。
「使い方だけど、さっきも言った通りでダンジョンからの戦利品を入れるとお金が出てくるにゃ。ただし、価値があるものだけにゃ!」
「価値があるものって、無いものとかあるの?」
「使い物にならない石とか木の枝とかにゃ」
「ダンジョンに植物が生えてるの?」
「そこは経営者次第なのにゃ。その話は置いといてにゃ、ちゃんと価値がある戦利品を入れるとその価値に合わせたお金が出てくるのにゃ」
それならこっちの懐が痛むことがないので安心だ。
「換金ってダンジョンからの戦利品じゃないとできないの?」
「そうにゃ! 外から持ってきた物では換金できないのにゃ!」
仕組みはよく分からないが、これが神の遺産と言われる所以なのかもしれない。
そもそも神様主導でダンジョン経営をさせられているのだから、ダンジョンと換金機材が神様の力でリンクしているとも考えられる。
その点は門外漢なので気にしないことにした。
「でも、そんな便利な機材なら盗まれたりしないのかしら」
用心棒がいない都市も少なからずあるだろうし、解放したばかりのダンジョンであればなおさらだ。そのあたりの盗難対策はできているのだろうか。
「換金機材自体が換金所の中でしか使えないのにゃ!」
「なんで?」
「なんでって、そういうものだからだにゃ!」
「……ところどころ説明が雑になるわよね」
「にゃー、聞いた話だと効力が高い神の遺産は使用できる範囲が小さいみたいなのにゃ。だから換金所の中でしか使えないと言われているにゃ」
「それならそうと最初から言いなさいよ!」
そういうことなら納得できる。
いつでもどこでもお金が自由に出せるとなれば盗難は必至である。そんな換金機材が盗まれないのにはそういった理由と都合があるわけだ。
「ねえねえ、神の遺産って他にもあるのかな?」
「あるけどどうしてにゃ?」
「役に立つならたくさん使いたいじゃないの! 少しくらい楽ができるんじゃないの?」
「神の遺産はそうそう見かけることがないのにゃ。換金機材は神様から経営者に配られるけど、それ以外は稀にダンジョンの下層でボスを倒した時に出るくらいにゃ。それもものすごく低い確率だって聞いたことがあるにゃ」
「えっ? ダンジョンから出てくるの?」
おかしなことだ、と廻は思った。
ダンジョンは経営者が運営するものである。そのダンジョンから神の遺産が出てくるというのはどうなのだろう。
「……ダンジョン自体は誰が作ってるの?」
「神様なのにゃ! だけど、今の神様じゃなくて昔の神様がたくさん作ったみたいなのにゃ」
「昔の神様?」
「今の神様はダンジョンを見つけては経営者を探してきて経営をさせているのにゃ」
ならば神の遺産も昔の神が作ったということだろうか。
「……考えても分からないか。出てきた神の遺産はどうなるの?」
「色々な効果があるから冒険者が持って帰るのがほとんどにゃ。換金されたらそのダンジョンの経営者のものになるけど、換金される神の遺産はあまり使えないものばかりにゃ」
「ふーん。それじゃあ、私が使える神の遺産を手に入れるには、他の人のダンジョンに潜る必要があるのね」
「……にゃ? も、潜るのかにゃ?」
廻の言葉にニャルバンは一瞬言葉に詰まってしまった。
「えっ、ダメなの?」
「ダメじゃないけど、メグルだとすぐに殺されちゃいそうだにゃ」
「こ、殺されるって。ロンド君と一緒なら大丈夫じゃないの?」
「それでも深い階層には行けないと思うにゃ。ロンドもまだ新人なのにゃ」
「あー、それもそうね」
「それにそれに、メグルは経営者だからダンジョンを解放したらそんな暇ないと思うにゃ」
「そうなんだ。あー、残念だなぁ。何処か別のダンジョンに旅行したかったんだけどな」
海外によく行っていた廻にとって、他のダンジョンを見に行くのも旅行の延長線上にあることだった。
他のダンジョンを見て、都市を見て、それを自分のダンジョンに反映できればと考えたのだが、そのような暇はないらしい。
「それよりもだにゃ! 換金所のことで気になる人を見つけたのにゃ!」
「えっ、それを先に言ってよ」
「メグルが換金所のことを聞いてきたから言えなかったのにゃ!」
「あー、そうだっけ? それじゃあ聞かせてください! お願いします!」
両手を顔の前で合わせて頭を下げ、笑顔でニャルバンを見つめる。
「しょ、しょうがないにゃー! 教えてあげるのにゃー!」
ウキウキ気分になったのか、ニャルバンも笑顔を浮かべて話し始めた。
「名前はアルバス・フェローだにゃ!」
「アルバスさんね。男の人、だよね?」
「そうだにゃ! アルバスは元冒険者で、今は引退して一人森の中で暮らしているのにゃ!」
「も、森の中って。そんな人に換金所を任せて大丈夫なの? それにロンド君は別として、冒険者って接客能力が低いんでしょ?」
換金所では戦利品を換金する為に何かとやりとりがあるだろう。そのやりとりを元冒険者に任せていいのかと不安に思う。
「冒険者の相手をするのは冒険者がいいのにゃ。荒くれ者が多いからにゃ」
「……何かあった時の為ってこと?」
「そんな感じなのにゃ。換金所では換金機材がお金を出すから平等なんだけど、金額に納得できなくて暴れる人もいるのにゃ。揉め事が多いから仕方ないのにゃ」
「でも、アルバスさんって引退した人なんでしょ? 現役の冒険者を止められるのかな?」
アルバスが止められなければ残るのはロンドだけだが、新人冒険者が熟練冒険者を止めれるとは到底思えない。
ならば話で丸く収められるような人材の方がいいのではないだろうか。
「アルバスなら問題ないと思うにゃ。現役の頃は相当な実力者だったからにゃ!」
「そんな人が換金所の窓口なんて受けてくれるかな」
「物は試しなのにゃ! アルバスが受けてくれたら換金所は安心なのにゃ!」
「そんなに凄い人だったの?」
「冒険者としては一、二を争う実力者だったにゃ! 換金所をやってる人は元冒険者が多いから、頑張るのにゃ!」
会ってみなければ分からない、そう考えた廻はニャルバンの言葉を信じることにした。
ポポイの時には一悶着あったものの、ロンドとニーナは満足できる契約だった。アルバスともきっと良い契約が結べると思いその日の夜を迎えたのだが――。
「――なんだ、てめぇは?」
廻の目の前に現れたのは隻腕で口の悪い厳つい男だった。
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