第31話 黄金の飴ちゃんの正体
僕もティアも、もう魔力は空っぽで体が動かないし、エミは両腕が折れてしまっている。
誰がどう見ても満身創痍の僕ら。
かろうじて腕を動かせるナナノに袋から回復薬を取り出してもらった。ナナノは岩に挟まれたというのに、僕らが思うよりも軽傷らしい。
「投げられた岩の、岩肌に下から足をつけて、角度をずらして威力を削いだんです。で、壁に挟まれる時も、一応壁と岩石のできるだけ隙間に潜り込むようにして……」
「流石ナナノちゃん!! よっ、み……凄腕忍者!」
「んふっ……!!」
「何笑ってるんですかぁ!!」
水玉、と言おうとしたエミが睨まれて言葉を変えたのが分かって、笑ってしまった。
なんだろう、今まで緊張していたせいか、些細な事でも感情が出てしまいそうになって困る。
笑っている僕の横で、ティアは眉根を寄せていた。
「……普通できないわよ、そんなこと」
「まあ、確かに」
思っているよりも、ナナノは戦闘に対しての勘が鋭いのかもしれない。この中でイレギュラーな存在のエミを除いて、一番戦闘に
そして、アシッドゴーレムに踏みつけられていたテン君だったが、彼も死んではいなかった。エミが回復薬を飲ませると立ちあがり、僕の足にスリスリと頭をぶつけてきた。
僕はテン君の顎をひっかくように強めに撫でてやって、その暖かさを
エミは自分の操るモンスターであるテン君が死んでいないのは知っていた。
本当に、誰も欠けなくて一安心だ。
「こんな、厳しい戦闘初めてだったわぁ……」
「ああ、僕もだ」
動けない僕とティア。
大抵はレベル上昇で上がった魔力に応じてそのスキルの威力が決まるし、それを超えて体と魔力のバランスが崩れるほどの威力で放たれるスキルは存在しない。
それを打ったら戦えなくなるのだから……。
そういう意味では、
僕はエミに、ティアはナナノに支えられながら石版と宝箱へと近付く。
石版に手を
「『火炎漸』の経験値を取得しました」
「『
「『つむじ風』を取得しました」
「『
『いちごみるく』の飴ちゃんがおかしかっただけで、本来スキルはダンジョンの中でしか得られない。これでやっと、地上に戻れる。
「宝を取れば、勝手に地上に戻る。今日は一度教会に寄って回復してもらってからナナノの家に帰ろう。この体のバランス異常が教会で治るのかも確かめてみたいし。本当は、何度か連続して潜ろうと思ったんだけど、もうへとへとだ」
「賛成~!」
「はい」
「そうねぇ」
最後に石版の奥に鎮座している宝箱を開けると、1万ルルドが入っていた。
今日買ったハザルの店の武具分はいくらだったのか……、というのが頭の
本当にタダにしてもらえて良かった。それにお金がかかっていたら大赤字だ。
……そして、僕の弓と上半身の防具を買い直さないといけない。……結局赤字だ。
あと、下半身の防具は千切れなくて、本当に、本っ当に良かった!
初心者用のダンジョンだから、まあこんなものなんだと分かってはいたんだけど。
僕以外の三人も、知っていても目の当たりにするとやはり心に来るものがあっただろう。
――あんな大変な戦闘をこなして、本当に貰える物はこれだけなのか、と。
宝箱からルルドを取ると僕らの体が光り、このダンジョンの入口へと、あっさりと飛ばされた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ああ~! 空気がおいしいわぁ!!」
「こ、こんなに地上が恋しいと思ったの初めてです。私モータル族なのに」
「なんや、随分長い時間潜ってた気がしたんやけど、思いのほか太陽はまだ上の方やね」
「まあ、このダンジョンは低レベルのダンジョンだし、ボス以外はサクサク進んでたし」
ルパーチャの入り口まではそんなに距離はないが、エミとナナノに支えてもらっている形になっているから、時間がかかる。
ナナノが歩きながら、僕らの方を見て言った。
「エミさんのレベルを考えて、私……思うんですけど、レベルがある程度高いダンジョンに行かないと、またさっきみたいな敵と衝突するってことですよね?」
「……そうなる」
「それやねんけど、ウチが一緒に潜らんかったらええんちゃう? ダンジョンの外で留守番しててもええで? 一緒に潜ったメンバーで決まるんやろ? だって、あんな肝が冷える戦闘……、毎回やってたら心臓がいくつあっても足りへんわ」
エミが思い出したように体を強張らせる。
「エミを残していくのがいいとは言えないから、どうにかして対策を考えよう。ただ……、実際僕は、死んだしね。死んだ、よな?」
…………。
全員が、一度押し黙ってしまった。
「……やっぱり、死んだわよねぇ?」
「ですよね……?」
「上半身と下半身離れ
「「「「…………」」」」
結局、多分死んだのは僕だけだったが、なぜかあり得ない筈の復活までしてしまっている。
そう、『復活』。
『死んだら絶対に生き返ることはない』
これが世界の大前提であり、そして摂理のはず。
だから僕らはダンジョンの中では死なないように立ち回る。死んでもいいならどんな捨て身の攻撃だってできてしまう。
「多分、死ぬ前にエミが袋に出していた、黄金のような黄色の透き通った飴ちゃんを食べたからだと思うんだけど……」
それ以外考えられない。
「!! 最後に出てた飴ちゃん!」
エミは、思い出したように飴ちゃんの出てくる袋の中に腕を突っ込んで、僕が舐めていたあの飴ちゃんを一つコロリと取り出す。
「やっぱり、二つ出てたんや……。べっこう飴……」
エミの口ぶりでは、今それを改めて出したのではなく、あの時に二つ出ていたようだった。
「べっこう飴なのねぇ、それ。確かに綺麗ね。この飴ちゃんなら、食べたことがあるわぁ。でも、もう少し濁ってるのよねぇ。砂糖の違いなのかしら?」
「本当ですね。透き通っていて綺麗です」
「何か飴が出てるのは分かっててん……。出す前に腕掴まれてしもて、袋は千切られるし散々やったけど……」
痛々しそうな目で、袋を見つめるエミ。この飴ちゃんの袋は大切な袋なのだと、そう言っていた。袋自体は破れてはいないものの、千切れてしまった紐は買い替える必要があるだろう。
「あの飴ちゃんを出した時、何を考えていたか、エミは覚えてるか?」
エミは思い出す様に瞳を空に
「うん、あの時ウチは、ナナノちゃんとティアちゃんが死んでしもたと思い込んでて……。だから、二人をどうにかして助けたいってそう考えてたんよ。だからほんまはユウ君の為に出したんやなかったんやけど、結果的には良かったね……」
僕の為に出した飴ちゃんではないと今更知った。あの時確かにピンチに陥っていたのは僕よりも二人の方だったし、仕方のないことだろうが少しだけショックだ。
「やっぱり、この飴ちゃんの効果は『復活』で間違いなさそうか」
「これって……、相当すごい飴ちゃんですよね。だって、人は死んだら生き返らないはずなのに」
「そうよねぇ……」
僕らは生唾を飲み込んだ。
考えていることは、みな同じだろう。世界のバランスを崩しかねないかもしれないこの飴ちゃんのことは、本当に誰にもばれないようにしなければ、ならない――と。
「あと、もう一つ疑問があるんだ……。こっちは解けるかどうか分からないんだけど……」
「? なに?」
「一戦闘一つしか出ないはずの飴ちゃんが、結果的にはもう一つ出たよな」
「あっ! そうねぇ」
「僕が思いつく仮説は、二つ。一つはエミがナナノとティアを生き返らせたいと思ったから、リミッターが外れて、飴ちゃんが出た」
「……もう一つは……?」
ナナノが見上げる様な目で僕に聞いてくる。
「やっぱり、元々一戦闘に一つっていう縛りがあるわけじゃなくて、エミが飴ちゃんを出したくない理由があるから出てこない」
「エミさんが飴ちゃんを出したくない理由?」
「そう」
「でも、ボスと戦う前にエミが飴ちゃんを出そうとしても、出なかったじゃない? エミが願ったのによぉ?」
「だからリミッターがどこにあるのかの差でしかないんだ。それが飴ちゃんの袋の縛りなのか、エミの中の無意識がそうさせているのか。確実にいくつも出せるのは外だけなのかもしれないってこと」
「うーん?」
どうも腑に落ちないといった表情の三人。
しかし、それ以外に何かあるかと言われると多分理由がない。エミが願っても飴が出ない状況を作り出せるのは、『飴ちゃんの巾着袋』か『エミ自身』かどちらかしかないのだから。
うんうん唸りながら歩いていたが、そうこうしているとルパーチャの門の前へとたどり着いた。
思いのほか帰ってくるのに時間がかかったが、門をゆっくりと開いて、僕らはやっと街へと帰還した。
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『復活』のスキルを持った飴ちゃんは、黄金〇のつもりで書いています。株式会社黄金〇から出ています。形は四角錐の上部を切ったような形で、優しい自然な味がします。同じような飴ちゃんで(会社は違いますが)純〇という飴ちゃんがありますが、同じような味で少しだけ紅茶の香料が入っており、こちらは五角錐の上部を切ったような形をしていますね。どちらも昔懐かしい味がする、シンプルさと美味しさを兼ね備えた美しい飴ちゃんです。
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