第40話 女子高生だけの制圧計画
数分前。
私たちが店を出て、通路を歩いて出口へ向かう途中、真希がふと口にしたことがあった。
「そういえば、待ち合わせてたカフェからエレベーターまでの道のりが複雑だったのって、私たちが簡単に辿り着けないようにするためだったのかな?」
「それは、待ち合わせ場所に、ってことですか?」
「いや、その逆。万が一にもカフェで度会って犯人から逃げられた時、エレベーターが近ければすぐに逃げれるでしょ?」
「なるほど……それは考えられるわね」
でも、もしその仮定が正しいとしたら、敵は一応私たちを警戒していたということだろうか。
「そうだとしたら、近くに敵がいる可能性も……」
「シッ!静かに!」
私の言葉を遮るように、真希が珍しく真面目な声を漏らす。
「遠くから、足音がするよ……」
このタイミングでこの子が冗談を言うとは思えない。
現在、私たちはとても広い空間に来ていた。
所々に大きな柱があり、宮殿のような雰囲気を醸し出している。
確か地図に名前が無記載だったから、ただの通路といったところだろう。随分と特殊なデザイナーがいたものだ。
とにかく、私は真希の言葉を信じて、しっかり耳を澄ませ……澄ませ……澄ませ…………?
「……聞こえないよ」
「ええっ!?」
「そういえば真希さん、特に耳が良いんですよね?」
「あ、そういうことか」
真希が必死に首を縦に振っている。どうやら嘘ではなさそうだ。
「でも本当に何も聞こえない……今度、あなたの聴力を計測する必要があるわね」
「あ、こっちに来るよ!隠れよう!」
3人で近くの柱へ逃げ込むと、真希が遠くを指差す。
私が目を凝らしていると——
「……あれは、作業員か?」
ツナギらしいものを着た男がウロウロしている。動きは明らかに挙動不審だ。
「え?美咲さん見えるの?何も見えないよ?」
「美咲さんは目がとても良いんですよ」
「あ、そういえば言ってたね」
またしても江の解説で納得しているが、私にはその意識がない。部長や江が勝手に言って頼ってるだけ。
「その作業員は、武装しているんですか?」
「いや、ちょっと遠すぎてハッキリとは見えないけど……青いツナギであることは間違いないわ」
私はふと、さっきの度会のことを思い出す。
あいつは、腰のポーチらしきものに銃を備えて、17時に大きな揺れが起こるまではただの店員として振舞っていた。
もしあそこの作業員と度会が同じ系統の犯人、つまり潜入者的なポジションなら、あいつも度会と似てる装備をしている可能性が高い。
同じことを考えたのか、江が私を見て1
「もしその作業員もあれくらいの武装なら、私で制圧できます」
「ちょ、江ちゃん?制圧って……?」
「よし分かった」
「何が分かったの美咲さん!?」
相変わらず慌てふためく真希を余所目に、私は江の力量を信じ、行動に移すことを決める。
江の戦闘能力を知っているのは、この世界でごく僅かだろう。部長が知ってるのかすら怪しい。
「私と真希が敵の意識を引きつけるわ。江は近くの柱に隠れて敵の隙を伺って」
「待って下さい。ここからそれをすると、あまりに遠すぎます。2人が移動するとなると、必然的に敵も動くことになる。となれば、私がバレるリスクが高くなるかと」
つまり、敵に近づくのと同時に、江の存在を隠す必要がある、ってことか。状況としては、明らかに無駄な動きが許されていない。だが、このまま何もしないのは自分たちの首を絞めるだけ。
「……これは賭けになりますけど、3人で一緒にある程度動きましょう。敵も馬鹿じゃないから、私たちを視認したらまず、私たちの行動に疑問を覚えて考察し始めるはずです。そこで」
と、江は私に視線を向け、
「美咲さんは、どうにか敵の意識を確認して下さい。いつか必ず敵が余所見をする瞬間がある。そのタイミングで私が近くに隠れれば……」
「あなたの存在は敵から見えなくなり、さらに敵は人数が減ったことに驚き、私たちに接触しようと早とちりする。そこで私と真希に気を持っていかれた敵を、江が隙を突いて制圧するのね」
江の作戦を理解した私は、江の桃色に染まる頬が少し持ち上がってるのに気付いた。
真希の聴力、私の視力、そして江の心理学的思考力が、完璧に噛み合った結果の作戦だ。穴が無いわけでは無いが、埋めれない穴ではない。
「行こうか」
——数分後、私は敵の後頭部に銃を突きつけていた。
——形勢逆転、だな。
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