第11話 河童の血の効力
港町での河童騒動から数日後。
カリーナに呼び出されたおれは、これまた強制連行されてアルガ・ロンガ国の南部にいた。この地域は農業が盛んなのだが、ここ数週間ほど雨が降っていなかった。そのため足元には乾いた畑が広がっている。
「こんなところに何の用だ?」
「あの河童の血から出来たものを見せようと思って」
そう言うとカリーナは右手に持っていた黒いボールを思いっきり空に向かって投げた。ボールは魔法がかけられていたらしく、そのまま遠くの雲の中に入っていった。
「で、何が起きるんだ?」
おれが隣を見るとカリーナは大きめの雨傘をさしていた。おれは思わず空を見たが、所々に白い小さな雲が浮かんでいる程度で、とても雨など降りそうにない。
おれがもう一度視線をカリーナに向けたところで突然、頭上が暗くなり大粒の雨が降ってきた。
「なんだ!?」
おれが驚いて顔を上げると、そこに青空はなく黒く分厚い雲が広がっていた。
「これが河童の血の効果よ」
どこか悔しそうな顔をしているカリーナにおれは大粒の雨に負けないよう大きめの声で言った。
「万病に効くんじゃなかったのか!?」
「あの血は薬にも毒にもならなかったのよ!こんな効果ぐらいしかなかったわ」
こんな効果って、これでも十分すごい効果だと思うがカリーナは不満らしい。不機嫌な表情のまま説明を続ける。
「雨を呼ぶ作用と、土地に潤いをもたらす作用ぐらいしかなかったの」
「いや、それ農家の人にはありがたい効果だろ。土地を潤すならしばらく雨が降らなくても土地が乾燥しないってことだろ?」
「そうだけど、つまらないじゃない」
「人の役にたつんだから、つまらなくてもいいだろ」
「よくないわ。まったく、こんな無駄なものを作らせて。私の数日間を返して欲しいわ」
「そうか?おれは今までで一番いいものだと思うけどな」
そう言って笑顔でカリーナを見る。すると、こちらを見ていたカリーナが慌てて顔を反らした。
「わ、私が開発したもののすべてを知っていないのに決めつけないでよ。それより、これ。この前の港町で発行された新聞。一面見て」
カリーナがどこから取り出したのか、おれに新聞を押し付けてきた。
おれは言われるまま一面を見て絶句した。
「人魚が現れたってお祭り騒ぎらしいわよ」
新聞の一面の記事には海から空に向かって突き上げている大きな水柱とその上に立った人魚が多数の人に目撃されたと書かれていた。そして、ご丁寧にもそのときの様子が挿絵で描かれている。
おれはずぶ濡れなのに何故か冷や汗が出てきた。
「いや、これ、おれとは限らないだろ。本当に人魚がいたのかも……」
おれは針の穴ほどの小さい希望を込めて言ったが、カリーナにあっさりと潰された。
「あのときレンツォは足を魚に変えていたでしょ?その姿が人魚に見えたのよ。あんな大掛かりな魔法を使うから見て下さいってアピールしているようなものだったし。ちなみに河童は人魚騒ぎの発端ではあったけど、姿は見られていなかったから噂程度だったのに、レンツォの姿で人魚がいる決定打になったそうよ」
「最悪だぁ」
おれは頭を抱えてその場にうずくまった。
「ま、遠すぎて顔までは見えなかったみたいだから、当分はあの港町に近づかないことね」
「いや、今度あの港町に荷物が届くから師匠に取りに行くように頼まれているんだ。あぁ、でも近づきたくねぇ」
「じゃあ、代わりに取ってきてあげるわ」
カリーナの申し出に普通は喜ぶところだが、長年の付き合いであるおれは嫌な予感しかしない。
おれは顔を上げて恐る恐る訊ねた。
「その代償は?」
「話が早くて助かるわ。北部の山中で雪男が目撃されたって報告があったの」
「また、それかぁ!」
おれの叫びを無視してカリーナがにっこりと微笑んだ。
「捕まえてきて」
こうしておれは強制的に雪男の捕獲という任務をさせられることになった。しばらく幻獣狩りで振り回されそうだ。
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