第2話 未来 ホワイトハウス


 ホワイトハウスには筋肉がいる。説明するまでもなく大統領のことだ。

 大統領執務室の扉をスーツを着た筋肉じゃない人物がノックする、中から「どうぞ」という声が聞こえると同時にノブを回して入室していく。

 その人物は大統領の秘書だった、大統領に用があってここへきたのである。


「大統領、また天井で腕立て伏せですか、たまに来る外交官から天井が筋肉臭いと苦情がきてますよ」

「では次から消臭剤を用意しておこう」

「それなら私がアンモニアの香りを用意しておきます」

「最高だな」


 そう言って大統領は腕立て伏せを止めて床へと降り立つ、その際筋肉迸る汗が華麗に舞散った。

 大統領は、ダイヤモンドでできた丸太のように逞しい腕を組んで秘書を見つめる。


「それで、なんの用だね」

「先月大統領が逮捕したマッドサイエンティストを覚えておられますか?」

「無論だ、我々が愛する自由の女神の膝元で手榴弾を出産して爆破テロした男だろ?」

「それは別の案件です。私が言っているのはラスベガスで暴れていたDr.タイムマンと名乗る犯罪者の事です」

「思い出したぞ、時間を操る男だったな」


 大統領はその場でスクワットをしながら思案にふけった。スクワットは大統領のシンキングポーズなのだ。これにより大統領の思考回路は筋肉みに溢れて活性化する。

 その活性化した脳を駆使して大統領はDr.タイムマンという強敵を思いだした。


「はい、その時は大統領が腕力で時空を捻じ曲げたので捕まえる事ができましたが、そのDr.タイムマンなるマッドサイエンティスト、逮捕される寸前に時間虫と呼ばれる時を超える虫を放っていた事がわかりました」

「ほう……時間虫とな」

「そしてその時間虫を使って過去へ飛んで脱獄し、歴史を変えているみたいなのです」

「なるほど、その影響が現代にでているわけだな」

「えぇ、実際幾人かが突然消失したり、謎の建物が出現したりしています。まだ存在があやふやなので人や建物は消えたり現れたりを繰り返していますが、いずれ確定されて現代の歴史はめちゃくちゃになるでしょう」


 そこまで聞いたらもうやる事は決まっている。

 大統領は両手をポンと叩いた。余波で窓ガラスが吹き飛んだ。


「よしわかった、私が過去へ飛んでこよう」

「お願いします、今現在過去へ飛べるのは大統領が早朝マラソンで鍛えた筋肉だけですので」

「バックアップは任せたぞ、それでどこへ飛べばいい?」

「1582年6月2日の日本、俗に言う本能寺の変の起きた日です」

「本能寺の変か、織田信長が明智光秀に討ち取られた日だな。日本史には少し自信があるから大丈夫だ」


 そして大統領は何も無い空間を殴る。その拳は空振りに終わる筈だが、何故か何も無いはずの空間で止まり、拳の先がバリっと割れていったのだ。

 なんてことはない、普段の筋トレで鍛えた腕力や体幹を駆使すれば誰でも簡単に空間を割ることができる。これはアインシュタインの相対性理論でも明らかにされていることだ。


 続けて大統領は割れた空間を手で広げて中へと入っていく。その先は遥か大昔、本能寺の変へと続いている。


「では行ってくる。私が帰ってくるまでにアンモニアの消臭剤を買っておいてくれたまえよ」

「かしこまりました」


 こうして大統領は過去へと飛んで行ったのだ。

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