特別編 スマブラスペシャル

  ◆今回は時系列を無視した特別編

   ヒロインがスマブラSPの楽曲の魅力について語るだけです。




 月無先輩に部室に呼び出しをくらった。

 何やら重大な話だそうで、丸一日空けておきなさいとのこと。

 ……大体予想は付くが。


「お疲れ様です~」

「あ! 来た! 遅いよ白井君!」


 うん、予想通り。

 そして待ち合わせの前に来たのに遅いとは。

 

「買ったんですねスマブラSP」


 初対面の時と同じく既に画面上では修羅の舞、というわけでもなく、


「今オレ曲セレクトしてるとこなの!」


 対戦ステージ毎に流れる曲の設定中。


「もう少しで終わるからちょっと待っててね。白井君来る前に終わらせようと思ったけど結構時間かかっちゃって」


 なんでも最高の選曲を終えてから対戦しようと。

 並々ならぬ拘りで選んでそうだし、百曲単位となると時間も相当にかかりそうだ。


「ねぇ、謎の村雨城の曲好き? あたし大好きなんだけど」

「……知るわけないじゃないですか。ファミコンのゲームでしょ」

「なんで! 超カッコイイのに!」


 こっちの好みも訊きだしてくれるのはいいが、わかるわけがない。

 というか……


「まさか全曲わかるんですか?」

「いやそんなわけないでしょ。さすがに気持ち悪すぎるでしょ、そこまでいったら」


 ……? 何言ってんだ。無自覚?


「モンハンの曲とかもあるのよね」

「あ、ほんとだ。リオレウス。これ設定しときましょう。しかしマジでめぐる先輩のためにあるような機能ですねこれ」

「ほんとよ! どんだけテンションあがるか! どれも好きな作品なのにその中から名曲選んできちゃいまして! やってくれたなって!」


 ……すげぇテンションだな。


「ロックマンなんて原曲メドレー入ってるのよ!? さすがに全曲じゃないけど目を疑うほど嬉しかったわ!」


 ほんとロックマン好きだな。


「しかも……ほら! ちゃんとアレンジ版まであるのよ!? フラッシュマンもタップマンもスネークマンも! 9のワイリーステージの『We're The Robots』も入ってるのよ!? 原曲とは違うテイストでほんと最高! 名曲の色んな可能性を最高のアレンジで聴けるってのがどれだけ嬉しいか!」


 ……ほんとロックマン好きだな。


「ストファイの曲もこんなに聴けるとか! 下村様のセルフアレンジも最高だし、ガイルステージなんて編曲者古代様よ!? てっててっててーよ!? ゲーム音楽らしい現代アップデートの極みみたいなアレンジしちゃってるし! ソロパートもガッチガチのフュージョンで超カッコいいし! もうボーナスですよあたしにとってこれ! 車壊しちゃっていいんですか!? って」


 いや確かにボーナスステージ車壊すけど。

 あと作曲家やっぱり様付けなのね。最早崇拝対象。


「サウンドテストで編曲者の名前見るとほんとビックリの豪華面子よ!」


 Xの時も歴代曲のアレンジが話題になったらしい。編曲陣が超豪華だとか。

 今回の追加された曲も名だたる方ばかりで、満足度も有頂天と。


「世界中探してもこれだけ豪華な人達が集まる場はないわ! これに張るのってグラミーとかアカデミー賞とか発表する場くらいでしょ」

「さすがにそれは言い過」

「もうこれ予算だけで国が動くレベルでしょ! って!!」

「聞けよ」


 会話成立しなそうだな今日。

 人の話聴かないのは割といつもだけど、今回の拍車のかかり方は相当なレベルな気がするぞ。


「一番嬉しいのはGB版カービィの曲が入ってることね! もう聴ける機会ないかと思ってた大好きな曲ばっかりだから本当に嬉しくて! 今の曲と聴き比べても、未だに古臭く感じないメロディって信じられなくない!? どれだけ時代の先を行っていたのよって! ゲーム音楽の原点にして至高のような響きがスマブラでも聴けるってのが……ックゥー!」

「先輩生まれてない時代のばっかじゃないですか……」

「カービィはお兄ちゃんが持ってたから借りてずっとやってた!」


 なるほど……。

 お兄さん都合いいな。


「もうゲーム業界全土を掌握するレベルのゲームよこれほんと! ゲーム音楽の完成形が見られるわよ! スピリットボードとかアドベンチャーで出てくるキャラそれぞれの曲になるとか凄すぎるでしょ!」

「……あ、あのフィギュア集めみたいなヤツです?」

「そう! ほぼ全作品のキャラにそのゲームの曲が当てられてるから、毎試合違った曲が聴けてほんと飽きないのよ!」


 ファンとしては「ここまでやってほしい」というラインがあるものだけど、それを十全に満たしているってことかな。

 ゲーム音楽女にここまで言わせるとは。


「その上何が凄いって、アレンジ曲だけじゃなくてスマブラSPの曲自体も超いいのよ!」


 喋るなぁ今日。

 もう暴走しかかってんじゃん。


「メニュー画面の曲からして目茶苦茶カッコいいっていうね! 明快なメロディにスマブラ感を踏襲したオーケストレーション! そしてキメキメにビートを刻むドラムにバッチリハマるスラップ! オールスター感まるだしの最終進化ここにありみたいな名曲ね!」

「……まだそれ聴いてませんし」

「あ、そっか。白井君買ってないもんね……」


 テンション上がり過ぎてこっちの都合は全部無視っていう。


「でも買いなよ、超すごいよこれ」

「いや金が……」

「だってウォークマンいらないよもう。画面オフ再生あるから移動中も好きなだけ曲聴けちゃうし」

「……すげぇ。でもゲーム音楽以外も聴きますし」


 いらないは言い過ぎ。


「むー! じゃぁ対戦でさんざん聴かせてやる!」

「やっと終わったか」


 ……まだゲーム始まってもいないのに大分話しこまれた。


 珠玉の名曲を渾身のセレクトで、と意気込む先輩はすでに満面の笑み。


「キャラ何使おうかな……。やっぱマルス安定……あれ、先輩ガノンじゃないんです?」


 DXとかやってる時は狂ったようにガノンドロフ使ってるのに。


「白井君、剣使うガノンはガノンじゃないの。次世代の筋肉は他のキャラに託されたわ。……それにまずはロックマンでしょ」

「やっぱロボか筋肉なのね……。ブレないな」


 ランダムで出たステージは……終点。

 いつもやる時はアイテム無し終点固定ストック3だから変わり映えしない。

 しかも普段やるDXのもXのも、正直曲は聴き飽きてる。


「あ、曲名出るんですね。デュエルゾーン?」

「うん、謎のザコ敵軍団の曲。すごい好きなんだよね」


 1ステージに対しても色んなテイストの曲があるようで、飽きることなく楽しめると。


「ってか手も足もでないんですけど……」


 あえなく惨敗。

 多分アレだ、途中に「曲聴きつくせないかもしれないですね」って言った途端に攻撃が激化したから、速攻で倒してどんどんステージ変えてくつもりだ。


「次は何使おうかな~。よし、ガオガエン! 君に決めた!」

「……なんで女子っぽいチョイス出来ないんです? どうしようかな。クラウド使おう」

「お、じゃぁミッドガル選ぼう!」


 今度はランダムでなくFFのステージ、ミッドガル。


「更に闘う者達をスマブラで聴けるとかテンション上がりますよね」

「ね、FFマニアとしてはこれ以上ないご褒美だよね!」


 各作品のファンからすれば本当にそうだし、先輩も嬉しそうに鼻歌を歌っている。


「てっててーてっててーてーれーれーてれれ」


 ……しかし鼻歌がメロディじゃなくて何故かベースラインっていう。

 好きな曲は全パート憶えてるっていうのほんと怖い。



 結局ステージをじゅんぐりにやっていき、大体20戦程する。

 色んな曲が聴けたし、知らない曲でもいいものづくし、どのステージでも選ぶ理由があるように思えるくらい、ゲーム音楽好きには最高の仕様だ。


「ちょっと休憩しましょう。精神的にキツい」


 しかしながら一戦も勝てていない。

 スコア差が58対11ってどういうことよ。

 今日の先輩はゲーム音楽に気を取られて少しは隙が、なんてことはもちろんなく……


「いや~、好きな曲だけ聴いて遊べちゃうってアガっちゃうね!

 

 むしろ強くなる。戦闘民族かよ。


 でも言わんとすることはわからなくもない。

 好きな曲ってだけでテンションは上がるし、より一層面白く感じるのはゲーム音楽の本質に思える。

 曲を知っている程楽しめるのも必然だろう。

 そうした同意を口にしてみると、嬉々として先輩は応えた。


「ね、だから言ったじゃん! ゲーム音楽の完成形って!」


 プレイしてやっと分かったが、こういうことを言っていたのか。

 先輩みたいなゲーム音楽狂いじゃなくても、曲で楽しむということが出来そう。

 それほどにアレンジのクオリティは高いし、原曲が聴けるのも多いのは興味の導線にもなりそうだ。


「お、やっぱり白井君も買いたくなってきたな!」

「いやだからお金が」

「むー……」


 やめろそういう宣伝ぽいの。

 しかしスマブラSPがいかにすごいかはよくわかるが……


「スマブラforもBGM機能って結構充実してませんでしたっけ?」


 すると先輩は少し間をおいて応えた。


「forが出た時は周りにやる人いなかったからさ。今回はさ、白井君がいるし!」


 ……こういうこと平気で言うのは何度も言うがやめて欲しい。


「スマブラ好きでゲーム好きで、ゲーム音楽も好きで、それなら一緒にやらないわけにはいかないよ!」


 無自覚というか無防備というか鈍感というか、テンション上がり過ぎてかなり恥ずかしいこと言ってるのにも気づいてないのかもしれない。


「じゃぁ今日は部室閉まるまでね!」


 きっつ。

 情け無用組み手みたいな戦闘をあと何時間もやると。


 とはいえいつになく嬉しそうな満面の笑みを前にしては、サンドバッグくんになるのも悪くないか。


 結局その後、本当に部室棟の利用可能時間ギリギリまでプレイ。

 本当に色んな曲が聴けたのはよかったが、勝ち目のある試合など本当に一度もなかったので精神的摩耗は凄まじい。


 しかしこれだけやったんだ、月無先輩も満足だろう。

 もう日も落ちきった帰り道、川沿いを歩きながらそう思っていると、


「むー、不完全燃焼」


 まさかの不服申し立て。


「……いやあんだけやったじゃないですか」

「やったけど! 語りきれてないのよ!」


 ……何の話だ一体。


「今回は特別編だから4000字までって言われてたから! 語りきれてないのよ! ちなみに今4000字超えたわ!」


 だから何の話だ一体。


「スマブラSPの曲の魅力を語りつくすのにそれで足りるわけないでしょ! って!」

「いや言いたいことはわかりましたけど、どうしようもないでしょう」


「ちょっと作者にもう一回やるよう言ってくる」

「何の話……っていうかもうダメですよそれ」

「スマブラだってゲームの垣根越えてるんだからいいじゃん!」

「なる……ほどじゃないなそれ、意味わからんですわ」


 語りきれなかった鬱憤を晴らしたい先輩をなんとか説得。

 今日は本当に聞く耳持たない系だった。


 ……そして結局その翌日に再び呼び出されて、一日中ゲーム音楽について語られながらサンドバッグにされたのは言うまでもない。




 隠しトラック

 

 竜がいるリビング 


「お、なんだこのステージ。犬がいる」

「ニンテンドッグズの面だね!」

「……いやしかし曲よ」

「さっき白井君が設定しようって言ったじゃん」

「……この面だとは思わないじゃないですか、専用のステージがあるのかと」


 数十秒後


「ダメだ、笑っちゃって全然集中できない」

「ブフッ、言わないでよ、あたしも堪えてるんだから」


 数十秒後


「あ~、キツかった」

「フフッ、これは選曲失敗だったね」

「リオレウスの曲で子犬がじゃれついてくるのほんとヤバいですね」

「もう全く可愛く見えないよね」

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