第31話 決戦
次の日。
再び鎧を着込んだおれたちは朝日が昇る前に馬に乗って出発した。フキ高原には朝日が完全に顔を出した頃に到着したが、そこには各地に点在していた国軍が集合していた。
普段は見渡す限り広がる草原の先に山々が連なっているのだが、今日は馬に乗った騎士を先頭に鎧を着た兵で埋め尽くされていた。各々の所属を示す旗が風になびいている。
おれの登場に親衛隊の一人がラッパを甲高く鳴らす。第三皇子の到着を軍全体に知らせたのだ。
その音に合わせて全兵がおれがいる方向に向いて一斉に敬礼をする。一糸乱れぬ動きはさすが国軍と言ったところだ。
静寂と緊張で空気が張りつめる中、親衛隊のルベルディ隊長がおれたちの前に出てきた。
「お待ちしておりました、レンツォ様」
おれは集まった騎士や兵たちを見て頷いた。
「よく集まってくれた。親衛隊はおれの後ろに控えてくれ。でないと、おれが皇子だとフオル国の連中が信じないからな」
おれの言葉にルベルディ隊長が軽く笑う。
「そのようなことはございませんよ。ですが不精ながら後方に控えさせていただきます」
「あぁ、頼む」
「それと、敵がこちらの動きに気づいて向かってきているそうです」
「数は?」
「六百ほどです。謀反軍が四百のフオル国軍が二百です」
「よし。まだフオル国からの援軍が来ていないな。こちらの数は?」
「千五百です」
「突然のことだったが、この短時間でよく集まってくれた。全軍に伝令!おれの指示があるまで攻撃をするな!敵はあくまでもフオル国兵のみだ。首都を奪還するぞ!」
「御意!」
黒馬に乗ったおれを先頭に国軍が行進を始める。首都を囲む塀がもうすぐ見えるというところで、おれは行進を止めた。
「集まっているなぁ」
首都の塀の前にフオル国軍と謀反軍の兵がずらりと並んで防衛の陣をとっている。
おれが観察していると、フオル国軍から背が高く四十歳ぐらいの男が出てきた。いかにも軍人といった堅物の雰囲気で左目の下には傷跡がある。
「あれがトルステンか?」
おれが小声で呟くと、男は大声で自己紹介を始めた。
「我はフオル国軍、第三部隊、総大将のトルステンである!無駄な抵抗は止めて、降伏せよ!」
「なんか、熱血タイプっぽいなぁ。ああいうのって無駄にやる気だけあるから面倒なんだよな」
ぼやきながらも、おれは黒馬に乗ったまま前に出て名乗った。
「我はアルガ・ロンガ国第三皇子、レンツォ・ラ・アルガ・ロンガである!貴国は不法に我が国土を侵略しており、我が軍は我が国を守るため、戦う所存である」
おれの宣言にトルステンが口元だけで笑った。
「貴殿が第三皇子にして微笑の魔人の弟子か」
師匠の二つ名が出てきたことに、おれは内心で頭を抱えた。
微笑の魔人ってどんなことをしたら、そんな恥ずかしい名前が付けられるんだ!?絶対、良いことじゃないはずだ。しかも、それが他国に知れ渡っている。
つまり何かあるたびに、おれは微笑の魔人の弟子って言われ続けるということになる。
それは嫌だ。どうにかして、この二つ名をこの世界から抹殺しなくては。
新たに出てきた問題の対処を決意していると、トルステンがおれに言った。
「そなたの師匠によりアルガ・ロンガ国王は我を失い愚政を行うようになった。その現状を打破し、アルガ・ロンガ国を再びアルガ・ロンガ国民の手に戻すため、我々フオル国はバンティニ卿に助力する。大義はこちらにあり!」
その言葉におれは思わず頭をかいた。戦う前に自分たちが正義である、と名義を語るのは戦う前にすることだ。だが、あまりにも真意と違う建前ぶりに、おれはやる気が削がれた。
そんな、おれの雰囲気を察したサミルが後ろから声をかける。
「我が君、返答を」
「わかってるけど、なんか面倒になってきた」
「我が君!」
サミルが小声のまま言葉をきつくする。そこにトルステンの笑い声が響いた。
「返す言葉も出ないか!そういえば、先日の海上戦ではその強大な魔力で我が船団を追い払ったそうだが、今回はそうはいかないぞ!見るがいい!」
トルステンの声とともに兵が道を開ける。すると、そこから一人の少女が進み出てきた。
それは、茶色の柔らかな髪を風に揺らし、瞳と同じ若草色のドレスを身につけた、どこかあどけなさが残る少女だった。
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