それだけ

ちょっとした憂鬱を放っておくと

あなたの家の箪笥の引出しが少し開いていたり

赤ん坊の頃から知っていた事を忘れるかもしれません


人間は少しずつ無に向かっています

それはロマンチックに言えば、死の事です

我々は生きているので、

少しずつ死に向かっているのです


ただ壁の隙間の暗闇を恐れているだけで

ただ曖昧に忘却し続けるだけで

それだけ死に向かっているのです


ただ我らは無力に涙を流しましょう


……だ、なんて……

何と恐ろしく傲慢なのか!


消えゆくものの務めとは、ただ消えゆくことだけ

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