神龍の息吹、幼女の面影:隅っこの冒険者 ~ドラゴンとしての力を悪用されたくないので、人間界で隅っこでのんびり暮らすために冒険者になる!~
立ヶ瀬
第一幕「隠された翼」
プロローグ「彼女の名はカエデ」
地神龍・カエデ
龍族で彼女の名前を知る者はいない。カエデは龍族の中でも特別な存在であり、神龍族の一体として、「地」属性の力を持ち、息を吹きかけるだけで大地を揺らし、世界に大災害をもたらした伝説級のドラゴンである。
しかし、ある日、彼女は尻尾の抜け殻も残さず姿を消した。
・・・
カエデは、静かに森の中を歩いていた。彼女の周りでは、木々や草、花たちが彼女の足音に合わせてささやいているように聞こえた。
人間の姿になって初めての夜、月明かりの下、彼女は自分自身の存在について考えていた。彼女のこれからの人生は、今までの人生と全く異なる道を歩むことになるからだ。今までの人生は、何も興味を持たず、ただ存在するだけ。かつて神龍の一体として数千年、龍族の頂点として絶対的な力を持ち、時には大地を裂き、都市を滅ぼした彼女。
しかし、その心には深い悲しみがあった。かつての双子の妹の喪失と、その悲しみから引き起こされた大災害。その記憶は、彼女の心に深く刻まれている。
今、彼女はただの少女の姿で、この新しい世界で静かに生きていく決意を固めていた。理由は複数ある。一つは自らが持つ強大な力を他人に悪用されることを避けるために、二つ目は人間の存在が気になるからだ。しかし、彼女の過去の記憶と強大な力が、静かな生活を許すのだろうか。
草木の囁き声が「なんで人間を選んだの?」と、そう言っている気がする。
私が人間を選んだきっかけ。それは数千年前、一人の勇者様が私に「カエデ」と名付けてくれたからだ。勇者様と出会うまで人間に見向きもせず、彼らを助ける気もなかった。全て、私の気分なのだ。敵に追い詰められているのを見かけて、素通りでも良かったのに彼を救った。
当時、後にそれが自分にとって大切な日になるなんて考えてもいなかった。
「私の名前を決めてくれたあなたを、私は一生忘れるわけないですから……」
カエデの心は遠い記憶に浸かり、彼女は緑豊かな森の中で、青空を見上げながら片手を伸ばす。かつてこの場所で勇者様が彼女に名前をくれた日を思い出していた。
・・・
彼女の巨大な龍の姿が、木々の間から差し込む太陽の光に照らされ、心地よい風が肌を撫でる。勇者は恐れることなく彼女に近づいて、穏やかな声で話しかけてきた。
「そういえば、君には名前はあるのかい?」
勇者は彼女に尋ねた。カエデは首を横に振った。彼は微笑みながら言った。
「じゃあ、カエデって名前あげるよ。妹さんはモミジがいいかな。君の綺麗な赤と黒の鱗がカエデの葉に似ているなって感じてね」
・・・
当時は、その名前が彼女にとってこれほど重要になるとは思ってもいなかった。しかし、その名前を受け入れ続けるうちに、彼女の心には次第に愛着が湧いてきた。名前がこんなにも重要な意味を持つとは考えてもなかった。
確かに生まれて一万年以上が経っているカエデだが、5000歳の頃に勇者と出会うまで名前などなかった。その出会いが、彼女が人間に興味を持つきっかけになった。
暗い夜の森をゆっくり歩きながら、彼女はこれから始まる人間としての生活に思いを馳せていた。ただ、自ら人間として生活できるのかと心配もしていた。
「彼のような人間に会いたい。人間の暮らしが知りたい。人間の食べ物が食べたい。人間の伝統が知りたい。」彼女は人間の世界に興味津津だった。今すぐにでも旅に出たいという思いが強まっていた。
「あ、時間だ。じゃあまたね」
山から月が上り始めるタイミングで、彼女は出発しようと決めていた。その時、どこからか「カエデ、気をつけてね」という声が風に乗って耳に届いた。それは妖精たちの心からの願いか、勇者様が託したものかもしれない。
彼女は小さく頷き、一歩森の外へと踏み出した。
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