作戦決行
定時株主総会から二週間。今日が決行日です。
ケーブルカーに揺られながら、会社の履歴事項全部証明書を眺めます。ああ、こんなことになってしまうとは。我ながら呆れてしまいます。
ここに至るまで、色々と面倒臭い仕込みがありました。人事部に動きを悟られないよう、小汚い手も使いました。でも、高槻さんが社長在任中に仕込んで置いた布石が役に立ちました。これで心置きなく合法的にサイバー攻撃を始めることができます。
今日から一ヶ月間、神戸八州嶺ホテルの客室が我々の仕事場となります。ザ・安ビジネスホテルというような絨毯の香り。
この部屋は、高槻さんの自費で、丸一ヶ月借りてあります。マンスリーアパートを借りるより相当安いのだとか。経営大丈夫なんですかね。まあ知りませんけど。
部屋には既に機材が持ち込まれていました。薄明かりの中、ずらりと並んだ液晶モニタが煌々と輝いています。プロジェクターで投影されているのは、世界地図。軌跡を描きながら赤い線が国々を飛び交っています。サイバー脅威マップ(Cyber Threat Map)ですね、これ。小さなSOC(Security Operation Center)的な雰囲気が出てます。しかし、このお嬢様、私たちが攻撃側だということを忘れているのではないでしょうか。
「では、ご指示を」
指示待ち人間であるところの私は、言い出しっぺの高槻さんに指示を仰ぎました。
「オペレーション・リモーネを決行する! 細かいことは一任する。だって、私バイトだもーん」
「なんだこいつ」
まぁ、彼女は補助スタッフとして雇用されたバイトで、私は上司にあたるのですが、言い出しっぺがこの態度なのは気にくわないですね。
「私はハッキングに詳しくないし、指示も何もないでしょう。見た目は整えてあげたから、あとは任せた。何か手伝えることがあれば言ってくださぁい」
高槻さんは大きな欠伸をして、ベッドに寝転がりました。もうこいつは放っておくしかありません。
私はチェアに腰掛け、天井を仰ぎました。
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