甘党

お題:ザッハトルテ


ザッハトルテ。

チョコレートの王様とも呼ばれるお菓子。

テレビの中でタレントが大袈裟なリアクションをとっている。

そんな映像をぼーっと見ていた優が、何か思うところがあったのか口を開いた。

「ザッハトルテだって」

「知心はやっぱり食べたいなーって思うの?」

私がチョコレートを好きだと知っているからこその質問だろう。

安物のチョコレートを頬張る私を面白そうに見ながら問いかけてくる。

なんとなく予想してた問いだった。

「私、ザッハトルテ好きじゃないよ」

予想しない答えだったのだろう。

きょとん、と驚いた顔を見せる。

その顔が何だか可笑しくて、笑いそうになってしまった。

「意外」

「チョコレート好きなのに、チョコレートの王様は嫌いなんだ?」

少し厭味たらしく言う。

不敵というか、面白いおもちゃを見つけたような笑みを浮かべる。

その表情はちょっとずるいと思う。

「だって、フルーツジャム使ってるんだもん…」

私はフルーツが大嫌い。

食べれるものもあるし、苺とかは好きだけど。

ジャムにされると全く食べれないのだ。

食べてもぞわぞわしておいしいと思わない。

その返事を聞いて合点がいったのだろう。

なるほど、と呟いた。

さっきまでの笑みはどこにいったのか、いつも見せる表情に戻る。

人の表情がコロコロ変わるという割には彼もよく表情が変わるので、人のことを言えないのでは、と心の中でツッコミを入れておく。

「でもジャムなかったら、くどくて食べれなさそうだね」

それを真面目に想像したのだろう。

少し嫌そうな顔になる。

甘いものが苦手なくせに、想像力を働かせすぎるからなのではないだろうか。

「私はチョコ好きでもチョコケーキとかはそこまで好きじゃないんですー」

よく甘党といわれるが、実際はミルクチョコ以外の甘いものはそこまで好きじゃない。

餡子に至ってはむしろ苦手だ。

自分のことだが、かなりの偏食だと思う。

「甘いだけのも辛いけど、マーマレードとかあるよりは平気だもん…」

「ジャムに恨み持ちすぎじゃない?どんだけ嫌いなのさ」

子供のように拗ねる私を見て堪えきれなかったのか、肩を震わせながら笑う。

「なにさー」

わざとらしくそっぽを向く。

自分でやっておきながら、子供っぽいと思った。

「ごめんごめん」

未だ笑ったまま、私の頭を軽くなでる。

本当に子供扱いされてる気がする。

これでも同い年なんだけどなぁ…。

「でも、体弱いんだからもう少し好き嫌い減らした方がいいんじゃない」

「特に胃腸弱いんだし」

私が病弱なのもあって、心配してくれたのだろう。

彼は優しい。

気配りは苦手らしいけど、ちゃんと人のことを見てると思う。

「偏食で悪かったね」

実際に食べれないものは多い。

それこそ、吐き出してしまうくらいにダメなものもあるくらいだ。

まぁ、食わず嫌いも結構な種類があるけど。

「食べれないのは仕方ないと思うんだけど、食わず嫌いは直さないとね」

悪戯っぽく笑いかける。

きっと食わず嫌いに気付いてるんだろう。

「優くんは甘くないんですね」

負けを悟ったが、せめてもの反抗をしてみる。

「甘いだけじゃくどいし飽きるから、たまには酸っぱくないと」

口に含んだチョコレートはくどいくらいに甘かった。

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