悪党

 おさないころ、人を傷つけてはいけないと教えられたから君にふれるのをためらってしまう。人はたった二音を口にするだけで、どんなトゲよりも鋭く傷つけることができてしまうから、ハリネズミのようにわかりやすければいいのに。ああ、素知らぬ顔して電車に乗るサラリーマンより、包丁を振り回す通り魔のほうがきっと誠実だ。


 いい人になりたい。ちいさいころからそう思っていたよね。だけどいい人になれないまま大人になって、まだ生きている。

 なんでもない今日、悪いことをしている。それは息をすること。吐き出す二酸化炭素に比例して増える罪科つみとがで、人なんていちいち殺さなくても僕ら既に大罪人だ。

 誰かを傷つけてしまうとかどうでもいい。君を傷つけてしまってもいい。ふれることで君を傷つけてしまうとしても、僕は僕のために悪党になる。


 泣かないで。もういい人になれなくてもいいじゃないか。悪党になって、ジープにでも乗って、どこまでも行けたら、それはとても素敵なことだと思わないかい。どうせなら悪党同士、ずっと一緒にいようよ。

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