第6話:レアガチャ
逃げるニャルバン、追いかける
経営者の
「ちょっと、何処に行ったらレアガチャが引けるのよ! 絶対にレア度5が引けるガチャでお願いします!」
「そ、そんなレアガチャはないのにゃ! というか、何処に行ってもレアガチャは引けないのにゃ!」
「何でよ! あるって言ったじゃない!」
今にも首を絞めんばかりに両手をわきゃわきゃと動かしている廻に怯えながら、ニャルバンは説明を試みる。
「レアガチャはダンジョンランキングで上位の者に配られる報酬なのにゃ! だから何処に行くとかじゃなくて、レアガチャチケットがないと引けないのにゃ!」
「ダンジョンランキング〜? 初耳なんですけど〜?」
「け、経営が軌道に乗ってきたら伝えるつもりだったにゃ! 別に隠してたわけじゃないのにゃ!」
「ふーん……それで、そのランキングとやらで上位にならないとレアガチャチケットは手に入らないの?」
廻が冷静になったのを見て安堵したニャルバンは、気を取り直して説明を続けた。
「ほ、他には神様からのイベントで手に入ることもあるにゃ」
「イベント?」
「これも余裕のある経営者しか参加できないんだけど、説明するにゃ?」
無言で頷く廻。
「……メ、メグルが何かをするというものではないのにゃ。イベントのほとんどは冒険者や雇っている人達を対象にしたイベントなのにゃ」
「それって、経営者以外の人がガチャチケットを貰うってこと? モンスターを召喚するのよね?」
モンスターを召喚するのはダンジョンに配置する為であって、それ以外の理由はない。一般人がモンスターを召喚するのは全くの無意味なのだ。
「冒険者や他の人達には別の役立つ商品を用意しているにゃ! ガチャチケットはイベントで上位入賞した人を雇っていた経営者に与えられるのにゃ!」
「へぇー。それじゃあダンジョンランキングで上位を狙うよりも、イベントで上位を狙ってもらった方が楽だし狙い目なのかしら」
「そうでもないにゃ」
「そうなの?」
ダンジョンランキングは長い日数を掛けてようやく上位入りできるかどうかというところだろう。そもそものスタートが遅い廻にとって、先にダンジョンを運営している相手は随分と先に行っているわけで、狙うとしても相当の年数が必要となる。
ならばイベントで上位を狙う方が可能性は高いような気がした。
「冒険者も雇っている人達も、能力の高い人は上位ダンジョンの経営者が雇っているからメグルが上位を目指すのは難しいのにゃ」
「……結局私がレアガチャを引くにはどうしたらいいのよ!」
ダンジョンランキングもダメ、イベントもダメ、それならどうすればレアガチャを引けるのかとニャルバンに詰め寄る。
「後は――」
「後は!」
「……あー、何でもないにゃ」
「嘘! 今何か隠したでしょ!」
「か、隠してないにゃー!」
頑として口を割らないニャルバンに廻は渋々諦めることにした。
「……はぁ。分かったわよ、ノーマルガチャだけで頑張ればいいんでしょ!」
「も、申し訳ないにゃ」
「ニャルバンが悪いんじゃないもんね。悪いのは全部あの小さな神様なんだから! 最初から私にレアガチャが毎日引けるギフトをくれたら問題はなかったのよ!」
「そんな便利なギフトは聞いたことないにゃ」
「……願望だから気にしないでよ」
元々コツコツやることも嫌いではない。育った環境のせいもあるが、我が儘を言わずに言われたことを素直に聞いていると、自ずとコツコツやることに抵抗が無くなっていた。
母親や学校の先生が言うことが無理難題なわけもないので当然といえば当然なのだが、まさか今までの経験がこんなところで活きてくるとは思ってもいなかった。
「とりあえず、さっき外に出たことで今がお昼ってのは分かったんだけど、ご飯って何処で食べたらいいの?」
昼だと分かってから、実は空腹感に襲われていた廻。経営者の部屋には鏡以外に何もないので外に行かなければいけないのかと考えているのだが、見渡す限りの荒野で食事処を探すのは至難の業――というよりも、都市を見つけること自体が難しく見つける前に餓死するかもしれない。
「経営者の部屋では神様からの支給が来るにゃ! たぶんもうそろそろ……あ、来たにゃ!」
そう呟いたニャルバンが両手を前に出すと、突然手の上に料理が乗ったお盆が現れた。
この世界の主食なのだろうか、コッペパンにサラダ、それとこんがり焼けたお肉が並べられている。
「神様もたまには良いことするじゃない」
「た、たまにはって。神様はとても良い人にゃ」
「それよりもご飯よご飯! お腹空いちゃった!」
「神様の威厳が全くないのにゃ」
お盆を受け取った廻が何処で食べようか迷っていると、突然机と椅子が二脚現れた。
「うわっ! ……え、何よこれ?」
「言い忘れてたにゃ! 経営者の部屋では生活に必要なものがある程度は出てくるにゃ!」
「必要なものね。机や椅子以外にも何かあるの?」
「井戸もあるし料理をするなら台所もあるにゃ! ベッドもあるし着替えだってあるにゃ! 後はお手洗いもあるのにゃー!」
「……ちゃんと扉はあるんでしょうね」
「も、もちろんにゃ!」
衣食住が最低限は確保されているようで安心した廻は料理を口に運んでいく。味はそれなりで、これも最低限の支給ということなのだろうか。
「……願えばガチャチケットが手に入るとかは?」
「ないにゃ!」
「そうよねー」
冗談で言った割に、はっきりと言われたことで自然と溜息が漏れてしまう。
ノーマルガチャが一日三回というのが良いのか悪いのか判断できない廻にとって、今はこのギフトでやりくりしなければいけないのだと腹をくくるしかなかった。
腹ごしらえを終えた廻は、人気のダンジョンについて聞いてみることにした。
「ランキング上位のダンジョンは、やっぱり賑わってるんだよね?」
「そうだにゃ! 大都市に成長して暮らしている人も多いし、冒険者もたくさん集まってくるにゃ!」
「そんな人達って、きっとゲームとか好きな人なんだろうなぁ。何で私が選ばれたんだろう」
「神様は適正があるって言ってたにゃ」
「それは私も聞いたけど、ゲームもしないし本も読まないし、私の趣味なんて旅行くらいなんだよね」
ニャルバンからの説明を聞いて何となくダンジョン経営について分かってきたものの、やはりここが異世界だと言われて諸手を挙げて喜べるかと言われると、喜べない。
飛行機に乗っていた他の人達は輪廻転成して新たな人生を一からスタートさせるのだろう。自分もそうであったら良かったのにと思ってしまう。
「……お母さん、泣いてるかなぁ」
そして、母より先に先立ってしまった自分に悲しみが突然押し寄せてきた。
「げ、元気を出すにゃ! メグルはこの世界でもきっと上手くいくにゃ! 僕もしっかりとサポートするにゃ!」
「……ニャルバン?」
「ぼ、僕はメグルがいた世界のことを知らないにゃ。この世界に来た人のほとんどが時折悲しい顔をするにゃ。僕にできることは少ないけど、頑張ってサポートするから元気を出して欲しいにゃ!」
「……何よそれ、励ましてくれてるの?」
必死に声を上げるニャルバンに、廻は笑顔で答える。
「励ましになってないんですけどー」
「にゃにゃ! そ、そうなのにゃ?」
「うふふ、冗談よ。ほんのすこーしだけど、元気でたわ、ありがとう」
レアガチャが引けなくても、ランキング上位に入れなくても、この世界で生きていかなければいけないのだと腹を括った廻は残りのご飯を平らげて少し休むことにした。
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