第27話 飴ちゃん∞の誤算
鼻息荒く気合を入れているエミ。ナナノも、緊張を隠せない様子だ。
だが、正直そんなに体を固くするほどのことはない。
この戦いっぷりならボスも問題ないだろう。このレベル帯のボスは、道中の敵に毛の生えた程度の強さしかない。
僕もティアも手を出さなくてもエミとナナノ二人で勝てるだろうと踏んでいる。慢心は良くないので、一応気を引き締めて入るつもりではあるが。
あ、でも一回『スキルレベル上限突破』しているはずのスキルの試し打ちをしたいんだった……。
二人の戦闘を見ていると楽だったし、うっかり忘れていた。
「ボス部屋の前で止まってもらえる? 飴ちゃん出そうと思うんよ。で、ちょっと聞きたいんやけど、ここのボスってどんな特徴を持ってるとかそういうの分かるんやったら教えてもらいたいねん。あとなあ……、大丈夫やとは思うんやで? 思うんやけど……気になることがあって……」
エミが少し
「さっきまで実は戦闘前にこっそり袋の中探ってたんやけど、二戦目以降なんでか全然飴ちゃん出てこぉへんかったんよ……。あんまり敵が強くなかったからかなって思うんやけど」
「まあ、確かに。いちごの飴ちゃんがあれだったし、他の飴ちゃんを出されてもちょっと舐めるのも怖い気もしてましたけど……」
舐めてああなってしまったナナノが言うと重みがある。
「……でも、次はボスやろ? その敵に合ったみんなの力を補助できるような飴ちゃん、出来れば出したいやん?」
なるほど、やっと分かった。
初戦でナナノが食べる飴ちゃんしか出てこなかった理由。
――ハザルの店での武具の試用で、ナナノが強いということを知っていたからか。
そしてエミは自分が強くなる必要性を恐らく感じていない……。
戦うのはテン君だから。
ナナノは戦闘を怖がっていたから、エミはナナノが恐怖心を失くして戦える飴ちゃんがあれば、あの戦闘は問題ないと感じていたということだ。そして二戦目以降で飴ちゃんが出てこなかったのは、その力が圧倒的すぎたのもあるが、ナナノにもう使いたくないと止められたから……か?
そう考えると、割とこの飴ちゃんの袋はダンジョン内での使用は限定的になるかもしれない。エミの主観によって出てくる飴ちゃんが左右されるだけでなく、エミが心のどこかで出す必要がないと思うと、飴ちゃんが出てこないということになる。
飴ちゃんを出すために心が作用するが、それが出ないことにも繋がってしまうのか。
このスキルを発動させる為にもっとも必要なことは、エミに必要だと思わせること。何を置いてもこれがクリアできないと、ダンジョン内で飴ちゃんは出てこない可能性が高まるということになる。
ならば、この先で待つボスがそんなに強くはないということは、話さない方がいいだろう。飴ちゃんを出す必要がないとほんの少しでも思わない方がいい。むしろ、多少誇張すべきか。
「この先にいるボスはぁ……」
「待ってくれ、ティア。僕が説明する。このダンジョンのボスは『虫型』で12本の足の生えた大きな蜘蛛のボス。主な攻撃は『毒の牙』と『
大まかな動きはその程度だろうか。レベルの低い敵には正直あまり緊張しすぎるのも良くない。やはり、一番注意すべきは毒。
「もし、僕が必要だと思う飴ちゃんがあるとするなら、第一に状態異常防止、それと、もしいちごとは別に力が上がるようなものがあれば、それ。万全を期すなら、防御力が上がるようなものがあれば嬉しい」
説明しながら真っ直ぐ歩いているうちに、ボス部屋の扉の前に到着した。ボスのいるフロアは、ボスしかいない。
中にいるボスモンスターを知っているティアは、僕にそこまで注意しなくてもいいんじゃないの? という目を向けてくる。そうだろうな、これだけの情報なら……、どんな大蜘蛛が現れるのだと身構えるところだろう。
だが、入ってボスを見れば逆にびっくりするだろうが、思いのほか小さい。ナナノの持つ大手裏剣位のサイズだ。蜘蛛としてみれば大きいだろうが。
だが、ボスはボス、その毒は強い。その毒だけで死に至ることはないが、毒を受ければ相応の苦しみが待っている。
「うん、分かった。ちょっと待ってや」
ごそごそと飴ちゃんが入っている巾着袋を探り、エミは飴ちゃんを取り出した。同じ種類と思われる白っぽい飴が四個。飴の中に赤い何かが入っているのが透けて見える。包みは透明地に桃色で絵と字が書かれている。
ん? 四? 十二じゃなく?
「え、なんでこれだけ…??」
「……一回の戦闘で一人一個しかダメなんじゃないですか、もしかして」
「!!」
ナナノが鋭い。というかそれしか考えられない。
エミは飴ちゃんの袋を逆さまにして振るが、他に出てくる様子もない。
――えええええええええ!!???? 嘘だろ!?
エミが望めばいくらでも出てくるんじゃないのか!?
だって『飴ちゃん
い、いやいや待て。逆に考えればこの程度のレベルのボスでそれが分かって良かったともいえるか!? そうだよ、今回のダンジョンは割とお試し感高かったしな! ポジティブ、ポジティブシンキングだ。おお、お落ち着け、となるとこれから先も一番必要な飴ちゃんを出してもらうしかないな。うんうん、それ、それしかない。
僕の動揺が表に出ていたようで、ナナノが肘でこちらをつついて、ティアは「この鈍感バカ勇者が」という目で見てくる。
「謝ってどうにかなることやないけど……、ごめんなさい」
「えっ、そんな! 謝らなくていいですよ、エミさん!」
しょんぼりした顔のエミに、ナナノが元気な声で励ます様に言った。
「そうよぉ。エミが、私たちになにか意地悪しようと思ってやってるわけじゃないでしょう?」
「今回はあくまで飴ちゃんのスキルと、なにか不都合がないかっていう確認の為に潜ったのもあるし。そんなに気を落とすことじゃない」
「なんで出ぇへんねやろ……。ちゃんとそういう飴ちゃんが出てくるようにって考えてたし、いつも出してるのとなんにも変わらんはずなんやけど……」
これも三人でうんうん唸ってみるが、結論がでることではなさそうだ。一回ダンジョンに潜って少し使ってみたくらいで、このスキルのすべてが
失敗してみて、できることよりできないことを知って行く方が重要だ。
「ホンマに、ごめんねぇ。ウチ、飴ちゃんは一つしか出せへんかったけど、戦闘頑張るから! ……ってまあ主に頑張るのはテン君やけど」
「確かにそうねぇ」
「ふふっ」
おどけて、そう言うエミ。
少し無理をしているかもしれないな……と思った。どうしてそう思ったのかと言われると、答えに窮するが……。
「じゃあ、飴ちゃん食べて。ボスの部屋に入るよ」
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