何気なく、さりげなく 後編
前編の許されざるあらすじ
ライブのリハーサルを終え、八代先輩と月無先輩に連れられゲーセンへ。
子供のようにはしゃぐ月無先輩、それを微笑ましく見守る八代先輩、そして距離の近さに喜ぶキモい白井。
ゲームらしいゲームはやらないのか、という質問に月無先輩はある提案を……。
女子二人とゲーセンエンジョイとか白井マジでお前。
「じゃぁめぐるの好きなのやろう。みんなで出来る?」
「できますよ! 少し狭いですけど!」
少し狭いけどみんなで出来る?
アーケードじゃないのなら何だろうか。
「あっちのかどっこにあるので、みんなでやりましょう!」
と言って指差した先に皆で向かった。
先導された先にあった筐体は……
「何これ、クイズマジックアカデミー?」
KONAMIのクイズアーケードゲーム。
なるほど、確かにこれならみんなで遊べるし、フェアとかもない。
それに平日の昼間なので、他にやっている人もいない。
美人二人とだなんて、妬まれるような目も気にすることなく楽しめそうだ。
「これ好きなんですよ~。キャラも可愛くて、曲もよくって! あたしはこれで受験勉強したようなものです!」
……何言ってんだこの人。
しかし月無先輩の無駄に幅広い知識はこのゲームあって故か。
確かにキャラも可愛いし、そういえば曲もいいと言っていた。
「これ、十選に一曲入ってましたよね」
「そう! ゲーセン来るたびちょっとやってて、曲いいな~ってサントラ全部買っちゃった!」
デモ画面を見ていた八代先輩が口を開いた。
「へ~、楽しそうだね。どうやるの? これ」
「じゃぁ早速やりましょう!」
複数人数でのプレイを推奨しているのか、少し横に長い椅子。
まぁ自分は後ろから観る形でいいだろう。
「何してんの? 座りなよ白井」
「え? でも先輩を立たせるわけには……」
「いや私座ってると落ち着かないから。後ろに立ってるよ」
……なんかもう全面的に観念した方がいいかもしれん。
そんなこんなで椅子には月無先輩と自分、八代先輩は椅子の後ろへ。
「先輩キャラは何使うんです?」
やったことはないがマジアカのキャラは大体知っている。
何故なら不肖メガネ好き白井。Pix○vでしばしばメガネでタグ検索をかけるほど。
そしてその中で見つけたマジアカのキャラ数名。気になって登場キャラクターは一通り抑えた。
アメリア先生がNPCなのは知っている。なので先輩の選んだキャラはクララであってほしい!月無先輩はおさげ好きだしその可能性も……。
まぁどのキャラも可愛いからなんでもいいっちゃいいんだが。
「決まってんじゃん。出撃用意~!」
サ、サンダァァァァァァス!!!! 軍人! よりによって軍人!
魔法使いっぽさ皆無じゃねぇか。男キャラにしてもこいつかよ。
そういや筋肉大好きだったなこの人……それにしても脳筋ならユリとか色々あるだろ。もっと女の子らしいチョイスとか出来んのか……。
「へ~、ジャンルあって色々選ぶのね」
「はい! 何にします? 軽音三人ですし、芸能・音楽とか!」
予習問題のジャンルを選ぶ。
スポーツとか文系とか理系とか……アニメ&ゲームなんてのも。
「俺全然力になれなそう……。文系とかどうです? 文系大学生ですし」
「おっけ~、じゃぁそうしよう!」
ふっ、計算通り。
文系課目の教師キャラがアメリア先生だということは知っている。
ならば文系を選択した時に会えるということは自明の理。
そして始まった予習問題。
「アメリア先生の曲好きなんだ~。すっごく可愛いの!」
なるほど、キャラのテーマ曲。
確かにいい、というかすごくいい。
自分の好きなキャラの曲がいい曲だとなおさら好きになる。
「可愛いねこの曲。……でもめぐるがゲーム音楽好きなのはこの前知ったけど、あんたゲーム中もずっと曲聴いてんの? よくそんなことできるね」
確かに……部室の時もいつもそうだ。
クイズゲームなら頭も使うから、集中して聴いてる余裕なんてないだろうに。
変なとこハイスペックなんだよなこの人。
「う~ん、でもこの曲とかは多分、クイズだって考えられてますよ? それに、曲が邪魔しないように音量変わったりするようなってます」
なるほど、確かに問題が始まってすぐに曲の音量が下がった。
「この曲とかは、メロディー自体も主張激しくないですし、邪魔にならないように作られてる気がしますね」
「へ~、よくできてるんだね。ゲーム音楽って」
BGM的な考え方が強いということかもしれない。
機能的な側面をしっかり考えて作られてるということか。
「ヤッシー先輩にもゲーム音楽の魅力が!」
褒めてもらえたことが嬉しいのか、声がより嬉々としたものに。
嬉しそうな顔をしているんだろうけど……すごく近いせいで首をそっちに向けるのが恥ずかしい。
「さぁ、予選始まりますよ~。集中です!」
そうして三人で問題に集中。
予習と違いランダムなので自分はわからない問題だらけだったが、慣れている月無先輩と、運良く得意なスポーツジャンルが当たって次々答える八代先輩。
微妙な無力さを痛感しながら予選前半は無事通過した。
「白井全然ダメじゃん~」
はい、ダメです。
問題わからないのもそうなんですけど、月無先輩が近くて気が気でないんです。
タイピング打つときこっち側まで身を乗り出してくるから本当に近いんです。
ぶつかる肩に全神経が集中しちゃうんです。
「次は得意なジャンル当たるといいね!」
そして始まった予選後半、文系の問題。
「う~ん、知らないこれ! ヤッシー先輩わかります?」
「私もわかんないな~。寺とか清水寺くらいしか見た目覚えてないよ」
……あ、知ってるぞこれ。
「これですこれ、南禅寺!」
おし、正解! やっと役に立てた!
「すごい! よく知ってるね白井君!」
二人の褒め言葉が非常に嬉しい……! 何故か寺詳しくてよかった!
そして緊張が少し弛緩したおかげか、ふと気づいた。
「お、このステージの曲めっちゃいいですね」
それまで全然気付かなかったが、かなり好みの曲。
「いいよね! この曲!」
「私も気付かなかった。こんないいの流れてたんだね」
お、八代先輩も気に入ったようだ。
「ヤッシー先輩もわかってくれるとは! ゲーム音楽いいって言ってもらえるの本当に嬉しい!」
「BGMってこういう良さあるよね。気づいた時にわかるっていう」
あ、でも深追いしちゃぁ……。
「そこまでわかってくれるとは! そうなんです! ただ曲がいいだけじゃないんです!」
……嘘でしょ。
多分八代先輩からも同意してもらえたから喜び二倍で覚醒速度も二倍。
……これ確実にいったわ。
「この! ふとした時に気づく曲のよさこそBGMとしてのゲーム音楽の魅力!」
マジなん? ここ公共の場ですよ?
―― この時画面内で鳴った予選終了のベル。それは開戦のゴング。
「ゲームに集中している時には気づけない音楽そのもののよさ!ふと画面から意識を離した時に初めて気づくそれは何ものにも勝る喜び!BGMとして埋没していた輝きを見つけられた時のそれったら他の音楽では絶対に味わえない最高の~中略~!」
……気づいたときにはもう遅い。
というかそんな隙なかったハズなのに。
八代先輩唖然としてるし。
「白井……これ、どうしちゃったの」
「あ、発作です。気にしないでください」
うん、気にしない。
不安を駆らぬよう、敢えてここは何でもないと強調しておこう。
「お、おぉそうか。……放っておいていいの?」
「はい、こうなったら止める手立てはありません。吹先輩も体験済みです」
非常事態ではない。
前例もあり、ただ放置こそが最善と端的に伝えた。
「……おもしろ」
おもしろって……。
よかったですね月無先輩、面白いで済みましたよ。
「なんか可愛いねこれ」
「……ちょっとわかる」
「で!マジアカみたいな文字に集中するようなゲームだとそれが何度も体験できちゃうの!ステージの風景だったりキャラのテーマ曲だったり決勝戦のアツい曲だったり、なんともなしに耳に入ってるだけでそれがどれだけの効果を発揮していたかなんてのを思い知らされ~中略~」
うん、やっぱり全然止まらない。決勝戦始まっちゃうよ。
「めぐる先輩、問題選択ですよ、問題選択」
「KONAMIのサウンドチームって昔からそういうとこ本当に上手いのよ!アクションにしても何にしても無意識の中に浸透してプレイヤーをゲームに引き込む曲作りって~以下略~」
……ダメだ全然聞いてねぇ。
「よし白井、スポーツだスポーツ。めぐるはもうダメだ。私らだけでやるしかない」
状況対応早いな八代先輩。
超常現象レベルのこれをすんなり受け入れている。
そして始まった決勝戦。
スポーツは八代先輩が当たり前のごとく回答し、運良く得意な問題が続いたこともあり、勝てるかという状況。
最後の問題は他のプレイヤーが選択したアニメ&ゲーム。
知ってる問題来い知ってる問題来い……っていうか月無先輩うるせぇ!
おかげでBGMが煩いとどれだけ邪魔かってのがよくわかったぜ!
「あ、ゲームの問題。白井わかる?」
「ぐ、やったことはあるけど……すいません、ド忘れしました!」
他の回答者の様子を見るにこの問題次第で順位が決まる。
落とせば一位はないので答えたいが、答えがハッキリ想像できるか慣れていないと解けない並び替え問題。
くっ、万策尽きたか……!
「マイク・ハガー!!」
「え!?」
なん……だと?
答えたのは月無先輩。
なんと土壇場で状態異常から回復し、最後の問題に答えた。
何事もなかったように……ではないな、うん。めっちゃごまかそうとしてる。
決勝は見事一位、ゲームでは勝利を手にしたが変な汗かいてるよ。
「い、いやぁ勝ててよかったですね! ね! ヤッシー先輩、白井君!」
さてどう反応すれば。困った。
というか面白いとか言ってたけど、八代先輩的に今の大丈夫なのか。
「めぐるそんなゲーム音楽好きなんだね」
おや、意外と普通に。
「は、はい。ゲーム音楽好きって言ってもらえると嬉しくって……。ごめんなさい! 迷惑でしたよね」
自分以外には二回目だが……どうなるか。
「アハハ、なんだよ~。可愛いなめぐる。そんなとこあるんだね」
お? なんともない?
「迷惑とか思うわけないだろ~。本当に好きってことでしょ? 気にしないって」
おぉ、さすが八代先輩。秋風先輩同様に気にも止めずに受け入れていた。
そしてこれは……あすなろ抱き! なんと包容力(物理)まで備えておられる。
くそぅ何て美しい絵面だ……。
とりあえず言えることはないので目に焼き付けよう。
「本当です……? 引きません?」
「引くわけないだろ~。可愛いやつめ」
あぁこのやりとりずっと見ていたい。
「よかったぁ~。また白井君以外の前でやっちゃって不安でした~」
自分相手なら遠慮ないってのも考えものなんだが……。
ゲーム音楽が共通するとは言え、なんだろうこの、サンドバッグ感。
「え、白井にはよくやるの?」
「そうですね……ちょっと」
「ちょっとじゃなくないですか!?」
いやいやと反射的にツッコむ。実際何度もやってるだろうに。
「白井君はゲーム音楽仲間ですから!」
「……実際サンドバッグみたいなもんですけどね」
すると八代先輩は何か思い当たるようにニヤニヤ。
いや本当にそれなだけですからニヤニヤされても困るんですが。
「ふ~ん、じゃぁそういうことにしておこう。ま、他の人にあんまやるんじゃないよ、それ」
「はい、大丈夫です! 白井君いなければまずないので!」
……いいことなのやら悪いことなのやら。
「へ~、よかったね、白井」
「……? まぁ慣れてますから」
そんなこんなあって、ゲーセンを後にした。
八代先輩はさすが雑食ということもあってゲーム音楽に興味を持った模様。
マジアカのサントラを月無先輩に貸してくれと言っていた。
秋風先輩の時と同様にそれが本当に嬉しいようで、終止笑顔でゲーム音楽の魅力を八代先輩に語っていた。
「それでなんですけど、ヤッシー先輩……」
「どうしたの?」
月無先輩が少し言い澱む。多分あのことだ。
「夏合宿で……お楽しみで……」
やはりまだ少しだけ、ハッキリ言うのが難しいようだ。
「うん、やろうか、ゲーム音楽。めぐるの好きなのやろう」
……おぉ。仲間二人目。
八代先輩は秋風先輩の時と同じように、全てわかったように言葉にした。
月無先輩から言うべきことだろうけど、何気なく、さりげなく、八代先輩はその言葉を口にした。
「いいんですか!?」
月無先輩の顔が今まで以上に明るくなった。
いいに決まってる、そう返した八代先輩も最高の笑顔を見せた。
――
「ま、そのために夏バンも頑張らなきゃね。今日のライブも」
「はい! 全部全力で頑張ります!」
なんの気なしに出かけた先に、夢へつながる話が待っていたというのは幸運だ。
とはいえ、みんなに愛され、日々努力を続ける月無先輩だからこその当然の偶然かもしれない。
ゲーム音楽をする仲間もこれで二人目。順調に話は進んでいる。
隠しトラック
――ニヤニヤ八代 ~ゲーセンからの帰り道にて~
「しかし初めて見たけど、すごいねあのめぐる」
「あ、あぁ。状態異常のことですね」
「状態異常って……。結構あるって言ってたけど」
「実は初対面からアレかまされましたよ」
「アハハ、そりゃ強烈だね~」
「でも慣れましたけどね。俺もゲーム音楽好きですし」
「へ~、それだけ?」
「……それだけって、何もありませんよ」
「そっか。めぐる可愛いから何でも許せちゃうのはわかるけどね」
「ぐ……そういうわけでは」
「じゃぁどういうわけ?」
「ぐ……誘導ですよこれ!」
「アハハ。わかったわかった。でも言えるようになったら今度聞かせてよ」
「だから何にもないですって。憧れはありますけど。鍵盤として」
「はいはい、じゃぁそういうことにしておこう」
「くそぅ勝てる気しない……」
「私に勝つなんて二年早いね~」
「意外と現実的な数字」
「アハハ、まぁ三年になったらわかるよ。私は後輩が可愛くて仕方ないから!」
「はぁ……」
「もちろん白井もだぞ?」
「え」
「うわ、素で照れてる。おもしろ」
「ぐぬぬ……」
*作中で名前が出た曲は曲名とゲームタイトルを記載します。
『アメリア』 ―― QUIZ MAGIC ACADEMY Ⅵ
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