幕間 品評会 後編
前半の虚しいあらすじ
テストの打ち上げと称しマックに集まる一年男子一同。
軽音女子品評会が始まり、それぞれ好みを語りだすキモい空気。
そして遅れて川添、そして部長のヒビキが合流し、軽音女子事情が明らかに。
誰も彼氏はいないという情報に一同喜ぶも、相手にされていないだけという事実も突きつけられるのであった。
そうだ、部長なら理由を知っているかもしれない。
「巴先輩って、何でライブだとメガネ外すんですか?」
「……こだわるな白井」
黙れ椎名。
これは最優先で解き明かしたい謎なんだ。
「あ~、なんか前に言ってたな。確かちゃんと理由あるぞ」
おぉ、マジか。
やはり巴先輩はメガネに否定的だからというわけではないのか。
「フレームが邪魔とか言ってたな。他にも理由ありそうだったが。夏、同じバンドなんだから直接訊いた方が早いな」
フレームが邪魔……なんだろう。
見当がつかないし、それだけなのかも。
本人に訊いた方がいいかと一応納得しておいて、部長に礼を言った。
「え、っていうか白井、夏バン巴さんと一緒なの……?」
「貴様……裏切りやがったな……」
「いや確かに言わなかったけど。知ってるもんだと」
川添が驚き、椎名が目で糾弾してくる。
現実で貴様とか言う奴初めて見たぞ。
「て、てっきり月無さんが決まってから、仕方なく白井に声がかかるものだと……」
「ヒデェな小沢」
いや俺もそのつもりだったけど。
同輩にそう言われるのは心外だ。
「いや、冗談。俺んとこボーカル二人で弾ける人がいるから、それで
なるほど、他パートの人が曲によっては代替で弾くと。
ピアノ経験有る人はそれなりにいるから出来なくはないし、本職じゃなくても賄えるなら初心者入れるよりはマシみたいな見方もあるか。
ちょっとショック。
「悪い意味に捉えるなよ白井。多分二~三年なら巴が誘うって噂くらい知られてたんだろ。飲み会中にお前と巴たちが話してるの見えてたしな」
なるほど……だから集中させると。
そうだとすれば、それはありがたい気遣いだ。
そもそも鍵盤がいらないバンドもあるし、他に誘いが来てないのもそういう理由なのかもしれない。
「いいなぁ白井。他は誰なの?」
ぐ……それを聞くな川添。
あのメンバー全員の名前出したら、どれだけ僻まれるかわからんぞ。
しかし当たり障りなく切り抜けたいけど事実は隠しきれないか……。
「え、そんなに言い出しづらいくらい豪華なの?」
「い、いやまぁ……」
「俺以外の春の代表バンドメンバーだぞ」
「「「え!?」」」
まぁそうなるよな普通。俺だって信じられないもん。
言っちゃうんですかと驚く気持ちよりも、むしろ言ってもらって助かったと思うくらい現実味がない。
「マジかよ……。いや、白井ならいいバンド入れるとは思ってたけど、それはブッ飛びすぎだろ」
「川添……俺が一番驚いてるんだよ」
組めたらいいなと思うことすら
実際一年一同からすればそんなもんだ。
「林田が
バカと同等に語られるのは不服だけど確かにそうだ。
浴びたことのない類の視線がすごく居心地悪い。
「何故白井だけ……俺なんてバンド決まってすらいないのに……」
「え、マジ?」
椎名から衝撃の告白が。
川添は夏バンの話で合流が遅れたことを見るに、決まっている。
小沢も同じく決まっている。
「俺もだわ」
「お前は仕方ない」
ここにいる面子で夏のバンドが決まっていないのは、椎名とバカだけのようだ。
椎名が妙に食い掛かってくる理由が少しわかった。かわいそうに。
それを見かねたか、ヒビキさんがフォローを入れた。
「一年じゃそんなの当たり前だぞ。俺なんか一年の夏バンは最後まで余ったぞ」
意外な事実に一同驚愕した。
これだけ上手いのに誘われなかったということに。
「まぁ芸人ノリのメガネデブなんて誘おうと思わねぇだろ! ハッハッハ」
自虐すごいな。
まぁしかし椎名の場合、あのマイクパフォーマンスが裏目に出た可能性もある。
ふっ、少しかわいそうだが自業自得だ。反省しろ。
「白井……俺が悪かった。メガネのことも謝るから……」
「俺に謝ってどうすんだよ必死だな」
いたたまれない空気が充満する。
かたや勧誘なし、かたや最高のメンバー。
自慢するつもりなど毛頭ないが、客観的に見て立場の優劣がありすぎる。
「毎日チャリ乗りながら歌ってるのに!!」
……それは練習熱心というよりただヤバい奴じゃないか。
血の涙でも流しそうなほど悔しがる椎名。
そして結局何も考えてなさそうな林田。
部長が腕組みをしながら少し考えて、言葉を出した。
「よし、じゃぁ俺とやるか?」
一同再び驚きの声を揃えた。
そういう冗談は言わない人だとわかっていても、信じられない程の突飛な提案だった。
「何驚いてんだよ。椎名と林田と俺でってことだよ」
「い、いやそれはわかりますけど……いいんですか!?」
言われた本人が一番驚いている。
バカも何か言っているが無視しよう。
あれは日本語じゃない。日本語に発音が似てるだけのよくわからない言語だ。
「いいじゃねーか。どうだ? 俺と一緒にバカ騒ぎするバンドってのは」
「お願いします! 超やりたいです!」
お祭りバンド的なものか……超楽しそう。
同期を救ってもらった気がしてか、関係ない自分と川添と小沢も礼を言う。
部長はいつものとおり豪快に笑って、いいってことよと腹を叩いた。
「は~、よかったな椎名。一躍最高のバンドじゃん」
「超うれしいっす……気遣ってくれて申し訳ないっす」
川添が祝福すると、椎名は本気で嬉しいのがわかる声色でそう言った。
「いや同情じゃねぇぞ。元からそういうバンドもやりたかったからな。お前らのライブでの度胸見てなかったら誘わんかったぜ」
なんと裏目に出たと思われたあのパフォーマンスが気に入られてたと。
バンドっていうのは何があるかわからないものだ……。
「ありがとうございます! へへっ、白井には……感謝しねぇとな」
「お前手のひらクルックルだな」
調子のいい奴だな本当に。
でもライブでのそれが認めてもらえたの嬉しさはよくわかる。
「あとは他のパートどうするかだな」
「ですねぇ。川添……出来る?」
「……超やりたいけど正直厳しい。結構難しいのやるみたいだから」
川添勧誘失敗。
一年で掛け持ちは実際荷が重いのはしょうがない。
でもふと思う。というか相当簡単な話だ。
「ヒビキさんがベースだってわかれば、すぐやってくれる人見つかりそうな気が」
一同確かにといった声を上げる。部長はキメ顔をしている。
「だがな白井よ。それは少し違う」
違うのか……。
でもネームバリューに頼るのはいいことではない、それも事実。
「俺がやりたいのはバンドメンバー全員が最高に楽しんで作り上げるライブ!
必要なメンバーは俺の名前についてくる奴ではない。そう、ソウルメイト!」
「「「「ソウルメイト」」」」
そうじゃなければ意味がない、部長はそう言いたいのだろう。
何故だかすごく納得がいくし、それが揃えば本当にいいバンドになりそうだ。
「でもそれ超楽しそうですね。難しいこと考えないで楽しむっていうのもいいですよね。そういうのも一度はやってみたいです」
これは何の気なしに言った言葉だったし、これから大変なバンドに挑む自分の本音でもあった。
しかしこれが部長のソウル琴線に触れたらしい。
「わかってるじゃねぇか……! じゃぁ鍵盤お前な」
なん……だと!
「い、いや……めっちゃやりたいですけどキツいです……」
余裕でキャパ超えする未来しか見えない。
部長とやれるまたとない機会ではあるが、間違いなく無理が生じる。
「大事なのはソウル! もしやるならお前に負担かからないようにすればいいしな」
鍵盤の負担を減らせばということか。
……それでも余裕があるとは思えない。
「全曲じゃなければどう? サポート的な」
サポート……。
全曲鍵盤入った曲を選ぶわけでもないなら、それもあるか。
「お、椎名いいこと言ったな。まぁ鍵盤ならそういう方法もあるぞ。毎年そうやってるバンドあるし」
「それなら少しは……でも巴先輩たちに許可貰わないと」
「言っておいたほうがいいだろうな。毎年それで問題起きるし」
……怖。でもそれは当然だ。
一本で集中してやってくれると思ってたら他のバンドも、なんてなったら誰だっていい気がしない。
「じゃぁ白井は保留ってことか。迷惑かけられないしな。あとはドラム……。ヒビキさん、誰か思い当たる人いますか?」
「やってくれればだが……。これしかいないってのがいるな」
自分にも一人しか心当たりがない。
あの人ならそれぞれの負担とかも考えて選曲できるし、何よりお祭りバンドという空気にピッタリだ。
「俺が誘うより白井が誘った方がいいんじゃないか? 仲良いだろお前」
「やっぱり八代先輩なんですね……」
全員が納得した声を上げた。
でも何故自分が誘った方がいいのだろうか。
やるにしても自分はサポートでの参加になるだろうに。
「俺が誘うと角が立つからな。無理くり頼んだみたいで。一年が頑張ってメンバー集めて、そこに八代が参加したって方が周りも納得しやすいだろ。ダメだったら他だけど、まだ時間あるしな」
立場を利用したように見えるということか。
それに、八代先輩には自分自身から頼みたい気持ちもある。
自分だってあの人ともう一度組みたい。
「わかりました。でも巴先輩に許可もらってから……」
「頼む白井! お前の双肩にかかっている!」
「お前割と他力本願だな」
結局、企画は自分次第になってしまった。
でも実現したら最高に楽しいだろうし、上手くこなせれば確実にレベルアップにつながる。
部長と、そして八代先輩ともう一度バンドを組めるチャンスを逃したくもない。
少しだけ浮かれ気分、そんな気持ちで時間は過ぎていった。
§
解散後、帰り道で部長から連絡が届いた。
「やるなら本気で考えて話をつけてこい」
たったそれだけだったが、この言葉の重みはしっかり考えなくてはならない。
ただでさえ重い責任を負った巴先輩達とのバンド、それに加えてサポートと言えどもう一つ。
甘えは絶対に許されないのは予想できる。
浮かれた自分を少し自戒するように、気持ちを新たにした。
隠しトラック
――川添と小沢 ~帰りの電車にて~
「なぁ小沢」
「あぁ……俺も今言おうと思っていた」
「何をだよ意味分かんねぇ」
「え、白井のことじゃないの」
「いやそうだけどエスパーかよ」
「グラップラーだよ」
「お前も大概イカれてんな。いやしかしよ」
「……羨ましすぎるよな」
「そう。白井が一番頑張ってるのはわかるけどな」
「なんか結局アイツに全部もってかれた感あるな」
「な。俺ほとんど喋ってないし」
「俺なんかスペックの真似した時がピークだぞ」
「誰だよ……」
「奇しくも同じ構えだ……」
「いやそういうことじゃねぇよ」
「
「読まねぇよ……」
「はっ!! 忘れてた!!」
「何をだ。急に」
「椎名が復活した時、
「誰だよ……」
「
「クッソ……読むよ!」
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