第23話 謀反

 おれはベッドからしっかりと体を起こしてサミルと視線を合わせた。こげ茶の瞳が忠犬のようにまっすぐおれを見ている。


 サミルなら、おれの父親が師匠であろうと変わらぬ態度を貫くだろう。そして周囲におれの父親が師匠であることを知られるようなヘマをすることもない。


 おれはいつの間にかここまで信頼できるようになったサミルを見ながら言った。


「そうか、おかげで目が覚めた。現状を教えてくれ」


「簡潔に話しますと謀反です。ここ十数年で実施された政策に反感を持っていた貴族たちが集まり首都を占拠。謀反側の兵が王を幽閉しようとしたところを我が君の師匠が転移魔法でこの城へ退避されたそうです」


「謀反の首謀者は?ここは何処だ?」


「首謀者はバンディニ卿と言われています。ここはアルガ・ロンガ国の南端にあるレガ城だそうです」 


 バンディニ卿といえば王族の分家の末裔だ。

 政策について師匠が王に助言していることを良く思っておらず、たびたび嫌味を言われた記憶がある。まあ、私利私欲を優先するような人間だったので師匠の提案する政策と馬が合うわけがない。

 だが、その程度で別に気にするほどの力も頭もなかったはずだ。


「裏に誰かいるな?国内ではなく国外の者が」


 おれの推測にサミルが嬉しそうに頷く。


「さすが我が君。ご察しの通りです。裏にはフオル国が関わっています」


 その説明におれは盛大に舌打ちをした。


「バカが。国を売ったな」


 サミルが頷きながら同意する。


「どうせ次期国王にしてやると甘い誘惑をされたのでしょう。操り人形となるだけですのに」


 王がここ十数年で政策を変えたのは急激に大きくなっているフオル国に対抗してのことだった。


 フオル国は周辺諸国を次々と支配、もしくは同盟国として吸収している。このままではアルガ・ロンガ国も支配される恐れがあった。

 だから王は師匠の助言を受けて政策を変え、軍に力を入れていたのだ。だが、それもバンディニ卿によって使用する前に窮地に立たされた。


「首都はどうなっている?」


「バンディニ卿が支配しています。あとフオル国の海軍が港に集結しているそうです」


「そのまま、この城に進軍して王を捕らえるつもりか」


 そこでおれは妙な引っかかりを感じた。このような状況になったら嬉々と暴れだしそうな人物の情報がない。


「抵抗している人物や軍の情報は?」


「王の親衛隊が抵抗していたそうですが、こちらに向かって退却しているそうです。あとは各地で国軍と謀反軍が小競り合いをしています」


 おれは遠まわしに言うのを止めて単刀直入に聞いた。


「アントネッロ卿、もしくはその妻娘についての情報はなかったか?」


 サミルは少し考えた後、はっきりと言った。


「いえ、その名前は出ませんでした」


「そうか」


 まあ、あの親子が簡単にやられるわけがない。どこかで反撃のタイミングを計っているのだろう。


 そう考えた瞬間、おれの脳裏にカリーナの姿が浮かんだ。怪しい微笑みを浮かべて薬を調合しているカリーナの姿が。


 おれは幻影を振り払うように頭を振るとベッドに体を倒した。


「二十分したら起こせ。作戦会議に参加する」


「御意」


 おれはそのまま熟睡した。

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