ケンイチの手紙 1

芳野 京

梗概

《物語の舞台》


「十二人の死にたい子どもたち」から数年後。自死率の急激な悪化が社会問題となっていた日本は、世界ではじめて、自死を幇助する公的機関を設立する。


対象者は成人に限られ、厳密に審査を受けて選別されるが、その基準は「本人が自死を心から望んでいるか」ということのみとされ、不治の病や耐え難い苦痛等の条件を撤廃した。

血液検査で希死念慮に対応する因子を検出できるようになり、そのことが設立を大きく後押ししたと噂されているが、公には何も発表されていない。


自死幇助施設では、一か月間「スタンバイstand by」と呼ばれるスタッフの定期的なヒアリング、サポートを受けて過ごす。一か月後、気持ちが変わらなければ、医師の立ち合いのもと、薬物を自分で血中に投与する方法により、希望を叶えることができる。


《あらすじ》


自死を幇助する公的機関で、自死を希望し訪れる対象者のサポートスタッフ「スタンバイ」として働くことになったケンイチ。彼もまた、三か月前にこの施設を訪れた対象者の一人だった。様々な理由を背負い施設を訪れる自死希望者と出会い、別れる日々を、ケンイチは「あの日」集った者たちへ向けて書き綴っていく。


ケンイチの視点が左側(縦組みの場合上側)、ケンイチが出会う者たちの視点が右側(縦組みの場合下側)に描かれ、それぞれの物語は時に寄り添い、時にまったく食い違いながら、交錯していく。


※一行43文字が表示されるようにブラウザ、ビューワー設定等を調整する必要がございます。

※1万字を超えた部分は、ケンイチの手紙2というタイトルで別途投稿しています



《主な登場人物》


■ケンイチ


原作で背負っていた周囲の人間との不調和は、原作最後で感じた生きることへの希望をもってしても乗り越えがたく、大きな障害となって彼の人生を押しつぶしていった。20歳となり、対象者として自死幇助施設で一か月を過ごすが、その時の「スタンバイ」に大きな恩義を感じ、自身もスタンバイとして働くことを決める。


■晴子(ハル)


自死幇助施設を訪れ、ケンイチが最初に担当する対象者となる。

自身の入信していた宗教団体が、詐欺・公序良俗違反で摘発を受け解散した際、信者の典型としてマスコミに大きく取り上げられてしまい、社会的な圧力により息子と別れて暮らすことを余儀なくされる。その後、寄宿舎生活を送っていた息子は、無数の匿名の人間からの迫害、周囲の者からの凄惨な仕打ちを受け、母親との連絡手段も断たれたまま、十四歳で自死している。


■太郎


自死幇助施設を訪れ、ケンイチが二番目に担当する対象者となる。

スポーツ選手。長く日本代表のエースであり、チームを支えるリーダーとして活躍。テレビでもよく取り上げられ、鍛え上げられた肉体と、整った顔立ち、寡黙でストイックな雰囲気などがもてはやされることも多かった。このところは、怪我による不振、引退がささやかれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る