夜の無人駅にて一人電車を待つ
陽月
夜の無人駅にて一人電車を待つ
ヤバイ、寝過ごした。
慌てて、スマホで時刻を確認する。19時17分。
確か、午後6時過ぎに、京都駅にちょうど止まっていた草津方面行きに乗ったから、1時間以上も寝てたのか。寝過ぎやろ、自分。
石山で降りるつもりが、これは、ずいぶんと運ばれてしまっているな。今はいったいどこなのか。
外は暗くて、よくわからない。車内は自分も含めて1,2,3...6人か。京都では全席埋まって、立ってる人も居たというのに。
「まもなく、○○、○○。お出口は右側です。」
車内アナウンスが入る。駅に着くのなら、とりあえず降りて、反対方向行きに乗って帰るか。
その駅で降りたのは、同じ車両からは自分を含め3人、他の車両からも降りる人はもちろん居て、10人ちょっとは降りたと思う。
降りた人が全員、同じ所、駅舎に向かって進むので、そっちが出口なのだろう。
帰りの電車を検索するためにも、きちんとした駅名は知りたいところなので、駅名を求めて駅舎へ向かう。
駅舎のホーム側には、ベンチが設置されていた。単線なので、ここで待っていればいいか。
帰りの電車を検索する。およそ、20分後。こんなものなのか。
ただ、この駅舎の明かりがどうにかあるだけの所で、一人で20分も過ごすのはちょっと寂しい。誰か話し相手になってくれないかと、SNSに投降する。
『寝過ごして、知らない駅で一人帰りの電車待ち中』
すぐに返信が来る。よかった。
【寝過ごすって、どんだけ?】
『1時間ちょい。起きたら、車内が6人でビビった』
【どんな駅なん?】
『単線で、ちっちゃい駅舎があって、今はベンチで待ってる』
【他には?】
訊かれて、駅舎の様子を観察すべく動き出す。
『改札が無い』
ホームから駅舎への出入り口、そこから正面に見える外との出入り口、どちらも改札のようなものはなかった。扉の無い玄関、そういう感じだ。
【改札が無いって、他の人どうしてたん? まさかその駅で降りたの一人だけとか】
思い出せ。
『みんな素通りしてた』
なにそれ、おかしくないか。車掌も止める様子も何も無かったけど。
【駅前は?】
『これって、出て行っていいの?』
【みんな素通りしてたんやろ】
駅舎から、外に出ようとしてやめた。
駅前に街灯が無く、真っ暗なのだ。駅舎から漏れる明かりで、どうにかこうにか、出てすぐが階段になっていることがわかるくらいで。
この駅で降りた人たちは、みんなこの闇の中に消えていったのか、などと考えると、少し不気味だ。
『駅前、真っ暗』
【きさらぎ駅にでも迷い込んだ?】
『きさらぎ駅?』
【知らんの? 調べてみ】
検索して、やめときゃ良かったと後悔した。
知らない無人駅に迷い込む都市伝説なんて、今の自分には心臓に悪い。
『知らん無人駅に独りぼっちやけど、○○駅やし。時刻表もあるし、券売機も路線図もあるし』
時刻表はホーム側から見て駅舎内の右手にあった。1時間に1〜3本しかないスカスカの時刻表だ。
駅舎の右手には、もう一つ部屋があって、待合室になっている。
左手ホーム側に駅員室とおぼしきところ。今はシャッターが降りている。左手外側に券売機。券売機の上部に路線図が設置されている。
【無気になって、怖いんやろ】
『いや、怖いわけではない』
【券売機あるんやろ、帰りの切符買えよ】
それもそうかと思い、素直に切符を購入する。思わぬ出費が痛い。
あれ? そういえば、ICOCAは?
設置されていた券売機には、ICOCAのチャージ機能がついていなかった。
チャージ専用機も乗り越し精算機もない。
チリン。
何か今、鈴の音が聞こえたような。辺りを見回すが、何もない。
チリリン。
やっぱり聞こえる。
『なんか、鈴の音がする』
【おっ、なんかヤバイ感じ】
絶対、画面の向こうで楽しんでる。人の気も知らないで。
猫だ猫、たぶん。
カーン。
今度は拍子木?
『拍子木っぽい音も聞こえてくる』
【雰囲気あるね】
カーン。
火の用心だ、たぶん。
そう言えば、そろそろ電車が来るはずなのだが、誰も駅にやってこないし、構内アナウンスもない。
本当に電車は来るのだろうか。
カンカンカンカン
タンターンタ ターンタ タン
遮断機の警告音に続き、急に鳴る電子音。今度は何だ?
ホーム上部に何やら赤い光が。
「列車に注意」の表示。音は電車が来るという合図だったのか、びっくりした。
目の前に止まった車両に乗り込んだ。
自分の乗った車両は一人きりだったが、通り過ぎていった車窓にはわずかだが人が見えた。
前の方の車両には人が乗っている。
『草津行きに乗り込んだ』
【お疲れ】
【今日、遅刻?】
翌朝、こんなメッセージを受け取ることになるとは。
いつものように、ICOCAで改札を通ろうとしたら、はじかれた。
昨日、ICOCAに出場記録がなかったのが、原因だそうだ。
手続きをしていたら、間に合わなくなってしまった。
『えっ? さっき電車に乗り込んでからそんな時間経ってへんやん。また驚かそうとして』
昨晩、遊んでくれた仕返しだ。少しくらいビビってもらおう。
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注:途中、駅舎を素通りという表現がありますが、定期券を持っている地元民なだけです。
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