幕間 イノセント・アサルト 後編

 前編の怒涛のあらすじ


 部室でゲームをしていると同じく一年の夏井の襲撃を受けた白井。川添からマックへの呼び出しを食らったところ、何事にも興味津々な夏井も同席することに。

 合流した先で白井は、月無先輩について夏井から質問攻めに合う。

 困ったことに全く悪気のない夏井ちゃん。無邪気イノセント襲撃アサルトによってグロッキーになった白井は月無先輩のことを正直どう思っているのか。




 白井退席中 


「私、悪いことしちゃったでしょうか……。怒ってませんでしょうか……」

「お、怒ってはいないと思うから大丈夫かと」

「しょんべん我慢してただけじゃね?」

「林田は俺のポテト食ってていいから静かにしてろ」

「マジか! やった! サンキュー川添!」


 白井を除いた一年生で会話が続く。

 悪いことをしたと思いつつも、実際どうであるのか、夏井は気になるようである。


「でも好きにならないのが不思議なくらい美人ですよね、月無先輩って! 白井君本当になんとも思ってないんですかね」

「う~ん……。難しいところだと思うけど」

 

 実のところ白井は無自覚であるが、めぐるへの好意を一度も否定していない。

 ごまかすことがほとんどで、言い訳を並べて蓋をするような態度をとる。

 周囲の人間にはそれに気付いている者もおり、白井自身がその話題を避けることも、この場の一年生男子は知っている。


 白井曰く、

 ――「尊敬と感謝があるから裏切るようなことはできない」

 ――「先輩がそう思われるのは申し訳ないし迷惑がかかる」

 ――「そんなこと考えている暇があったら真面目に練習して応えなければ」


 発言のいずれも、めぐるのことを想った裏があるのは明白である。

 異端審問の際に深く詮索されるのを極端に嫌がって、めぐるの不利益になることに対して本気で怒ったこともその証左になっている。

 それらを踏まえれば、白井がいかに部活最優先と主張しようとも、実際には部活と同等かそれ以上にめぐるのことを想っているのは一目瞭然だった。


 白井の言葉に嘘はないし、周りにも額面通りに歪みなく伝わっていたため、仲の良い美人の先輩に対する独占欲のような暗いものでないことも皆わかっている。

 一年男子も軽々しくそこに触れるつもりはなかったが、これ以上夏井が無自覚に悪意なく白井を追い詰めたり、迂闊な流れで噂が独り歩きしてめぐるの耳に届くことを防ぐため、可能な限り白井を尊重しながら今までの話をした。


「……それって本気で好きじゃありません? 本当に大事に想ってなければ普通言いませんよそんなこと」

「ま、まぁどう見てもそう見えるよね。でも下心があるように思われるものイヤみたいだし、囃したてたら悪いかなって。ほら、入部してまだ二カ月だし」

「そうですかねぇ……。二カ月とはいえあれだけ親密だったら仕方ないと思うんですけどねぇ。昨日初めて話してるとこ見ましたけど、すっごく仲良さそうでした」


 夏井から見ても同じことだった。

 男子一同も実際は再確認したにすぎない。

 しかし単純な問題ではなく、下手に触れると二人の関係を壊しかねないし、何よりめぐるへの感情に関して白井自身が無自覚、もしくは否定はせずとも認めていない。

 要するに、から口出ししづらいのだ。


 真面目に部活に打ち込みたいという気持ちが本気であることもわかっていたので、改めてこの話題は敬遠すべきという結論に落ち着いた。


「でもほんと浮いた話ないよなこの部活」

「先輩達のそういう話もあまり聞きませんよね。あ、でも吹先輩が下心を浄化してるからって説を聞きましたよ」

「吹先輩って誰?」

「秋風先輩です!」

「「「あ~」」」



 白井帰還 視点回帰



「何、みんな今声揃えてたけど」

「部活で浮いた話が少ないのは、吹先輩が下心を浄化してるからって説です!」


 あ~……わかる。

 実際にもたらした奇跡を目の当たりにしているし、ありそうな話だ。

 まぁ、それ以上に音楽に真剣に打ち込む場という意味合いが大きい気がする。


「実力主義って言ってるしそんな余裕ないってのもあるんじゃない?」

「確かに私達いっぱいいっぱいですもんね」


 そう、だから今はこれでいい。

 余計なことなど考えず、ただ部活を頑張る。

 それが楽しいし、その展望が危ぶまれるようなことは一切必要がないのだ。


「ってかさ~。気になってたんだけどさ~」


 何だバカ。


「夏井ちゃんってなんで同級生にも敬語なん?」


 確かに、割とどうでもいい話だが少し気になっていた。


「ん~、何ででしょう。自分でも気にしたことありませんでした」

「あと俺も気になってたことが」

「お、小沢君まで……。な、何でしょう!」

「白井もだけど、夏井って先輩のこと先輩って呼ぶよな。大体さん付けが普通だと思ってたわ」


 言われるまで気付かなかった。確かにそうかもしれない。

 自分と夏井以外の一年生はみんな先輩のことをさん付けで呼ぶし、二年生の先輩方もそうかもしれない。


「あ、でもめぐる先輩はどっちも混じってるな。その辺は人によるのかもね。

 ……ん? そんな意外な話か? これ」


 そんなにびっくりするような反応をされても。

 月無先輩の話題が全部ダメとか辺に気をまわされても困る。


「……こ、高校で部活やってたとかそういうのもあるかもですね。うちの吹部は上下関係厳しかったのでその辺徹底してました!」

「あ~、それで敬語が染みついちゃったとかそういうことか」


 逆にいえば自分はまともに部活をやってこなかったので、先輩と交流するような機会も少なく、先輩は先輩という感覚かもしれない。

 そのあたりは色々あるのだろうと思って話を聞いた。


「あ、ポテトなくなったわ」

「お前結局勝手に全員の食ってんな」

「あ! 私のもなくなってるー!」

「だって冷めたらおいしくないじゃん」

「うぅ……。意味がわからないです……」


 まるで筋の通らないバカの謎理論が提唱されたあたりで、川添が思いの外時間が経っていることを知らせた。


「夏井ちゃん時間大丈夫?」

「あ! そろそろ帰らねばです。すっごく楽しかったです! また今度私も参加させてください!」

「まぁよく集まってるからまたおいでよ」


 一時はどうなるかと思ったが、一年生だけで集まるのは気が楽で楽しい。

 毎回だとこちらの体力が持たなそうな気もしたが、部活のことで同じ一年生の目線が色々知れるのも有意義だ。


 §


 自分は大学の駐輪場に自転車を置いてあるので、店の前で皆と別れ、同じく自転車通学の椎名と一緒に向かった。


「しかし白井よく耐えたなあの状況」

「あー、悪気ないから仕方ないでしょ。楽しそうでよかったんじゃない?」

「……お前いいヤツだな」

「まぁ実際何かあるわけでもないしな」


 何故か白井といえば月無先輩みたいな構図がある気もするが、実際なんとも思われていなそうなので気にしない方が得策だろう。

 それが察してもらえればそのうち話題としてもなくなる、そんな風に割り切った。


 §


 駅前


「みんな気付いた……。よな」

「……白井君ですよね」

「めぐる先輩って呼んでたな」

「しかもあれ自分で言ったこと気付いてないぞ」

「あいつ下の名前で人呼ぶの嫌いって言ってたのに」

「……そっとしておきましょう」

「夏井も学習したか……」

「しました」





 隠しトラック

 

 多いのでまさかのト書きで。


 ―― 一年生会議 ~マ○ックにて~


白:白井  夏:夏井  川:川添  椎:椎名  小:小沢


夏「先輩達本当にすごいですよね……。

  私達もあれくらいまで上手くなれるんでしょうか」

白「練習あるのみだろうね」

夏「皆さんどうやって練習しているんですか?」

白「俺は教えてもらった通りにかなぁ。曲聴いてコード譜書いて。

  覚えるとこ覚えて。曲と並行してコード弾きの基礎練習も」

川「俺この前土橋先輩に基礎練教えてもらってそれずっとやってる」

小「俺もそんな感じだわ」


夏「ボーカルってどんな練習するんですか?」

椎「チャリ乗りながら夜歌ってる」

白「……ヤベェ奴じゃん」

椎「スタジオだと出来ないからなぁ。カラオケは金かかるし」

川「職質とかされないの?」

椎「あ、この前人生初職質された」

バ「マジか。すげぇ!」

夏「恥ずかしくないんですか?」

白「……言い方」

椎「スタジオとか廊下で歌練習する方がなんか恥ずかくねぇ?」

一同「…確かに」


小「バカはどう練習してんの?」

バ「あぇー?」

川「練習方法聞いてるんだよ。アとエの中間で返事すんな」

バ「オレ? 曲聴いて……。ギター弾いて……。そのうち弾けてるって感じ」

白「具体性皆無だな……」

夏「もしかしたらすごいのかも……」

川「氷上さんがいい意味でも悪い意味でも、教えることないとか言ってたな……」

夏「え! すごい!」

白「放っておいてもできるし出来るだけ言葉を交わしたくないってことじゃね」

川「あ~……。やっぱそう聞こえるよな。バカだし」

バ「氷上さんに認められてんのオレ!? すっげぇ。最強じゃん」

白「じゃぁどっちが強いか今度シールドでシバきあってみてよ」

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