第13話 天然たらし
あれから一ヶ月。
さすがにおれも人参料理に飽きてきた頃。街に少しだけ異変が見えてきた。
港街でもあり首都でもあるため旅人や商人をよく見かける。だが、その中に少しだけ違和感がある人間を見かけるようになったのだ。
それは一見するとただの旅人や商人にしかみえない。だが、雰囲気や仕草がどことなく違う。視線がどことなく鋭く、通り過ぎる人々を観察している。
おれは道端に布を広げて、その上に商品を並べている男を見た。旅人風の男は格好と並べている商品からして北方の国から来たように見える。
「綺麗だな」
おれはしゃがんで商品の一つを手に取った。それは絹布で精巧に造られた造花の髪飾りだった。
「おう、兄ちゃん。彼女に一つどうだい?」
愛想の良い笑顔で話しかけてきた男におれは訊ねた。
「あまり見かけない髪飾りだけど、これはどこの名産品なんだ?」
「これはドゥレス国の中でも北にある町の特産品でさ。冬は雪に閉ざされるから、織物を使ったこういう物が作られるんだ」
「へぇ。そんなに北にある町なら冬は雪が多いだろうな。この辺は雪なんて滅多にふらないけど」
「そうだな。この国は冬なのに暖かいから驚いたよ」
「これで暖かいのか?」
「おう。北国育ちから見れば春だぜ、春」
「そうなのか。この国の王様なんか寒いから南にある城で過ごしているっていうのにな」
おれの言葉に男の目が一瞬光る。だが、男はそれを感じさせない素振りでおれの話に相槌をうった。
「へぇ、それは贅沢だな。療養が目的かい?」
「さあ?それより、これいくら?一つ欲しいんだけど」
「おう。兄ちゃんいい男だから安くしてやるよ」
そう言っておれは男から髪飾りを購入した。
その後も同じような雰囲気の人間が店を出していれば商品を見ながら世間話をした。
そうして、おれの懐が寂しくなった代わりに各地の珍しい品々を持ってカリーナのところへ行った。
「ほれ、お土産」
おれがテーブルの上に広げた商品を見てカリーナがほくそ笑んだ。
「いい感じに集まってきているわね。どうだった?」
おれはいくつかの商品を指差して言った。
「これとこれを売っていた人は好印象だったな。これを売っていた人は一癖ある感じだった。あと、これとこれを売っていた人は嫌な感じがした。あまり近づかないほうがいい」
おれは身分上、どうしても将来は人の上に立たないといけなくなる。そのため師匠から人の本質の見抜き方をいろいろと学んだ。
その結果、対象の人物を観察し、少し会話をすれば、だいたいその人の本質がわかるようになった。今のところ的中率は百パーセントに近い。
そのことをカリーナも知っているので、あっさりと納得した。
「ほかは?」
「あとは可もなく不可もなくって印象だ」
「そう。じゃあ、確かめてくるわ」
「動くのは、まだ先の予定だろ?」
「下見よ。心配なら一緒に来る?」
「一緒に行きたいが先立つものがないんだ」
おれの言葉の意味を正確に理解したカリーナが不思議そうな顔をした。
「別に私が買うから、お金なんて持っていなくてもいいじゃない」
「お前なあ、子どもとはいえ男が一緒にいるのに女性に払わせるなんて格好悪いだろ」
「レンツォって意外と見栄っ張りなのね」
「悪かったな」
「じゃあ、これ全部買い取るわ」
そう言うとカリーナは銀貨を数枚おれに渡した。
「いや、貸しにしといてくれ」
「なんで?」
「元々これらはカリーナにあげるつもりで買ったんだ。金は家に帰ればある」
「……つまりプレゼントってこと?」
「あぁ。これでも結構悩んだんだぞ。お前の好みってよく分からないから」
そう言うとカリーナの顔が赤くなり無言となった。カリーナの突然の変化におれは首を傾げながら周囲を見た。特に顔を赤くするような気温の変化や出来事は起きていない。
おれは膝を曲げてカリーナに視線を合わせた。
「どうした?風邪でもひいたか?」
「なっ、なんでもない!ほら、行くわよ」
「あ、待てよ」
突然早足で部屋から出ていくカリーナをおれは慌てて追いかけた。
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