隣との距離-Hiro said-
二一十 遙
プロローグ
「席替え」それは学生にとって、大変重要なイベントだと思う。そして俺が静かなる学校生活を過ごせるかどうかは、これにかかっていると言っても過言ではない。
理想はやっぱり後ろの方で、できれば窓側がいい。隣は静かな奴が来てくれると最高だ。が、
「終わった……」
クラス1うるさい奴が隣になってしまった。俗に言う「陽キャ」ってやつだ。
「おっ倉野広樹くんだ、よろしく!俺のことはねっしーとかしろろんとかそうちゃんとか読んでねー」
羽城颯太。明るくていつもみんなの中心にいる、俺とは正反対の奴だ。
そんな奴にいきなり話しかけられたコミュ障の俺は、当然すぐ返事することもできず。「あ、あう、、あ」という変な声を出してしまった。
羽城の周りの席になった女子たちが「何そのあだ名ー」と笑い合っている。……絶対俺が入っていけない領域だ。
「……じゃ、じゃあ羽城で」
流石にあだ名で呼ぶのはきつい。まあこの先名前を呼ぶなんてこともないだろうけど。
やっとの事で答えた俺だったが、しかし羽城は頰をぷくっと膨らませ、「だーめ」と言った。
えぇ……。
「なんかあだ名つけてくれないとだーめ!」
これは大変なことになった……
するとまた近くにいた女子が「もー倉野くん困ってるじゃん」と会話に入って来た。
「だってあだ名つけてほしいじゃん」「意味わかんなーい」「えー」などと言い合っている。
いつまでたっても終わらなそう。というかここであだ名つけなかったらこの先ずっとなんか言われそう。言われ、そう……。
「……そう」
羽城の動きがぴたっと止まる。……そんな変なあだ名だったかな。
「そう、か。いいね!気に入ったよ。じゃあ俺はひろって呼ぶね」
ひろ、か。悪くないかも。……いやいやいや、この先話すことなんてさほどないだろうし、別にどうでもいいことだし。
「よろしくね、ひろ」
けれどなんだろう。「ひろ」と読んだそのそうの太陽のような笑顔に、少しほだされかかった俺であった。
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