第15話 女子会推理ショー開始

 スマホが示す時間は9時ぴったり。

 私は朝のホームルームを終え、青里さんと緑橋さんと打ち合わせた場所にいた。

 私たち3人は、今回の事件で白澤くんが例の予告状を真に受けている理由を推理するために集まろうということになった。

 気を利かせて2人の分の飲み物を買っておいたが、もし自分たちで買っていたらどうしようか……。

 そんな不安を感じていると、近づく影に気づいて顔を上げる。

「お待たせ、行こうか」

 字面だけ見ると彼氏が待たせてた彼女に対するセリフのようだけど、これは青里さんの言葉だ。かなり落ち着いているタイプのやつ。

 よっぽど考え事が頭を占めているのだろう、いつもより淡白な声だ。

「緑橋さんはまだ来てないみたいだけど……?」

「ああ、江なら購買のベンチで待ってるわ。早く行きましょう」

 そう言うとさっさと歩きだし、私は小走りで彼女に追いつく。

 そして左に位置を付けると、さりげなく質問をしてみる。

「ところで……白澤くんがあの予告状を信じた理由、見つかった?」

 すると青里さんは自虐のように薄く笑い、

「いいえ、全く。……情けないわね、私は部長と違って情報収集能力が低いの」

「部長と違って?」

「……部長は、他人ひとからは見えない協力者を色々な場所に持っているの。勿論この学校にもね。一方で私や江は、人脈が無いからその場で情報を集めないといけない。基本的には事件が起きた現場で即座に証拠を収集するから問題ないんだけど、こういう時の部長には勝てない」

 なぜか独白に近い話し方をする青里さんに疑問を感じつつも、特に言及はしない。

「もちろん事件が解決するなら私としては構わないけど、部長は違うの。彼は自分の最終的な『目的』を達成するために行動してる。全ての行動は、彼の『目的』達成のためにある。だから今回もきっと裏が……」

 そこまで言って青里さんは、足を止めて私と目を合わせる。

「話し過ぎたわね……今の、江には内緒よ、絶対に」

「は、はい」

 あまりの眼光に恐縮してしまったが、その眼差しも青里さんの焦りから来たものだろう。

 ついつい余計なことまで口を滑らしたことへの焦燥が声色から聞き取れる。


 しかし、白澤くんのことをそこまで気にかけてるとなると、まさか……

「ひょっとして青里さん、白澤くんのことが好きなの?」

 少し生意気なにやけ顔で訊いてみた。もしビンゴなら、いつもは冷静な青里さんも顔を赤くして否定するだろう。

 ところが、クールな同級生は大人な微笑みを携えたまま、


「だとしたら、どうするの?」


 それは、別に圧力をかけてるわけでもなく、思春期特有の照れ隠しでもなく、純粋に疑問を尋ねただけだった。

 しかしその柔らかな返事と表情は、私にさらなる追求を不可能とさせた。

 ミステリアスな雰囲気に、その先へ踏み入ることを封じられた気が……

「あ、そうそう。1ついいかな?」

 ボーッとしてしまった私は、青里さんに肩を触れられて思考を戻す。

「な、何か?」

「ずっと江のことを苗字で呼んでるみたいだけど、良かったら下の名前で呼んであげれる?さっき言った通り、あの子は友好的な人がいないの。仲の良い『部員』ならいるけどね。だから距離を縮める第一歩として、呼び方から変えて欲しくて」

 し、下の名前?私が『江ちゃん』って呼ぶの?

 なぜそんな頼みごとをしてきたのか、私には予想すら立たなかったが、とりあえず眉をひそめることで意思表示をする。

 それを見た青里さんは私に背を向けて、

「難しいと思うから、あなたが心を開いてからで構わないわよ」

 そう言ってまた私を置き去りにして歩きだした。




 ※※※




「あ、2人とも。お疲れ様です」

 そんなこんなで時刻は9時10分。

 今ごろ白澤くんは宝石の監視にいそしんでいるのだろう。

 私たちに労いの言葉をかけてくれたのは、ベンチに座ってメモを書いていた緑橋さんだ。

「遅くなっちゃったね、江」

「いえ、私としては頭の中を整理する時間が貰えたので、構わないですよ」

 そういうと緑橋さん……えっと、江さん?はメモ帳を差し出した。

「これは?」

「今回の事件で私たちが得られた情報をそこにリストアップするよう、美咲さんに頼まれたので」

 メモ帳には箇条書きでいくつもの情報が記してあった。いずれも私が知っていることだ。

「多分、部長は私たち以上に情報を持っている。けど、私たちにはこれ以上情報を得る時間もすべもない」

 そう、この話し合いが出来るのはあと40分と少し。タイムリミットは白澤くんと青里さん、が入れ替わるまでだ。

「そもそも、最初に違和感があったのは『予告状が届いた日』よね」

「そういえば、あの日は予告状が届いたってだけで部長は護衛することを決めてましたね」

 確かに、あの時点では私たちと白澤くんの情報量は等しいはず。っていうか……

「あのー、そもそも、白澤くんは犯人が分かってるのかな?」

「どうだろうね。ただ、私も犯人像がイマイチ見えてこないのよ」

 あの予告状、犯人像どころか動機や意味すら見えてこない。

 予想なんて立てようと思えば幾らでも立てれるが、証拠も根拠も無い以上、そんなのは時間の無駄だろう。

「もっとも、あの予告状が無意味なものなのに、白澤くんが真に受ける要素はどこに……」


「え?意味はあるよ?」


 その青里さんの言葉を緑……江さんも肯定する。

「確定はしてないですけど、大体の目星は付いてますよ」

「あ、あれ?ひょっとして2人とも……?」

 今回ばかりは3人仲良く迷宮入りだと思ってた自分を殴りたい。

 この2人を前に、やはり私は置いてかれるのか……。

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