It isn't understood.

水景 龍爛

第1話


 0.


 _わたくしがそれに違和感を覚えたのは、果たして何時いつだったでしょうか。そう遠くはない過去だったように記憶しております。人とは成長と共に価値観が曲がり、歪められ、塗り替えられ、変わっていくものだと思っております。故に、この気持ちも一時いっときのものなのでしょう。感情というのは、価値観と同様、不変ではないと認識はておりますので。

 ただ、どうしても、言葉に出さずには居られないのです。それ程、今のわたくしの心の内は掻き乱されているのです。どうか、胸の内を吐露する事を赦して頂けないでしょうか——。



 1.


 わたくしがその境遇への扉を開いたのは、四歳の頃でした。四歳下の妹はまだ幼く、丁度一歳を迎えるか否か頃だったと思われます。幼稚園へと向かう車の中で助手席に座ったわたくしは、ただ窓の外の景色を眺めているだけでした。しかし、後部座席へと積まれた服や布団の類いが、幼いわたくしにも、異様だという事を感じられました。


 真実を知ったのはそれから幾日かが経過した頃です。あの日以降、わたくしの帰る家は、幼稚園から程近い、母方の祖父母が暮らしている実家となりました。確かな記憶は御座いませんが、『両親の離婚』という事実を突きつけられた時、意外にもわたくしはすんなりと受け入れたと記憶しております。父と共に暮らすことが出来ないという事に悲しみはしましたが、それ以上に母が苦しむのを嫌い、二人が決めた事なら私は構わないと、そういう心情だった気が致します。

 今思えばそれはただ意地を張ってるように、ませているように感じられますが、確かに幼き頃の私は、事実を真っ向から受け止めておりました。



 2.


 幼稚園を卒業し、小中学へと進学するに連れ、わたくしの周囲には、意外にも母子家庭や父子家庭の子は沢山おりました。三組に一組は離婚するこのご時世ですので、わたくしは然程違和感を感じませんでした。寧ろ、片親である事を引け目に思っておられた子達には、励ましの言葉を掛けていました。


「片方だからと後ろめたく感じる必要は無い。寧ろ、一人でも頑張っている彼、彼女らを誇りに思おう、そして他の家族以上にお互いが支え合う家族になろう」と。


 実際、わたくしは昔から今も変わらず、ここまで娘二人を育ててくれた母に感謝の念しかなく、そんな母を誇りに思っております。これはこれからも変わりません。

 ただ、わたくしがある違和感を感じ始めたのは、高校へ進学してからで御座いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る