第二章
第10話 ガチコンいわす作戦会議 1
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「一番手っ取り早いのは、トーヤより強くなって一発ぶん殴って彼に
「その為にはウチらのレベルを上げなあかんよな? せやけど、ウチとナナノちゃんはレベルが1やし、トーヤ君が強い勇者なんやったら、それ以上のレベルとなると、時間もかかるもんなんやろ? いつその子がユウ君の友達を連れて、ダンジョンに潜るか分からんやん。ユウ君の友達だって、助けられるなら助けたいし、
問題はそこだ。僕らには時間がない。
うーん、と腕を組む僕とエミとナナノ。テン君は、もうナナノを見張らなくてよくなったので、いつの間にかゆったりと寝転んでいる。
あっ、テン君?
「一発かますのには、テン君でなんとかなるんじゃないか?」
「ホンマ? テン君でなんとかなる感じ?」
確実にテン君はトーヤより強い。なにせ、レベル90の冒険者よりもほぼ確実に強いとされる幻のモンスターだし。
「それはいい案だと思いますけど、ガチコンいわせたとして、私たちがダンジョンに潜ってる間にどこかに逃げられたら、やっぱり彼は同じことをしますよね? 追いかけるにしても、自分たちの冒険があるわけですし、またもし犠牲者が出たら結局後悔すると思うんです。後手後手になるのは避けた方がいいとは思いますけど……」
「根本的な改心が必要っちゅうことやね」
「もし、彼を止めたいのであればですけど……。でもトーヤさんが逃げたらどうなるか分かってて見過ごせるなら、今もトーヤさんにガチコンいわせるなんて計画も立てませんよね」
なるほど、確かにナナノの言うことは正しい。
僕らがすっきりするだけなら、テン君を使えばいいだろう。ある程度睨みも利かせられる。
でも彼が僕らから逃げてどこか別の場所で同じことをしたら、また追いかけてガチコンいわせて……。そんなことを繰り返していたら僕らの冒険自体がおろそかになるし、間に合わなければ被害は増えていくだけだ。
ナナノって割と頭がキレるタイプなのかもしれない。
まあ、トーヤがそこまでの信念らしきものを持っていて、逃げ回ってまでする理由があるのなら、だとは思うが。でも誰を犠牲にしてものし上がろうとしている人間が、一回やられたくらいで、それまでとやり方を変えるだろうか。
「犠牲を出さへんということに特化するんやったら、その子に勇者を辞めてもらうのが一番ええんとちゃうかなあ。高レベルの勇者やから、みんなダンジョンについていくんやろ? そういうのってあるの?」
「あるよ。年を取って戦えなくなった勇者は教会に引退宣言して、勇者じゃなくなるんだ。あとは、結婚して子どもが欲しいとかね。勇者の内は子どもを作ってはいけないから。一応、その時に加護はなくなるけど、それまで取ったスキルなんかは全部残るしね」
元勇者は割と色々なところから引く手
エミがいなかったら、きっと僕もそうなっていただろう。パーティを組むにしても他のメンバーも戦えないと、成り立たない職だから。それに、勇者という職は恩恵を受けられる部分が多いが、制限も当然ある。勇者を名乗るには、毎月一度はダンジョンに潜る必要があるとか、さっきも言ったけど子どもは作れないとか。
パーティに入ってもらったものの、ナナノが戦えるかどうかはまだわからないが、恐らくナナノは戦えるはずだ。両親は格闘家と盗賊だというし、きっとどちらかの職の適性を持っている、と思う。僕の腰のアイテム袋を盗んだ手口からいって、盗賊の適性を持っていそうな気はしている。
でも、教会に行ってナナノに戦闘適性がないと判断されたら……、その時はその時でまた考えるしかない。
「なるほどなあ。じゃあユウ君て童貞なんやね」
「!!?? そ、そうだけどそれが何か!? 勇者は、清らかでいるということが第一前提としてあって、体を神に捧げているから特別な加護があるのであって……!! それをなくすということは勇者でなくなるということで……!」
「いや、別に何もないけど……、なんか……ごめん。デリケートなことやったね」
別に童貞だろうがなんだろうが今は関係ないと思う。関係なくない!?
あと、むしろ謝らないでほしい!
「あ、その勇者って、どういう風に選ばれるん?」
「……僕らの世界では、勇者は
「痣?」
「そう、僕は脇にあるんだけど、これ……。ムルン神の加護を受けた子はこの痣を持ってるんだ。他の神の加護を持った勇者もいるかもしれないけど、見たことないな。ちなみにさっき言ってた加護とセットみたいなもので、引退したら痣も消える」
太陽のような痣がそこにある。
「生まれながらに勇者って決まっとるってことやね」
「そう、別に勇者にならなくてもいいんだけどね。勇者としてダンジョンに潜るには、教会に書類を提出する必要があるし」
「そうなんや! それにしても、ユウ君……ええカラダしてるね」
「へぇ!?」
何をいきなり?
「腹筋もバッキバキに割れてて、かっこええね! 服捲し上げたから、体引き締まってるのがよぉ分かるわ~」
さわさわと、恥ずかしげもなく彼女は白くて細い指で僕の脇腹を撫でてくる。くすぐったいような、それとは別のザワザワとしたものが上がってくるような。
「ちょちょ!? ちょっと!」
「もう! イチャつくのは後にしてください」
「あ、ごめんごめん」
「いちゃ!?」
僕はそんな気持ちは全くなかったのに、そう言われると妙に恥ずかしくなる。いそいそと服を戻した。
「生まれながらに勇者ねえ~。うーん……。どういう性格なのかとかって関係ないん? たとえば、産まれた時痣があったとしても、その後悪人になる可能性だってあるよねぇ? 悪人の勇者っておるん?」
「いないはずだよ。確かあまりに非人道的だと神に判断されると、加護は消えるはずなんだ。これまでにも消えた例がある。で、加護が消えたらその時点で勇者の適性はなくなる。だからなんでトーヤが勇者のままなのか、そこがまた謎で……」
「その辺りは、ダンジョンの中で人が死ぬというのは多分普通の事で、加護とは無関係だからじゃないでしょうか……? 外では、別に何か悪事を働いてるわけでもないですし」
「けど、人を盾にして生き残るような奴だよ……?」
「そう言われてるだけで、実際はどうか分かりませんよね? ダンジョンの中では他のパーティが同じダンジョンに入っても、ダンジョン攻略はパーティ別になるから、何が起こってるのかを見ることができるのは同じパーティの人しかいないですし……。わたしの父と母だって、一回トーヤさんとダンジョンに潜った時は、すごくいい人だったって言って帰ってきたんです。ユウさんのパーティから引き抜いたり、他のパーティからもメンバーを引き抜きいてるという話は聞きますけど、それって別に、悪いことでもなんでもないんですよね」
ん? ユウさん?
「あっ、ごめん。そういえば僕ら自己紹介してなかったね」
「あちゃ~、ホンマやね!! ウチはエミ! エミ・サカモト!」
「僕はユウマ。ユウマ・シンドウ」
「あ、じゃあユウさんじゃなくてユウマさんだったんですね?」
「そうそう、ウチがユウ君って呼んでるだけやねん」
「じゃあ、これからはユウマさんって呼びます。それで、続きなんですけど、わたし、父と母がトーヤさんのパーティに入るって決めた後に、やっぱり気になったので、少しトーヤさんの事を調べてたんです」
「「!!」」
僕とエミは顔を見合わせる。
「それで、なんか分かったん?」
「トーヤさんを恨む気持ちになれなかったのには、それもあって…。あの人が無茶な潜り方をしてレベル上げやお金を集めてるのは、自分がいた修道院にお金を渡してるからのようなんです」
「……ええっ!?」
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