施設とダンジョン
第10話:交渉について
「――新人冒険者との交渉?」
「そうにゃ! とても真面目でいい子だと思うにゃ!」
モンスターをどのようにダンジョンへ配置するかを考えていた廻だったが、冒険者との交渉はそのダンジョンに大きく関わることとあって話を聞くことにした。
「名前はロンド・ヤニッシュにゃ!」
「ロンド君ね。新人って言ってたけど、冒険者成り立てなの?」
「三日前に冒険者登録をしたみたいにゃ」
「ど新人ね。そんな新人でも大丈夫なの?」
自分のダンジョンのお試しにと雇う予定の冒険者だが、全くのど新人でも問題はないのか心配になってしまった。
お試しとはいえダンジョンであり、モンスターと対峙するのだからそう考えるのも仕方ないだろう。
「お試しで冒険者が怪我をしたり死んだりすることはないのにゃ!」
「死ぬって……えっ? もしかして、解放して外から冒険者が来たら死ぬこともあるの?」
「当然にゃ。ダンジョンだからにゃ」
サラリと衝撃発言を聞かされた廻は固まってしまった。
「ちょっと、聞いてないんですけど!」
「だって、当然のことだから分かると思ってたにゃ!」
「人が死ぬんだったらダンジョンなんて経営したくないわよ!」
「そ、そんなこと言わないで欲しいにゃー。もし人死にが嫌ならなるべく安全なダンジョン作りを目指せばいいのにゃ!」
「安全なダンジョンですって?」
「そうにゃ! でもでも、まずは交渉にゃ! 他のダンジョンに先を越される前に決めて欲しいのにゃ!」
とても大事なことを後回しにされてしまったのだが、廻もここで生きると決めた以上は人材の確保も必要である。
安全なダンジョン作りについては後ほど聞くとして、まずはロンドについて聞くことにした。
「彼はランキング415位のダンジョン、スプリング出身の冒険者にゃ」
「スプリング、英語だけど外国の人が経営者なのかな?」
「ごめんにゃ。今の廻だとランキング外ってこともあって999位以上のダンジョンは見れないのにゃ」
「あっ、ううん、気にしないで。独り言だから」
「そうにゃ? 一応、ロンドの情報がこれにゃ」
ニャルバンから提供された情報に目を通す廻だったが、正直どの数字を参考にしたらいいのか分からなかった。
「ニャルバン、何をどうやってみたらいいのかな?」
「まずは冒険者に必要な能力――戦闘力にゃ!」
「戦闘力ね。えっと……92ってなってるわね」
「数字を選択すると、詳細な情報が見れるのにゃ!」
「どれどれ……おぉ! 出てきたわね!」
戦闘力の項目は六項目に分けられている。それぞれ筋力、耐久力、速さ、魔力、器用、運となっている。
「筋力が21、耐久力13、速さ30、魔力0、器用16、運12か。これって高いの? 低いの?」
「新人としてはやや低いくらいだと思うにゃ。普通だと100くらいなのにゃ」
「魔力0も普通なの?」
「ロンドは前衛職だから普通なのにゃ。彼の主武装はショートソードなのにゃ」
「おぉぅ、いきなり異世界って感じが強まったわね」
ガチャでモンスターを手に入れたり、ダンジョンに配置したりしていたが、この五日間で作業と化していた。
それが突然戦闘力や魔力、前衛職や武装なんて単語を耳にした廻は少しテンションが上がってしまう。
「でも、どうして普通よりも低い能力のロンド君を選んだの?」
「……冒険者の能力に希望を入れてきたのはメグルなのにゃ!」
「あぁ、そうだったわね、そのせいか」
ニャルバンは両手を上げて抗議すると、慣れた手つきで戦闘力の項目を閉じると次に開いたのは仕事の項目、そこの接客の項目だった。
「ロンドは冒険者としては接客の能力が高いのにゃ。宿屋の接客まで冒険者にやらせようなんて、普通は考えないのにゃ」
「冒険者が冒険だけしかやっちゃダメなんてルールはないでしょ?」
「そうだけど……ロンドが受けてくれるか心配なのにゃ」
ロンドの接客の数値は35。冒険者であれば高くても15、ほとんどの人が1というのが常識なのだとか。
ロンドの数値は接客をメインにしている人の平均である45よりはやや劣るものの、それでも十分な数値を示していた。
「私次第ってことよね。大丈夫、頑張るわよ!」
交渉とは言っているものの、これはいわば押し売りもいいところなのだ。
相手が望んでもいないことをこっちが勝手に呼びつけて雇われませんか、と言うのだから押し売り以外になんだと言うのだろう。
「ロンドが雇われたいと思う条件を提示する必要があるけど、これから考えるにゃ?」
「そうね。時間もかけていられないし、今から考えましょう」
そうして廻とニャルバンはロンドに対して提示する条件について考え始めた。
それは月収もそうだが、住居や食事面での待遇に関しても考えなければならない。衣食住の充実も交渉には役立つ材料になり得るのだ。
「交渉するのはいいんだけど、もし了承がもらえても住んでもらう家がないんだけど?」
「もし交渉に成功したら、その人が暮らす家は自動的に造られるのにゃ!」
「何それ、そんなご都合主義な展開ってありなの?」
「ありなのにゃ! だけどダンジョンを解放してからの家は自分達で建てないといけないから気をつけるにゃ」
「ふーん。これも初期費用みたいなものって考えていいのかしら?」
「その通りにゃ!」
なるべく多くの人を最初に雇えれば自動的に家も建つ。だけどお金がないから必要最低限の人しか雇えない。
「上手く出来てるのね」
「そうなのにゃ!」
「それじゃあ家の心配は必要ないとして、食事はどうなるのかしら?」
家があっても食事がなければ意味がない。ダンジョンがあるのは周りに何もない荒野である。
田畑を耕すとしても一ヶ月でできるわけでもないし、
「経営者に雇われた人にはここと同じように食事が自動的に出てくるのにゃ!」
「……えっ、そこまでご都合主義」
「経営者、つまりメグルに直接雇われた人達は神様に雇われたも同じなのにゃ。だから待遇面ではほとんど同じと考えてくれていいのにゃ! だけど、この待遇もダンジョン解放前に雇った人だけにゃ。後から雇った人には適用されないから注意が必要にゃ」
「最初の人達って相当な好待遇なのね。でもほとんど同じって、雇われた人は逆に何ができないの?」
「ダンジョン経営やガチャ、それと一人で勝手に都市を出ることができなくなるにゃ」
「都市を出られない?」
好待遇の裏にはその都市に縛り付けられる、そんな条件が含まれていた。
「でもでも、メグルから許可が出たり、メグルと一緒なら都市の外に出ることも可能にゃ!」
「経営者の許可なしには出られないってことね」
「その通りにゃ! メグルも他の都市に行くこともあるだろうから、その時に他の人達と一緒に出掛ければ気分転換もできるにゃ!」
働く人のストレス解消、これはどの職場でも重要な要素になる。
ストレスが溜まる職場では長続きしないし、続いたとしても仕事の効率は悪くなるだろう。
気持ちよく仕事ができる職場づくり、これも経営者の大事な仕事なのだ。
「そこは雇った人に話を聞いておいおい詰めていきましょう。でも私とほぼ同じ待遇ってことは、条件面では最高の待遇よね。交渉する意味ってあるのかしら?」
「都市に縛り付けられるのを嫌う人は多いにゃ。特に冒険者だと色々なダンジョンに行ってみたいと思う人が多いし、新人だとそう考える人が特に多いにゃ」
「そっか。その人の人生を縛り付けることになるんだものね。しっかりと話をして、納得してもらわないといけないわね」
「その意気なのにゃ!」
そうして廻とニャルバンは交渉について話を詰めたその日の夜――ロンドの意識を経営者の部屋に連れて来たのだった。
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