『5/約束』

「お引き取り願います」


 赤毛の女はきっぱりとそう断った。

 女は玄関先で少年と対峙していた。黒髪の、まだ幼さの残る顔立ちの少年だ。女は鋭い目で少年を睨む。少年はその鋭い眼差しにひるみ、わずかに目をそらした。けれど、それでも女にこう願い出た。


「お願いです。エデとベルに会わせてください」 


 少年は凛とした声で、はっきりと自身の意思を伝えた。女はそんな少年の切実な願いを無視して、再び一字一句違わず同じ言葉を繰り返した。


「お引き取り願います」

「お願いです! 少しでいいんです。エデとベルに会わせてくれさえすれば……」

「エデ、と、ベル?」


 女は一言一言区切るように言い、大げさなまでに首を傾げた。


「何を言っているのかわかりませんね。エデ? ベル? 何のことでしょう? きっと貴方は何か勘違いをしているのです」

「勘違いなんかじゃありません! エデとベルは……確かにここいるはずです! 僕は四年かけて彼女達の居場所を探して、ようやくたどり着いたんです!」


 少年は熱のこもった声でそう語った。


「そんなこと私の知ったことではありません」

「会わせてください!」

「そうですか」

「お願いです! 僕は約束したんだ。彼女達と、エデとベルと。また必ず会いに行くって! 僕らは友達だから」

「友、達……?」


 女はわずかに眉をひそめた。少年が一体全体何を言っているのか、分からないと言った様子で。


「友達、ですって? 嘘をつかないでください。あの子達と友達……? そんなわけがない。だってあの子達はずっとひとりぼっちなのだから」

「『あの子達』……。やっぱりエデとベルはここにいるんですね!? そうなんですね!!」


 少年は興奮した様子で女の二の腕のあたりを掴んで、揺さぶった。女は少年の手を振りほどく。そして冷たい声で再び言う。


「お引き取りください」 

「お願いだ! 僕は彼女達に会いたいんだ!」

「知りません」

「僕は彼女達との約束を守らなくちゃいけないんだ!」

「仮にここにそのエデとベルがいたとして、見ず知らずの貴方に会わせる義理があると思いますか?」


 女は淡々と少年に告げた。けれど少年は引き下がらない。


「でも!」


 女は強い力で少年を突き飛ばす。少年はよろけて数歩下がり、尻もちをついた。女はその隙に素早くドアを閉め、鍵をかけた。少年は呆然と閉められたドアを見つめた。

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