小話 とある父親の悩み



私には息子と娘がそれぞれ一人ずつ居る。

息子は今は王都で学生を謳歌している。

成績も優秀で次期領主として私の跡をしっかりと追い付いて来てくれている。

今度、帰省で帰ってきたら何か良いものでもあげよう。


ふー、この溜め息はもう一人の愛しい娘に送ろう。


どうしてあの子は変わってしまったのだろうか。

少し前まで礼節を重んじる深窓の令嬢といった印象だった。

いや、妻によれば恋する乙女でもあるそうな。

父親な私は娘がどんな奴にと躍起にもなったもんだ。

少し調べれば以前娘を救った冒険者に恋を患っていると分かった。

街を収める領主として父親として娘の将来を考えれば、収入が不安定で死の危険が高い冒険者はおすすめしない。

しかし、恋も経験、それでまた一つ娘が成長するならしばらくは見守ろう。それにもしかしたらその冒険者が成功する未来もあるかもしれん。


だから、娘を温かく見守ろう。

そう思っていた、大事な娘が箱を頭に被って姿見の前で立つ姿を見かけるまでは。


一回素通りしてまた戻って二度見しちゃったよ。


もうこの時には娘は変わっていたのかもしれない。

恐る恐る姿見の前で箱以外の衣装変えをする娘に尋ねる。


「ど、どうしてその…箱を被っているんだ?」


「これは試練ですわ。愛のための試練ですの!」


そうか試練か…分からない。

瞳は狂った様子は無く、純真無垢なまま。


やはり分からない私は妻にも娘の様子を聞いた。

あれは愛ねと妻は言う。


そうか愛か…分からない。



私の不安は増すばかり。

ただ良い事もあった。

この国の第2王女であるソフィア様と娘がきっかけは分からぬが深く交流をしていること。

王族と繋がりを持てるのは一つのステータス、知らぬ内に貴族の心構えというものを培ったのだな。


けれど、談笑する二人を黒装束の集団が囲むように待機しているのは何故だろう。

この人達は仲間?

本当に大丈夫かい?

お父さん少し心配。



長々となってしまったがこれが私の溜め息の原因である可愛い娘の現状だ。

一時期、酷く憔悴しきって私は年甲斐も無く狼狽したが、今はすっかり元気に戻っている。



今日も王都からやって来たソフィア様と楽しそうにお話をしている。

もちろん、黒装束軍団付き。

悪巧みを計画しているように見えるのはお父さんが疲れているだけだろう。


そうであってほしい。





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