第4話 いろんな飴ちゃん

 ネタが被ってしまった橋本先生より、別物ですので続けて下さいというお言葉をいただきまして、連載再開です。

 ―――――――――――――――――


 ☆ ☆ ☆  


「旅に出る前に、この『スキルキャンディバース』の説明をしますね」

「あら~、なんか注意点とかあるの? ウチ覚えられるかなあ。最近ちょっと物覚えが……」

「大丈夫です。エミさんは、16歳の少女として転生するので、今から説明することも覚えて行けると思っていてください」

「そうなんやねえ。便利~」


 こほん、とメルトは一つ咳払いをして、説明を始める。


「さっきの『いちごみるく』以外にも、エミさんが好きだった味の飴や、知っている飴が取り出せます」

「レモンとかハッカとかコーヒーとか?」

「そうです。あとは個別包装になってないようなのや、キャンディのくくりの中に入っている物なら出せますよ。今その袋を覗きこんでも空っぽですよね」


 エミは巾着の口を開いて中を覗き込む。確かに飴の重みを感じるのに、その中には何もない。


「確かに、なんにも入ってないねえ。さっき飴ちゃん出した時もおかしいと思ったんよ。重みの割に、一つしか飴ちゃんが入ってなくてねえ」

「そうですよね。この力は、が出るというものなんです。なので、袋の中には普段飴はありません。入っているような重みだけがあります」

「あら~、そうなん? でもそういえばスペシャル? な『いちごみるく』の飴ちゃんはあんまり渡したらダメなんよね? うち一番好きやから、いろんな人に渡したいんやけど……」

「いい質問ですね。『いちごみるく』は強力な飴ですので、エミさんをのぞく三人には『スキル付き』の飴を渡せるようにしてあります。これから行く世界の一パーティは四人ですので、同じパーティの子に渡すことになると思います。ただ、それ以降なら『いちごみるく』を出しても、スキル付与はないですよ。ただの『いちごみるく』です」

「じゃあ、最初の三つの『いちごみるく』の飴ちゃんだけはちゃんと人を見極めて渡せってことやね?」

「そうです、絶対に悪い人に渡しちゃだめですよ」

 

 エミはうんうんと頷く。


「ウチ、人を見る目には自信があるんよ!」

「そうですか。では、その見る目を信用しますね。エミさんが選んだ人が、良い人であることを祈っています」

 

 まかしとき! と自信満々に、胸を叩いた。


「あと、『いちごみるく』以外の味の飴にもスキルはついていますので、その説明も……」

「あら、そうなん? じゃあ他のもあんまり人に渡せへんねえ」

 

 ちょっとしょんぼりするエミに、メルトは心配ないと告げる。


「さっきも言った通り、『いちごみるく』だけを特別にしたんです。他の飴に関しては、ダンジョン以外では普通の飴ですので、いくつ渡してもらっても大丈夫ですよ」

「ダンジョン?」

 

 エミには聞きなれない言葉だったので、聞き返す。


「ええと、敵とかが出てくる、いわば迷宮ですね」

「そうなんやねえ。でも行くつもりないから、まあそれは聞かなくてもええかなあ」

「えっ、ええ? そう……ですか?」

「うんうん、それにもし万が一行くことになったとしても、勝手に必要な飴ちゃんがでてくるんやろ?」

「は、はい。それはそうですが……」

「でも、そこにさえ行かなかったら、いろんな人に飴ちゃんあげてええんやねえ。 良かったわぁ。やっぱり飴ちゃんは、いろんな人に配ってこそやしねえ」


 喜ぶエミ。 

 おろおろと困惑気味のメルトにエミは笑って、


「お姉ちゃん、迷惑かけたねえ。ウチがわがまま言うたばっかりに」

「い、いえ、本当は転生もエミさんの望む形にできればよかったんですけど……」

「ううん、ええのええの。ありがとうね! ほんなら、いこかなあ」

「あ、ちょっと待ってください! あの……」

 

 メルトに背を向けたエミが立ち止まって振り返る。


「まだ何かあるの? もう十分ええもん貰えたけどなあ」

「いえ、まだアイテムを一つしか……。もう一つ持って行ってもらいたいのがあるんです。……あの、戦闘は嫌だけど目立つのは好き、なんですよね?」

「そうやねえ、ウチが着てるこの服、目立ちたいから着てるところあるし」


 と、ヒョウがプリントされた服を引っ張る。


「ヒョウをお供として連れて行くのはどうですか?」

「え、この子? そんなこともできるの?」


 エミは服を更に引っ張って、そのヒョウを見る。ヒョウはびろんと伸びてしまっている。


「正確には、エミさんがこれから行く世界に生息する、ノルカヒョウという種類になるのですが…。ちょっと尻尾が二本ですが、見た目はほぼ同じです。猛獣使いモンスターテイマーという職があって、使役したモンスターが代わりに戦ってくれるんです。それなら武器の代わりになるし、それになんとヒョウを連れている猛獣使いモンスターテイマーはエミさんが行く世界にはいないので、目立ちますよ! オンリーワンです!」


 その言葉に、エミは目を光らせた。女神は知っていてその言葉を発したのではないが、オンリーワン、や残り一個、というフレーズに弱いのだ。

 武器はいらないというエミに対して、どうしても戦わせたい女神メルトがはじき出した答えが、これだった。


「買ったー!」


 こうして顕現けんげんしたのが、このエミの隣にいるモンスターであった。

 エミはヒョウにテンノウジと名前を付けて、テン君と呼ぶことに決めた。一人と一匹が光り出したゲートに向かって歩いていく。


「お姉ちゃん、ありがとうね~!」

 

 と、手を振って歩いていくエミ。

 それに対して、微笑みながら手を振りかえすメルト。


「とりあえず、これで私の減給は免れた……。エミさん、本当にごめんなさい。よろしくお願いします」


 エミがゲートに吸い込まれる瞬間、メルトはそうつぶやいた。


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 ちなみに天王寺動物園にはヒョウはおらず、ジャガーがいます。

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