第十三話 ヴルフとの別れ【改定版1】

 翌朝、ヴルフとスイール、そしてヒューゴの三人は守備隊の詰所に揃って姿を現したいた。夜の間に捕まえた、モーリーとその実行部隊の二人を尋問するためである。


「お前達も変な事件に首をつっこむなぁ。で、何でウチ詰所の牢にあいつ等が入ってるんだ?」


 詰所の地下にある牢に向かう途中で、詳しい事情をジムズが問いただす。


「モーリー、ってのが、ギルドで依頼を出されていた手配人で捕まえたんだが、そのギルドに手下が忍び込みやがって、脱走を手伝いやがった。スイール殿が怪しいってんで、罠を仕掛けて、ギルドの建物から出てきた所をこの三人でとっ捕まえたんだよ。で、ギルドの牢じゃ心配だから、常に誰かが常駐してる詰所の牢を借りたって訳さ」


 ジムズの問いかけに、ヴルフはぶっきら棒に説明をした。それをジムズが”なるほどな”と声に出しながら首を振のだが、その顔は何故か暗く冴えない表情をしていた。

 その表情が気になり、スイールが気になる事でもと聞いてみる。すると……。


「こんな面白い事をオレに黙ってるなんて、酷いじゃないか!」


 ジムズは何故、声を掛けてくれなかったのかと嘆くのであった。


 ジムズが嘆きの言葉を発しているうちにジムズを加えた四人は地下の牢へと到着する。牢には昨晩捕まえたモーリーと実行部隊の二人だけが見えるだけで、他には誰も見えなかった。誰もいないのであれば、モーリー達三人は当然のように別々の牢に入れられている。


 その牢の前で足を止めてみれば、三人ともが酷い格好をしていた。


 モーリーは右肩を固定され、首から右腕をバンドで吊り下げられている。

 シャツの隙間から見える包帯が痛々しい。


 スイールと対峙した男は、回復魔法ヒーリングを掛けられてはいたが、骨折が完全に治らずに今もうずくまって死んだようにピクリともしない。だが、足音が聞こえていたからか、顔だけは四人を鬼の形相で睨んでいる。


 ヒューゴと対峙した男は、鞭を食らった顔面を横切るように皮が剥け、水膨れが出来、見るからに痛々しい顔を見せていた。顔の筋肉を動かすと傷に障るのか、無表情を貫き通してもいる。


「お前たち、この三人に向かって、そのくらいで済んで助かったな。もしかして、この三人知らないか?」


 ジムズの問いかけに三人はプルプルと顔を横に振った。名前を聞けばわかるだろうが、顔を見た事が無ければ当然首を横に振るだろう。


「ブールの街で有名な魔術師スイール、ギルドの支部長ヒューゴ、伝説の”速鬼そっき”のヴルフだ。お前たち三人が逆立ちしてもかなわんぞ」


 その有名な三人の名前を聞いた牢の中の者達は、青白い顔で愕然とした表情を見せ、この世の終わりだと頭を抱えていた。


「相手を見てからケンカはするもんだぞ」


 ”ヒヒヒ”と、不敵な笑いを見せながら、ジムズが彼等に追い打ちをかけた。これに懲りて犯罪から手を引けば良いと考えるが、牢に入った時点で時すでに遅しである。


「牢を貸してくれて助かった。モーリーはこちらで王都まで連行するが、その二人はこの男の部下に当たるから、適当に尋問でもしてくれるといい。詐欺集団が見つかるはずだからなぁ」


 知っている様な口調で、ジムズに尋問する様にとヴルフが提案をする。ジムズはそれを聞かずとも、勝手に忍び込んだ罪を見過ごせず尋問する事は既に決まっていた。だが、その影から見える詐欺との犯罪が聞けるとは思わなかったようだ。


「それなら、早速、尋問する事にしよう。三人ともありがとうよ。で、感謝状か何かいるか?」


 ジムズは笑いながら箸にも棒にもならぬ紙が欲しいかと三人に尋ねる。尤も、保存性を考慮して紙ではなく、羊皮紙なのだが。


「そんなもんいらんよ。貰ってたら飾る壁が無くなっちまう。それよりもだ、こいつらがカギを開けやがったから他の鍵に付け替えねばいかんから、カギ職人と打ち合わせだ。まったく、余計な仕事が増えたよ」


 感謝状などよりも、自らの職場が抱えるセキュリティに頭を悩ませている様だ。本来なら人が常駐するところを、わざと無人にしてどの程度かを見定めるつもりだったが、あっさりと鍵が開けられ頭を抱えていた。

 緊急時に無人になる可能性もあって、丁度良い試験だったが、結果はあまりにも酷かった。


「たまに魔法を使わないと手加減がわからんから、練習できた今回のは助かったよ。当然、それはご辞退申し上げます」


 魔法を発動する訓練を常にしているスイールだったが、人を殺さぬように無力化させるには経験が大事なのだ。ただ、彼の発言が人体実験をしている様で、その居合わせた皆からは乾いた笑いを誘っていた。


「依頼人から賞金が出るからいらないな。これから王都に連れて行くのは時間がかかるからちょっと憂鬱だけどな。まぁ、馬車が使えるから楽だけどよ」


 ヴルフも感謝状は必要ないと断った。モーリーが捕まって一応は”ホッ”としているが、王都への連行で何日も掛かると、気分は沈んでゆくのであった。




 守備隊の退位らに連れられ、後ろ手に縛られたモーリーが牢から出され、ヴルフ達の前に連れて来られた。彼は打てる全ての手を出し切ったのか、この世の終わりが来たかの表情を見せていた。

 王都へと連れて行かれて、最悪は拷問を受ける事になるのだ、陰鬱な気持ちになるのは仕方がないだろう。


「これから乗り合いの馬車で王都まで連行だ。なんにしても感謝している」


 ヴルフは感謝の気持ちを込めてジムズへ頭を下げる。


「おう、気を付けてな。今度会ったときはお手合わせ願いたいな」

「こちらこそお願いします。守備隊長の腕がどんなにすごいか楽しみです」


 剣を握るようなしぐさを見せて、ジムズはたった一日しか滞在しないのを残念がった。ヴルフも守備隊の隊長にまでなった、その実力に興味を持っていたのだ。


「いやいや、伝説の”速鬼そっき”にはかないませんよ。それより、王都までの護衛に誰か付けましょうか?」

「え、それは良いのか?付けてくれるんだったら、助かるが……」

「若い衆を同行させる。ちょっと待っててくれ」


 ジムズの突然の申し出に驚くヴルフ。乗合馬車に乗るとはいえ、一人で連行して逃げられてしまう可能性も捨てきれない。そこに一人でも同行する兵士がいれば、逃がす心配は下げられる。

 ヴルフはその提案にありがたいと飛びついた。


 そして、しばらくしてジムズが二十歳に満たないであろう、若手の守備隊の隊員を連れてきた。


「【アラン】です!!よろしくお願いします」


 その彼はやる気にみなぎっており、ヴルフへ向かってビシッと敬礼をした。


「急だったけど、腕の立つアランが行ってくれることになった。彼には半分休暇だと思えと伝えてある。王都に行ったら観光にでも連れてやってくれるとありがたい」

「半分休暇なのか?まぁ、王都の観光くらい、お安い御用ではあるが」


 半分休暇と伝えられ半信半疑なヴルフだった。その、同行するアランは初めての王都へ行く事が出来て、少し緊張しているようだった。だが、口角が上がり笑いを堪えているのがわかるのである。

 気持ちは正直なアランであった。


「さて、そろそろ王都行きの停車場に行くとするか。お世話になったな。それではアラン、行くとしよう」


 一言二言お礼を伝え、アランにモーリーの縄を持たせて、重い荷物を担ぎながら二人は王都行きの馬車が出る、停車場へと向かった。


「私達は、ようやく平穏な暮らしが戻りそうですね」

「ギルドのドアの鍵だけは交換しないとな」

「あんたらはそれでいいけどよぉ……。オレは仕事が増えたぞ。なんだ、あの牢の二人は、まったく……」


 まだ牢に、尋問すべき男達がいる事から、守備隊の詰所の入り口でヴルフとアランを見送った。

 その後ろ姿を見送りながら、ジムズは仕事が増えたとスイールとヒューゴに向かって毒を吐く。


 だが、その愚痴を聞いても、”仕事がある事は幸せではないのか”と二人はジムズに笑って返すのであった。




 そのジムズに笑って返したスイールとヒューゴだが、ジムズの幸せな仕事に付き合い、地下の牢へと足を運んだ。

 そして、モーリーの手下として働いていた二人に尋問を始めた。


「お前達も貧乏くじ引いたもんだな、あんな小者に仕えて。報酬はよかったのかな?」


 生命の危険がないくらいまでに回復魔法ヒーリングを当てて回復させてある、牢の中の二人にスイールは問いかける。だんまりを決め込んでいるのか、自らの名前すら語らぬ二人に、あきらめ気味に溜息を吐いた。

 これ以上は何も語らぬならば、守備隊に任せて帰ろうかと踵を返して帰ろうとした。


「おいおい、何か喋れよ、口が無いのか?」


 スイールの行動を制止する様に、口を開かない牢の中の二人に怒りを孕んだ、少しぶっきら棒な口調でヒューゴが怒鳴り声を上げた。


「ふん!お前らにマスターの事などわかるもんか」


 固く閉じていた口が開いたと思ったら、機嫌悪くモーリーの事を悪く言ったスイールとヒューゴを睨む。雇い主であったモーリーを随分と信じている様であるが……。


「お前らの事などわからんし、知りたくもないさ。モーリーはお前達にとって良い雇い主、って訳だったか、金銭的に。ただ、はっきりしてるのは、お前達が年貢の納め時って事だけだ」

「顔の知らぬ相手が、どんな呼ばれ方をしているなどわかるものか!」


 先程もジムズが話したが、雲の上の存在の顔など知りえないでいたのだ。ただ、まっとうに生きていれば、スイールやヒューゴの顔は街中やギルドでお目にかかれたと思えば、地下組織にくみしていた彼等の情報収集不足だろう。

 尤も、スイールやヒューゴの顔を知ってても、襲撃したあの雲がかっていた夜では顔を見る事は不可能であっただろう。


 そして、怒ってもここから逃げられるわけでも無しと、気を静めて行くのであった。


「私からは最後の質問だが、お前たちの詐欺の対象は、どこから見つけてくるんだ?何らかの情報源を持った部下がいるのか?」


 ヴルフから詐欺集団の手掛かりが見つかろうだろうと言われた事が脳裏に残っていたために、スイールは気になった事を彼らに聞いてみたのである。


「フン、そんな重要な情報を言う訳が無いだろう。どうせ縛り首になるんならヒントだけでも出してやるか。お前達がよく見る新聞やギルドの依頼書を眺めてみるんだな。そうすればわかるはずさ」


 全ての手の内をさらしては、同業者の連中に迷惑が掛かるとしながらも、内心は”どうせ助からないのだから”道連れは多い方が良いだろうとヒントを出す事にした。


「なるほど、そういう事か。ありがとう、教えてくれて。刑を軽減する様にジムズが図ってくれるらしいから、尋問では正直に話すのですよ」

「こら!オレはそんな事、言ってねぇぞ?」


 冗談は態度だけにしてくれとジムズは頭に手をやって嘆くのだが、重要な情報を教えてくれた二人には是非とも生き残って欲しいと思いながら、地下牢を離れるのであった。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 その後の守備隊の尋問で、モーリーを主としていた詐欺グループ集団の存在がおおやけになった。そして、数か所の拠点が一斉摘発にあうと、その場に居合わせなかった数人を覗いて十数人が捕まった。


 そして、捕まった者達にも厳しい尋問が行われ、詐欺グループの全容が明らかになる。

 それによると、ブールの街を拠点とし、近隣の村や街などでかなりの詐欺を働いていたとわかり、ブールから連行された別の街で裁かれたのだ。功績はブールの守備隊が全て持って行ったのだが。


 そして、詐欺グループのいなくなったブールの街は、多少は綺麗になったかな、とジムズや守備隊の隊員は喜んでいたようである。




    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 それから月日は流れ、エゼルは十歳を迎え、さらに半年が過ぎようとしていた。

 街の周辺では冬の間に降り積もっていた雪が溶けて茶色の土が現れ、種まきが始まる心地よい季節を迎えるのであった。

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