そのまま、

お題:あなたはきっと気付かない


「あーあ。」

また逃げ出してしまった。

これといって何かあったわけじゃない、平凡な日常。

そんな空間に居られなくなったのはいつからだろう。

…最初はちょっとした居心地の悪さだった。

同じ教室内でわざとらしく離れるのもおかしな話だなって思って、ふと教室から出たのが発端だろう。

それから、段々と教室にいることが苦痛になっていった。

今では、休み時間になる度に教室から逃げ出してしまっている。

何かあった時は友達を呼んで話を聞いてもらうこともあるけど、あまり呼びたくない。

自分の弱さを曝け出すことはいつだって怖い。

そして、何も無い時癖に泣いてしまう。

泣きたいわけじゃないし、何もないけど涙が出るのだ。

この弱さは誰にも見せたくないし、見られたくない。

きっと、怖いのだ。敵意も、好意でさえも。

全ては敵意を隠すためのフェイクなんじゃないかって、どうしようもない不安が襲ってくる。

「学校じゃなきゃ、傍にいてくれるんだろうけど」

彼なりの気遣いだろう。

私が必要以上に人の目を気にするから。

「学校での弱さは誰にも見せたくないからなあ」

きっと、泣いていることには気付いていても、本質は気付いていない。

どうか、そのまま。

「気付かないでいて」

なんて、自分の気持ちに嘘をついて誤魔化し続ける。

いつか限界がくるその日まで、こうやって誤魔化してしまうだろうな。

本当は気付いてほしい。傍にいてほしい。

そう思ってしまう私は欲張りだ。


  *


「あれ?」

教室に戻ってきたクラスの女子がキョロキョロと辺りを見渡す。

そういえば知心がさっき出て行ったな。

きっと会わないように出たんだろう。

「優君、知心ちゃんどこにいった知ってる?」

知心のことは俺に聞けばわかる、みたいな認識なんだろう。

「んー、ゲームしてたからわかんないかな」

嘘。本当は出て行ったことも、こういう時にどこに行くかも知ってる。

ただ、誰にも言わないで出たということは誰にも会いたくないのだろう。

ここで教えてしまうのは知心を苦しめてしまうことになる。

「そっかぁ…」

「何か用事あったの?」

「ううん、そういうわけじゃないから大丈夫だよ」

「そっか」

多分、話し相手が欲しいのだろう。いつも知心といたし。

話し相手を作ることで寂しさを紛らわせて安心したいのだろう。

そんな無粋な予想を立てながら手元に目線を戻す。

滑らかに動くゲーム画面。

さっきほど、内容が頭に入ってこない。

知心は気付いていないと思ってるんだろうけど、休み時間毎にいなくなる理由なんて想像に容易い。

本人が耐えきれなくて、泣きながら俺を呼び出したあの日になんとなく悟った。

怖いのだろう。人の敵意が。

例えそれが、自分に関係ないものだとしても。

そんな空間にいることに恐怖を覚えているんだと思っている。

俺は、呼び出されない限り行かないようにしている。

学校で下手に傍にいると、周りの目が尚更彼女を苦しめることになる気がした。

彼女は誰よりも人の目を気にするから、俺は今日も気付かないフリをする。

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