さあ、この人物を書いてみろ!
キザワは不思議な力を使って、私の脳裏に1人のキャラクターを焼き付けてきた。それは言葉でも映像でもない、にも関わらずそのキャラクターのことが頭ではわかる。今までに経験したことのない現象だった。
「今、君の頭にとある架空の人物の意識を飛ばした。さあ、そのキャラクターを文章として表現してみてくれ」
「分かった。ええ、こんな感じだ。その人物は普段は真面目なサラリーマン。上司からも部下からも信頼は厚い。しかし、内面は別の一面を持っていて、暴力的な感情を常に隠している事をみんなは知らない。こんなところだろうか」
「それで?」
「それで……って?」
「それはただの情報に過ぎない。その文を見せられても別にみんなは興味を持たないだろう。その人物の表情は? 服装は? どんな家に住んでいる? どんな信頼? どんな暴力的な感情?」
「なんだよ、詳しく言えばいいんだな。その人物はえーと、だいたい30台後半から40台半ばかな。服装はきちっとしたグレーのスラックスに、スーツは、結構おしゃれにみえる。信頼というのは……まあ仕事が出来るからだろうな、暴力的というのは……」
「もういい、そんな長ったらしい話を聞いてくれるほど読者は暇じゃないんだよ。特にWEB小説は残酷だぜ、最初の話だけPVがいくつかあって、次の話からPVがガクンと減っているってことは最初間違えてクリックしただけで、あんたのは面白くないって言われているようなもんだからな! その調子だと、君の文章を読んでくれるのは君の母親くらいだね」
またもやキザワは抱腹絶倒、そこに筋肉があれば腹筋崩壊でもしそうな勢いで、笑い声をあげた。
本当に失礼なやつだ、こいつは。だが、そこまで言うなら私だって黙ってはいられない。
「——へえ、そんなに言うならあんたはよほど素晴らしいものが書けるんだろうね」
キザワの笑いが止まった。突如、凍りつくような無表情がその空間に浮かんだ。
「私もまだ修行の身だ、大そうなものは書けない。だが、今の君よりはましな文章がかけるつもりではあるね」
そう言って、キザワは文章を紡ぎ出し始めた。
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