第3話 強制連行

 赤ん坊はカリーナと名付けられ、あれから目が合うたびに、おれは魔法で攻撃をされた。

 魔力封じがされているとはいえ、手のひらサイズの竜巻や突風は当たると地味に痛い。


 しかも歩けるようになると、何故かおれの家に毎日のように遊びに来るようになった。それも必ず魔法攻撃付きだ。

 その上、母親であるリアとおれの味方であるはずの師匠は、その光景をいつも笑顔で眺めているだけ。

 カリーナを止めたり、おれを助けたりすることはない。


 そのためおれはカリーナを傷つけないよう相手をすることを余儀なくされ、必然的に魔力のコントロールが良くなった。

 いや、もしかすると師匠はこうなることを見越して傍観していたのかもしれない。そう考えると微妙な心境だ。


 ちなみにリアにはそういう考えがない。おれが苦戦する姿を心から楽しんで見ているからだ。

 さすが、座右の銘が“人の不幸は蜜の味”である。





 そんな日々を過ごしていたある日の夜。おれは寝る前に本の整理をしているところだった。

 窓ガラスを叩く音がして外を見ると、そこに笑顔のカリーナが手を振っていた。


 夜であることと、ここが二階であることを除けば幼馴染が訪ねてきた普通の光景だ。


 大事なことなので、もう一度言うが、今は夜であり、ここは二階である。


 おれは嫌な予感をヒシヒシと感じながら窓を開けた。


「何か用か?」


 カリーナは浮遊魔法でフワフワと飛んだまま言った。


「ちょっと一緒に来て欲しいところがあるの」


「明日じゃいけないのか?」


 カリーナの年齢は五歳。出歩いていい時間ではない。そういうおれもまだ十二歳のため夜間外出が見つかれば師匠に怒られるだろう。


 ……たぶん。


 普段は怒らない師匠だが、弟子がこんな時間に出歩けば怒るはずだ、きっと。それぐらいの常識は持っていると願いたい。


 おれの心の葛藤など知るはずのないカリーナが頬を膨らます。


「明日でもいいけど、この時間じゃないとダメだからね」


「……なんで、この時間でないとダメなんだ?」


「酒場が開いてないもの」


 その言葉におれは窓枠に頭をぶつけた。そして、おれは回れ右をして再び本の整理に戻った。


「おれは何も見なかった。聞かなかった」


 自分に言い聞かすようにひたすら呟く。


「ちょっと!レンツォ!」


「あれは虫の声だ。おれは何も聞いていない。おれは何も知らない」


 ただ無心で呟き続ける。


「誰が虫よ!こんな美少女つかまえといて!」


「自分で言うと美少女度が半減だぞ。と、いけない。おれは何も聞いていない、見ていない」


 頑なに現実逃避するおれにカリーナが実力行使に出た。


「もう!じゃあ、勝手に連れて行くからね!風の精霊よ。彼の者に自由を!」


 怒ったようなカリーナの声とともにおれの体が浮く。


 思わず手に持っていた本を落とすと、そのまま家の外へ連行された。


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