第四十五話 結婚式が終わり、主役のこめかみに青筋が!?
※それにしても、バレンタインの時期に良く結婚式のネタが当たったもんだなぁ。
計算づくではありません。偶然ですwww
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教会の近所に住む女の子に独身女性達が手にしたいと夢にまで抱いていたブーケを取られてからしばらくの後。
礼拝堂で雑談を済ませた参列者達が移動したのは、幾つものテーブルに豪華なオードブルが所狭しと並べられた、ちょっとした広さの教会の中庭での立食パーティー会場である。
エゼルバルドとヒルダの結婚式が無事に終わり、昼食時までに屋根の高さにタープを張りテーブルを並べてオードブルの用意までするにはどれだけの手間と賃金を支払ったのかと思われるが、そこは神父とシスターの伝手と、とある場所からの資金で解決していた。
そしてもう一つ、その間に、エゼルバルドとヒルダは結婚式でのタキシードとドレスからゆったりした格好へと姿を変えていた。
エゼルバルドはタキシードのままで良いと考えていたが、食事に色とりどりのソースが添えられていると聞くと、仕方ないと渋々、着替えをするのであった。
そして、ヒルダは腰回りからふくよかな胸の下の肋骨までを”ぎゅうぎゅう”に締められ、吐き気を催すほどに気分が悪くなるコルセットから解放されると喜びを露にしていた。
だが、その考え通りにはならず、コルセットから完全に解放される事は無かった。
立食のパーティー会場とは言え、主役の二人にみすぼらしい格好をさせる筈も無く、シスターとアデーラの
そのままでは立食パーティーも楽しめないだろうと、コルセットは姿勢を正す程度に緩められ、これなら大丈夫だとヒルダはホッと胸を撫で下ろしていた。
エゼルバルドとヒルダ不在のまま立食パーティーが始まると、それまで大人しかった参列者達が我先にと男装の麗人と姿を変えたパトリシア姫に砂糖を求める蟻の様に群がり始める。
王都でパトリシア姫が出席する催し物に参加した人々から伝え聞く長髪縦ロールのドレス姿から見まがうような中性的な姿を何故しているのか、エゼルバルドやヒルダと何処で知り合ったのかと、手の届かぬ存在だった王族に我先にと質問を飛ばし始める。
噂話を好むのはパトリシア姫も同じなのだが、蟻に群がられる程砂糖の如く女性達から噂話の中心に据えられてしまい、強気の姫様と言えどもタジタジと後ずさりしてしまう程であった。
パトリシア姫が質問攻めに遭い注目の的となってから三十分余りが過ぎようかとした時、教会の母屋から着替えを終えた主役の
二人は各テーブルを回り、豪華なオードブルに群がる参列者に次々と話しをして行き、最後に噂の中心から外れる事を何とか許されたパトリシア姫達のテーブルへと周り着く。
「今日は結婚式に来てくれてありがとう」
「まさか、姫様が来るとは思わなかったわ。でも、ここにいて、いいの?」
主役の二人が揃ってパトリシア姫に進み出て、頭を下げお礼の挨拶を口に出す。そして、頭を上げるとヒルダがパトリシア姫の所在に不安を告げるのだが、当人から告げられた言葉に”なるほど”と納得をする。
「妾がこの人数で街に出るなどありえんだろう。教会周辺にカルロ将軍の部下が多数控えておるから、この街で一番安全な場所と言えるかもしれんな。それに……」
「それに?」
当人からの言葉に加えて何処か遠くへ視線を飛ばしていれば、その姿は無くとも納得はするのだが、国家権力を自由に使い身を守るなど呆れる二人だった。だが、それだけでパトリシア姫の言葉は終わらず、言葉を続ける。
「カルロをして自らよりも腕が立つと言わしめたヴルフやお主達がいるのだ。いったい誰が敵うというのか?」
カルロ将軍の元部下であり、二つ名を贈られたヴルフに、卓越した魔法の使い手スイール、そして、弓の腕は当代随一で右に出る者を知らぬアイリーンの三人だけでも過剰戦力と言えよう。
そこに今日の主役のエゼルバルドとヒルダが加わり、エルフの魔術師エルザも控えていると知れば、喧嘩を売る相手など出て来るとは考えられなかった。
「そんな訳で妾はのびのびと羽を伸ばせるのじゃ」
パトリシア姫はテーブルに乗ったオードブルの一つを手で摘まみ上げると”ひょい”と口に投げ入れた。その仕草だけでもエゼルバルドとヒルダから見ても、拙いと思えるほどに行儀が悪く見える。
それをみて、彼女の後ろに控えるお世話係のナターシャが鋭い眼光を走らせながら、耳元で低い声で一言、二言、囁いていた。
「わかった、もうしない」
「それなら宜しいのです、姫様」
何を囁いたのかは不明だが、パトリシア姫の青い顔をして怯える様を見れば、おおよその検討がつき、ご愁傷さまと手を合わせるしか出来なかった。
「それで、パトリシア姫に質問があるんだけど……」
エゼルバルドも同じ疑問を抱いていたが、ここは女性のヒルダから聞いて貰う方が良いと考え彼女が幾つかの質問を投げ掛けたのを横で黙って見ている事にした。
「なんじゃ?答えられる事だったらなんでも答えるぞ。そなたらの祝いの場なのでな」
「まず一つ目なんだけど、わたし達の結婚式に来ようと思ったのはいつ。そして、この一連の首謀者はパトリシアでいいの?」
パトリシア姫は何でも答えると告げたが、おおよその質問内容は予想していて、その答えを当然の様に用意していた。
その予想は、ヒルダから告げられた質問を耳にして合致しているとにやりと口元を上げるのだった。
「それなら答えても良いぞ。まず、計画自体をお主らが妾の下を訪れた時だな。首謀者、と言うと印象が悪いので計画立案者とするが、お主らの予想通り、妾である。まぁ、カルロの奴も計画の一端は担っているがな」
結婚式が終わった今、これ以上隠す事も無いだろうと、パトリシア姫は正直に明かした。
計画立案者はパトリシア姫、そして、詳細な計画を組み上げたのはカルロ将軍となり、騎士団や諜報部隊を絡めての極めて大掛かりな悪戯を実施したとも話した。
この計画、いや、パトリシア姫の悪戯には国庫からの運営資金も出ていた。悪戯にではなく、カルロ将軍がブールの街への視察も兼ねており、当然ながら騎士団や諜報隊、それに
それだけの人員を投入出来ていたからこそ、ブールの街を逃げ出そうとする深緑の服装をした集団から幾人かを捕まえる事が出来たと言えるだろう。
「なるほどね、パティの他に、カルロ将軍もね……」
「ま、そうなるな」
ヒルダに答えながら、今度は怒られまいと取り皿にオードブルを乗せフォークで口に運ぶパトリシア姫であったが、質問を口にした彼女から視線を外してしまい表情が変わり行く事に気が付いていなかった。
それはマナー通りなのかとパトリシア姫の一挙手一投足に視線を向けていたナターシャも同じであった。
「それで、どうしてこんな計画になったのかしら?」
「それはだな。妾が王城からブールへと向かうなど許してくれんから、時期をずらして貰った。ちょうど、お主がドレスを仕立てると報告にあったので、職人に協力を要請したのじゃ」
さらにテーブルのオードブルをこれでもかと取り皿に乗せながら答えて行く。
「なるほど、シスターも職人のアデーラさんも知ってた訳ね」
「ま、そうなるな」
「それで、後ろの方々を紹介してくださるかしら?」
パトリシア姫はまだ気付いていないが、ヒルダのこめかみに青筋を立て、ワナワナと肩を小刻みに震わせながら異なる五色の腕輪をしてドレスで着飾った五人の紹介を、と頼んだ。
「ああ、彼女達は
そういうと、もうお腹いっぱいだと取り皿をテーブルに片付け、口を拭きながらヒルダに視線を戻した。
そこで初めて、ヒルダだけでなく、エゼルバルドのこめかみにも青筋が浮かび、肩を震わせていると気付いた。何か二人を怒らせるような言動をしたのかと思い出しても、ただ答えただけだしと首を傾げる。
実際、パトリシア姫が悪気があって食事をしながら話をしていたとは思っていなかった。だが、五人のうち、一人に
「では、パティにさらに質問です。とある女性が、楽しみにしていた結婚式の当日に、目の前でドレスを盗まれました。そして、取り戻したのですが、そのドレスは血まみれでさらにそっくりな偽物でした。彼女はどう思ったのでしょうか?」
さすがにヒルダからの言葉を耳にすれば、自らの言動に問題があると気が付いた。パトリシア姫の目の前では、こめかみに青筋を立て、目元は座り、そして口は引きらせている。あと少し、燃料を投下すればどうなるかは彼女でもわかった。
それを鎮めるには当然ながら目の前の二人から燃料を抜き取らなくてはならない。
「あぁ、うぅ、わうぅ……。すまん、申し訳なかった」
パトリシア姫は王女との立場も忘れて、そして、ここがパーティー会場で人の目があると知りながらも、涙目になりながら二人に頭を下げた。その姿は王族らしく、背筋がピンと伸び、何処から見ても美しい謝罪であった。
頭を下げて謝る姿を見れば、ヒルダもそれ以上は怒る気も失せ、息を”はぁ~”と全て吐き出した。
「まぁ、いいわ。本来なら、地面に手を付いて謝って貰うつもりだったけど、許してあげるわ。友達だからね」
「ほ、本当か?」
「ええ。た・だ・し、借り一つよ」
王族相手に借りを作るのも可笑しな話であるが、これ以上パトリシア姫を醜聞の的にされても困ると早々に頭を上げて貰う。
借りを作ってしまったが、それよりも、ヒルダから”友達”だと告げられたことに無類の喜びを感じるのだった。
王家に連なる一人として、どうしても孤立しがちなパトリシア姫には心を許せる知人は少なかった。お世話係のナターシャに愚痴をこぼすこともあるが、それは業務の一環として聞いているだけであり、完全なパトリシア姫の味方では無い。
それだからこそ、ヒルダから”友達”だと耳に届いたときは飛び上がって喜びたいと思った程だった。
いろいろと手を回して、最終的にはヒルダとエゼルバルドの二人から冷たい視線を浴びる事になったが、”友達”だと告げられた事が王族として生まれて、一番嬉しかった事となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
エゼルバルドとヒルダの結婚式はこれにて終わりを告げたが、この時から年が明けて四月に掛けてのトルニア王国には粛清の嵐が吹き荒れた。
一つが、トルニア王国の象徴である王の居城と各貴族の所領で、大掛かりな人員の交代劇あった。
その年の寒い時期である一月より事の起こりが始まった、王都での散発的な事件の容疑者として北部三都市に容疑が掛けられた。
そして、都内での事件の他にも、ルストで治安維持の責任者を務めるアドルファス男爵とその家族、殺害容疑も同時に掛けられ、今や北部三都市は財政的に窮しトルニア王国から国土を切り取るどころか領主の身すら危うくなった。
ただ、完璧な物証があり得ぬ事から当主の首は皮一枚でつながり、家督を譲り隠居させるまでで終わりとした。
当然ながらこの件に関しては捜査続行となり、確たる証拠が現れた後には隠居の身とは言え刑に処される事になる。
そして、諜報員の活躍により判明した事が、ディスポラ帝国からの干渉だった。
北部三都市の元当主共と繋がりを持ち、トルニア王国からの独立をと良からぬ考えを吹き込み、そして、少なからず財政支援も行っていたと判明した。
この件に関しては元の当主からは一切否定され、調査続行案件とされた。
最大の捕り物劇は、王城での出来事だった。
王城で働く数千人の内、約一割が北部三都市と何らかのつながりを持ち王城を追われたと表向きはなっている。
しかし、その裏では半分が即座に打ち首になり、半分が取り調べを受けた。その結果、歩いて王城を後にするより棺桶で入れられる方が多かったと噂されるのだが、情報が市民にまで降りてこないので不明のままだった。
トルニア王国ではこのように、外部からの干渉を排し健全な国家運営に戻ったかに見えた……。
翌年には、パトリシア姫の結婚も決まり、平和な時が訪れるかと見られていたが、それはわずかな間だけであり、その間にも魔の手は各国に伸びていたのである。
当然ながら、トルニア王国にも一度退けた魔の手が再び伸び始める。
この時、戦乱が再び訪れるなど、この平和な時代に誰が予想だにしたのだろうか?
帝国を中心とした戦乱がすぐそこまで訪れていたのである。
※これにて第10章は終わりになります。
北部三都市が独立しようとしていたこと、帝国の魔の手が伸びていたこと。
そして、二人の結婚式。
全てではないですが、11章に続いて行きます。
後の謎は人と亜人の混血児、そして、薬物?
これ以上言っちゃうと、あれ、なので。
とりあえず、章題の「誰がための結婚式?」はなんとなくわかっていただけましたでしょうか?
エゼルバルドとヒルダの結婚式なのに、出席するために姫の我儘……。
三話程、閑話がありますよ~。
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