第24話 作戦会議

 しっかり二十分後に起こされたおれは作戦会議が行われている部屋に入った。


 そこには王を始めグランディ卿や城の守備隊長など知った顔も数人いた。だが、誰もが突然の謀反と命懸けの退避に疲労の色が顔に出ている。


 おれは颯爽と部屋に入って行くとテーブルの中心に置かれている地図を見た。


 そこには敵の兵力と味方の兵力がどこにいるのか解りやすく旗が置かれ、これからどのように動くか作戦会議の真っ最中であったことが分かる。ただ、地図を見ただけで、こちらの分が悪いことが伝わってきた。


 おれは王に単刀直入に聞いた。


「だいたいの経緯はサミルに聞きました。これから、どうなさるのですか?」


「ドナート卿、説明を」


 王の言葉に伯爵家の紋様が入った鎧を着た男がおれに頭を下げた。


「初めまして第三皇子レンツォ様。私はこのレガ地方の統治を任されておりますチェルソ・ドナートと申します。お見知りおきを」


 自己紹介してきた男はおれを祭壇がある部屋に案内した人だった。


「初めましてドナート卿。貴殿の助力により我が師は一命を取り留めることが出来た。礼を言う」


「レガ城を治める者として当然のことをしたまでです。これからのことについて私から説明させて頂きますが、よろしいですか?」


「頼む」


 ドナード卿は地図を示して説明を始めた。


「兵力図はこの地図を見て頂ければ分かると思いますが、主要幹線を謀反軍に押さえられているため、我が軍は孤立しております。ですが、各地にいる国軍の戦力を合わせれば我らのほうが圧倒的に勝ります。各地にいる軍をまとめることが出来れば、首都を包囲して占拠している謀反軍を制圧することが出来ます」


「どのようにして各地にいる軍をまとめるんだ?」


「それを検討していたのですが、各要所を謀反軍に制圧されており、こちらからの連絡方法がなく……」


 口ごもったドナート卿におれは視点を変えた。


「まあ、陸からこの地を攻めるには、もうしばらく時間を要するだろうな。問題は海上だ。フオル国からなら陸からより船を出して、この城を攻めたほうが早い。こちらが体勢を整える前に海から攻めてくるだろう。海上の守りはどうなっている?」


 おれの質問にドナート卿はバツが悪そうに答えた。


「ガウイ港で不穏な動きがあるとの情報がありまして、主力戦隊をそちらに向かわせておりましたところでした。そのため、この城には小型船が十と中型船が三しか残しておりません。今になって考えれば、その情報も我が城の戦力を削ぐための偽情報だったと思われます。ですが、海は対岸にある同盟国に援軍を求める使者を送りましたので、その援軍が来るまで持ちこたえれば勝機はあります」


「だが、援軍が来るまでに時間がかかる。フオル国は戦略と機動力の早さで周辺国を取り込んでいることを考えると、援軍が来るまでに、ここが落とされる可能性の方が高い」


 勝機を潰す発言に気まずい空気が流れるが、おれは気にせずに呟いた。


「……小型船が十と、中型船が三か」


 早ければ明日にはこの海域を封鎖するであろうフオル国の海軍に対して焼け石に水の数だ。だが、状況はもっと深刻なはずだ。


 おれは一番気になっていることを訊ねた。


「それを全て動かせるだけの戦力はあるのか?」


 するとドナート卿はおれから視線を背けて言った。


「あることにはありますが……」


 歯切れが悪いドナート卿の様子から、おれはこの城の戦闘員不足を悟った。ある意味、予想通りなのだが。


「船を動かせば城を守る人間がいなくなるということか」


 船の動力は人間が持っている魔力に頼るところが大きい。船を動かすには、それなりの魔力が必要となるため、そのぶん人員も必要になる。


 おれは腕を組んで地図を睨みながら言った。


「とりあえず、海上はおれがどうにかしよう。ただ、おれ一人だと見栄えが悪いから後ろに中型船を二隻つけろ。兵力は船を動かせる最低限の人員がいればいい」


「ですが、それでは……」


 反論するドナート卿を制しておれは地図を指差した。


「いいから、最後まで話を聞け。海上での敵はフオル国の海軍だろう。それなら、おれの魔力の強さをあまり知らないはずだ。特におれが水系の魔法に強いことを。そこで、おれは敵の船が転覆しない程度に威嚇する。そうすれば思わぬ攻撃にこちらを甘くみていた敵は体勢を立て直すために一時的でも撤収するはずだ」


 おれの説明にドナート卿が頷いて地図の一点を指さす。


「なるほど。統制が崩れたところで、ここで地上から狙い撃ちをするのですな。ここら辺は岩場が多いため、このルートを通らざるをえない」


 ドナート卿の言葉に周囲が歓喜の声を上げる。


「素晴らしい」


「一網打尽ですな」


「さすがレンツォ様」


 あまりにも単純に喜ぶ周囲におれは思わず頭を抱えたくなったが堪えた。


「いや、攻撃はしない。と、いうか絶対にするな」


「何故ですか!?」


 驚く人々をおれはゆっくりと見回した。


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