前日の二人

 九月上旬 大学構内 軽音楽部部室


「wiiと~……あとPS3も持っていきたいし~……万が一に備えてスーファミも」

「一つにしなさい」

「むー……じゃぁwii」


 いよいよ明日から始まる合宿に備えて色々と下準備、ということで月無先輩と一緒に部室に来た。

 部室=ゲームするとこ、そんな認識のとおり、持っていくゲーム機の厳選作業だ。


「スマブラも二種類ありますしマリオ系も揃ってますもんね」

「うん。パーティー系しかどうせやらないだろうし!」


 最新機器、switchはコントローラーの関係だったり、PS4はそもそも部室にない上に、あっても皆でやるようなゲームが少かったりの問題がある。

 あと単純に旅先に持っていくのは壊れるのが怖いとのこと。

 そこはパーティーゲームの雄、wii辺りが妥当だろう。


「キューブとかなら袋入れないでそのままバスに積んでも大丈夫そうだよね」

「武器の持ち込みは禁止」


 ゲームキューブはマジで清田先輩辺りが無茶しそうで怖い。

 

「フフ、こんなもんかな! あ……まぁ64はいっか。勝手に持っていくし」

「誰がです?」

「うん。二年男子。去年64のスマブラずっとやってたよ。一年男子部屋は大体ゲーム部屋になるから、そこに置いて遊びに来るんじゃないかな」

「あ~大人数部屋なら都合がいいですもんね」

 

 一年部屋は広い分、遊び場にもされやすい、と。

 まぁそんなもんだろう。


「フフ、合宿で仲良くなる先輩が多いのはそういうことでもあるんだよ!」

「ハハ、言われてみれば確かに」


 どんな時代でもゲームっていうのは友達作りのツールの一つというわけだ。

 ちなみに最近、八代先輩にもっと二年とも仲良くなっておかないと来年辛いぞと言われた。……確かに三年の方ばかり仲良くしてもらっている。


 しかし考えてみたら、男女間で部屋の行き来は色々とマズそうだから、月無先輩とゲームする時間はあんまり取れないかもしれない。


「よし、準備完了! じゃぁゲームしようぜ~」

「あれ、スタジオ行かなくていいんです?」


 部室でゲーム機を積んだらスタジオに行くという段取りだった。


「いやだってさ……合宿じゃあんまり白井君とゲームする時間取れないじゃん……多分」


 ……結局同じことを考えていたりする。

 月無先輩のいじらしいところを見られるのは最高の役得だけど……正直言って可愛すぎていつまでも慣れない。

 妙に照れ臭いのは互いに同じで、目を逸らしつつ「そうですよね」なんて返した。


「何やります?」

「……あ、今wii詰めちゃったよ」


 ……こういうのは大体やり終わってから気付くものだ。


「そうだ! アレやろ、ペルソナ! ずっと前から言ってるのに全然やってなかった」

「あ、格ゲー版の奴ですね。ギルティ・ギアの会社が開発したとかいう」

「うん。操作同じだよ」


 でもペルソナ4は自分的には相当好きな作品だったし、そのキャラを格ゲーで使いたい気持ちはある。

 それに、曲が最高なのも知っているからぜひやってみたいというもの。


「ちなみにコンボ繋ぎやすいから初心者でもやりやすいよ! こっちの方が勝負になりやすいかな」

「……ちょっと待って。じゃぁ何で俺今までギルティでひたすらボコられてたの」

「……だって操作シビアな方がゲームしてる感あるじゃん。あとポチョム」


 ……ポチョムキンバスターは喰らわせてる側は気持ちいいだろうけども。


 釈然としない自分をしり目に、月無先輩は鼻歌を歌いながらディスクを探し始めた。

 いつも思うが無防備に眼前で四つん這いになるのやめてくれ。


「それ戦闘曲ですよね。曲名英語で覚えられないけど曲はメッチャ覚えてる」

「うん。『Reach Out To The Truth』ね! まさかの通常戦闘曲でボーカル曲! ちなみに格ゲーだと主人公の曲」


 カッコいいなぁと思いつつも、アリなのこれ、とも思った記憶がある。


「3もボーカル入ってましたよね」

「ベイベベイベ」

「あははそれそれ」

「フフ、『mass Destruction』ね! 正直最初聞いたとき唖然とした」


 ペルソナの音楽が他のゲームと一線を画す理由の一つでもある気がする。

 完全に洋楽寄りのオシャレサウンド、そしてボーカル曲BGM。

 ゲーム音楽からすれば新風のようなもので、それもペルソナっぽさの一つ。


「3でいきなり変わった感じあるし、結構人選ぶとこもあるけど~、4で洗練された気がするよね!」

「わかりますわかります。4は耳なじみ良いというか」


 とはいえ3も実際のところ曲はめちゃくちゃカッコいい。

 これがペルソナと慣れてしまえばむしろクセになってくるし、ベイベベイベも慣れたら結構好きだった。

 そんな話をしつつ、起動したゲーム画面に二人で目をやり、コントローラーを握る。

 キャラ選択画面に入ると、馴染みのあるキャラクターに少し高揚した。


「ふふー何使おっかな~」

「おぉテンション上がる……3のキャラもいるってのは嬉しいですよね。お、このキャラ知らない」

「あ、ラビリス? P4Uの新キャラで、アイギスのお姉ちゃん的ポジ! あたし結構使うよ!」

「なるほどじゃぁパワーキャラか……」

「あたしの認識って……パワーキャラだけど」

「……合ってるじゃないですか」


 どのゲームやっててもパワーキャラばっかり使ってるからなぁ……。

 月無先輩のキャラ選択傾向は、一にパワー、二にパワー、三四がなくて五にパワー……あとたまにトリッキー。

 ちなみに選択肢が偏重しているだけで、実際には何でも使えるご様子。本当にゲーム強い人っていうのは基本動作が極まっているから何使っても強い。


 そして自分はとりあえずクセの少ないキャラを選びがち……ということで主人公。


「お、番長! あたしは~……クマ!」

「絶対トリッキーキャラじゃないですか」

「ふふ、まぁ最初は操作に慣れよう!」


 各キャラの曲も聴きつつ、月無先輩は一通りのキャラを使って見せてくれるそう。

 そんな感じでゲームスタート。


「ハハ、すごい。シスコン番長って」

「テンション上がるよねこの演出。ナレーターもお馴染みの人!」


 TVでよく聞く声優さんのナレーション(立木文彦さん)に、エンターテイメント性に富んだ演出と、ペルソナっぽさを感じつつも新鮮な感じだ。

 どちらかというとファンサービスをメインにしているんだろう。


「こう、キャラ攻撃とペルソナ攻撃があって~まぁギルティでいうとこのスラッシュとハイスラだね」

「ふむふむ……お、ほんとだ」

「番長はペルソナ攻撃の硬直ちょっと長め。全体的には使いやすいけど」


 ゲームの基本動作を教わりつつ……


「この曲のクマっぽさすごいよね~。オシャレ感のあるジャズテイスト! キャラの動きと曲のサーカス感が見事にマッチしてて他の格ゲーじゃ味わえないペルソナっぽさを産んでるの!」

「確かに中々ないかも。でもペルソナって言われたら納得行く」


 曲にももちろん存分に触れつつ……


「とりあえずガトリングと同じ動きしながら必殺につないでダウン奪って~。このAメロからサビっていう曲展開の速さもこのゲームの魅力ね! つなぎの部分を減らして聞かせどころを連続させて、そうそう、そうやって勢い保ったまま攻撃振ればつながるようになってるから」

「……話混じりまくってますね」


 どっちの話をしてるのかわからなくなりつつ、ゲームに熱中した。

 一戦目が終わり、キャラ選択画面に戻った。


「大体わかった?」

「……途中から全然わからなくなりましたけど操作は大体」


 そんな流れで色々とまたキャラを選ぶ。

 もともと好きなゲームだし、折角だからいろいろ使ってみたい。

 そして気づく。


「千枝使おう……あれ、メガネってないんです?」

「メガネはDLC(ダウンロードコンテンツ)だね」

「買って……」

「ないね」


 絶望である。

 ペルソナ4が好きな理由は全キャラにメガネがあることでもあったのに……。


「仕方ないなぁ……」


 そう言って月無先輩は鞄をごそごそ……


「これで」

「あざぁッス!!!」


 なんとメガネを掛けてくれた。神か。

 そしてテンションマックスで戦闘開始。


「お、千枝っぽい。いいですねこの曲」

「ね! 可愛さと爽やかを両立したまさに千枝って感じの曲だよね」


 こっちは洋楽というより、日本のポップス寄りの聴きやすいロックだ。

 作曲家のバックボーンの広さがうかがえる。


「なぜかこの曲だけ尺が長いんだよね」

「そうなんです?」

「うんこの曲だけ二週目にBメロあるし。……贔屓?」

「……まぁ千枝可愛いですから」

「やっぱそういうことだよね」


 多分そういうことじゃないけど納得した。

 しかし耳なじみの良さと盛り上がりもしっかりある名曲で、尺が長い分長く聴けて嬉しいかもしれない。今度サントラ借りよう。


 こうしていい音楽を聴きながら月無先輩とゲームに興じる時間は、やはり本当にいいものだ。

 何も特別なことはなくとも、一番落ち着く大切な時間。

 合宿前に久々にそれに浸かれて嬉しいのは、月無先輩も一緒だろう。


 しばらくペルソナキャラとキャラそれぞれの曲を堪能しつつゲームを続け、ふと思う。


「めぐるさん」

「ん~? あ、この直斗の曲最ッ高だよ。十選にも入れたけど!」

「あ、めっちゃハマりましたこれ。ループでひたすら聴いてた」


 いや本当にこれも最高……ってそうだそうだ。


「思ったんですけど」

「うん、どしたの?」


 ペルソナの曲が素晴らしいのは明白……というか有名。

 何故ならRPG本編である『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』のサウンドトラックは、ゲーム音楽史上でも初の日本ゴールドディスク賞受賞作だからだ。

 しかし……だ。


「……こういうこと言うと怒るかもですが……」

「え? あたしが? ……何?」

「……本編よりこっちの方が曲良くないですか」

「……正直あたしもそう思う。ってか思ってた」


 本編であるRPG版の『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』よりも、今やっている格ゲー版の『ペルソナ4 ジ・アルティメット イン マヨナカアリーナ』の方がぱっと聴く上ではいい曲が多い。


「こっちの方がわかりやすくカッコいい曲多いからね」

「ゲーム音楽らしい特徴って感じですね」


 ペルソナ自体は超有名なのに、格ゲー版のサントラの良さはあまり有名ではない……この辺りはユーザー層の違いだろうか。


「こんなにいいのに、なんかもったいないよね!」

「ハハ、確かに。格ゲーってだけで客層絞られますからね」

「ね。演出も音楽も本編に負けないくらいの気合が入ってるんだけどね」

 

 とはいえ自分も、月無先輩と一緒にやるまでは格ゲーはあまり興味がなかった。

 自分の知らないところでも素晴らしいゲーム音楽っていうのはいくらでもある、そう思い知るようだった。


「めぐるさんが色んなジャンルのゲームやる理由がなんとなくわかりました」

「……フフッ! そっか! 嬉しい!」


 あ、本気で嬉しい時の笑顔だ。

 しかもメガネで可愛さ倍増してるから……久々に直視できないレベル。

 思いっきり恥ずかしくなったのでTV画面に目を逸らした。


「フフ、だから白井君が格ゲー付き合ってくれるの本当に嬉しいんだ」

「……光栄です」

 

 格ゲーよろしく、追い打ちもぬかりなしと。

 ゲームでも現実でも、結局この人には適わないなんて思いつつ、再び二人でゲームに没頭した。


 

 ――


 夢中になる時間はまさに矢のごとしか、気づけば三時間ほどが過ぎていた。


「あ、ヤバ。スタジオそろそろ行かなきゃね」

「ずいぶんやってましたね」


 ゲーム機を片付けながら、思いついた提案をしてみる。


「めぐるさん達ってバスじゃなくて車で行くんですよね? ペルソナの曲とかドライブに丁度良くないですか?」


 すると、月無先輩はふんすとドヤ顔をして……


「ふっふー、もうすでにプレイリストには入れてあるのさ!」

「……ぬかりないなぁ」

「白井君もペルソナ好きだし、そこは万全だよ! 『Let's Go To The Beach』とかもいれた!」

「ハハ、行くの山ですけどね」


 さすが師匠……ってアレ?


「……いや俺バスですけど。バス代も込みで払ってますし」

「……え!? こっち乗るんじゃないの!?」


 やはり……。

 三女の面々や春原先輩といった、月無先輩と特に仲の良いメンバーが八代先輩の運転で行くのは知っていたが、まさか数えられているとは。


「乗るわけないでしょう」

「何で!?」


 そんな寝耳に水みたいな反応されても……というか多分、月無先輩以外誰も、自分おとこが乗るだなんて想定していない。


「考えてもみてください。俺が乗ったらどうなるか」

「え……」

「軽音でもトップの女性陣の中に男が一人入ったら」

「え……あ……死……」

「そうです。死ぬんです」


 確実に不可避だろう。

 皆でワイワイとバスに乗り込む中、男が一人「じゃ、俺こっちだから」と美女の集う車に向かったら……合宿場で再度合流した瞬間に間違いなく命を狙われる。

 ただでさえ色気のある話題の少ない軽音楽部、全然冗談では済まない。


「全ッ然考えてなかった」

「……俺もまさかと思いましたが」


 乗りたい気持ちはやまやまだが命には代えられない。

 それに、バスはバスで、同輩とワイワイできて楽しいだろう。


「思った。あたし、気を付けないと白井君を命の危険に晒す可能性がある」

「ハハ、合宿は特にそうですね。……ってかやっとわかってくれましたか」


 ちょっと寂しい気もするけど、普段のままだと結構嫌な目で見てくる人もいそうだ。

 大概の部員は事情を知らないわけだし、こそこそ言われるのも本位ではない。

 すると、ちょっとモジモジするようにして月無先輩は……


「じゃぁ今日のうちに!」


 ……遠慮がちに手を差し出してきた。マジでズルい。何なのこの人。反則すぎ。


「……ですね。合宿一週間よろしくお願いします」

「うん! ……フフッ! 頑張ろうね! 超楽しいから!」


 そうして握手を交わして、明日から始まる合宿への気持ちを新たにした。


「まぁちなみに、どう頑張っても何かしら言われるからそこは気にしないようにしよう」

「……練習に没頭しましょ」

「フフ、それが一番だね!」


 懸念はあれど、それの数百、いや数千倍も楽しみな気持ちが強い。

 明日からの軽音楽部の合宿、最高の仲間たちと過ごす七日間……待ち受けるものへの期待がまた強まった……いよいよ、本当にいよいよだ。



 

 隠しトラック

 ――メガネ×ジャージ=x   ~部室にて~


「ジャージ女子って可愛いよね~」

「……めっちゃわかる。千枝はかなり好きなキャラです」

「だから思うのよ。……実はヤッシー先輩って超貴重な人材なんじゃないかって」

「……確かに。めっちゃ似合いますもんね」

「ジャージなのにオシャレっていうのがまた」

「確かに……バリエーション豊富ですよね。五月ごろいつも違うの着てた」

「本人は楽だからって言ってたけど、何気にこだわり強いよね」

「本質的にはオシャレな人ですもんね……何枚持ってるんですかね」

「去年は五枚くらいもってきてたよ。あたしと巴さんが一枚ずつ借りてた」

「もうジャージ屋さんじゃないですか」

「うん。『どうせ上着忘れるヤツいると思って多く持ってきた』って」

「サービスもぬかりなし」


「巴さんもメガネ何個も持ってるし、こだわり強い人ってそういうものなのかな」

「コレクター的なとこもあるんでしょうね。というかめぐるさんも似たようなところがある気がする。収録曲被っててもサントラ買うじゃないですか」

「……確かに。正直聴くだけならいらないの何枚もある」


「ところでさ、白井君ジャージ好きじゃん」

「え、あ、まぁ。あんまり気にしたこともないですけど」

「でさ、メガネ好きじゃん」

「そう、ですね」

「じゃぁメガネ×ジャージは?」

「え、答えづら」

「フフ、大丈夫だよもうそういうのは」

「え、じゃぁまぁ……最強でしょうね。むしろ最強を超えた何か」

「だよね。実際ジャージ姿の巴さん超かわいいし」

「……むぅ」

「しかもあのスタイルだからもうチートレベル」

「……なんてこった」


「というか思うんですけど、めぐるさんって巴さん超好きですよね」

「え? そりゃそうだよ。可愛がってもらってるし。不思議?」

「いや、まぁあの時の前とかいろいろ……」

「あの時? ……あ~、そだね。フフッ、むしろ巴さんのこと好きだからだよ。好きになっちゃってもしょうがないって思うし」

「あぁ……なんか安心しました」

「……心置きなく巴さん凝視できるぜって?」

「いやそういうことではなく」

「フフッ、冗談だよ!」

「……はぁ」

「まぁだから合宿では……二人で心置きなく巴さん凝視しようぜ!」

「……何でちょいちょいおっさんくさいんですかあなた」

「いやマジ最強だよ。楽しみにしてて」

「……さいですか」



 *作中で紹介した曲は曲名とゲームタイトルを記載します。


『Reach Out To The Truth』-ペルソナ4

『mass Destruction』-ペルソナ3

『Kuma Kuma Circus!』-ペルソナ4 ジ・アルティメットインマヨナカアリーナ

『Like A Dragon』-ペルソナ4 ジ・アルティメットインマヨナカアリーナ

『Seeker Of The Truth』-ペルソナ4 ジ・アルティメットインマヨナカアリーナ

『Let's Go To The Beach』-ペルソナ4

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