#9 元魔王は羊毛を刈る


 サターナスは自らのベッドを作り上げる為にマットレスの素材、スリープゴートの羊毛を刈る依頼を受注ことにした。

 しかしキケとサラがついてきたいということなので、村の外に連れ出しても良いか二人のご両親に許可を貰うことにした。


■■■


 キケとサラは姉妹であり、この村で久々に生まれた子供とあってたいそう村人から可愛がられており、それはこの二人の親も例外ではなく、娘達を溺愛している。

 そしてワシはというとなぜか膝をついて座らされている。


「それであなたは私たちの大事な娘達を危険な魔物がいる村の外に連れ出すというのですね?」


 ご両親の背後から『ゴゴゴ』という効果音と共に鬼のような物が見えるのは気のせいだろうか。

 それはさておき、なぜこんなにも怒っているのかが分からない。


「確かに、村の外には魔物がいますがワシが守ってやるので心配はいらないですぞ?」

「何ですか、あなたは私たちではその子達を守れないとでも? いいですかこの娘たちはだれとも結婚させないのですからね!! いや二人ともパパと結婚するんだもんね?」


 この親バカはワシにキケとサラを連れて行かれるとでも思っているのか?

 それにしても、抱きつきに行ってみごとに交わされているではないかパパさんよ。


「パパとはケッコンしない、魔王様とケッコンするんだもん」

「そんなぁ」


 キケとサラはとてとてと歩いてきてワシの後ろに避難する。

 いつの間にか実の両親よりも懐かれてしまったようだ。


「心配なのは分かるが、このサターナスが命に代えても二人を守るゆえ、二人の外出を認めてやってくれんか?」

「うう、ママ、二人にフられちゃったよ」

「よしよし、まぁあの人のほうが甲斐性がありそうだからしかたないよ」

「ひどい!!」

「サターナスさん、わかりました。二人を連れて外に行くことは許可しましょう。ですが絶対に無事に二人を帰すと約束して下さい」

「もちろんだ、この二人を傷つけよう輩がおれば、勇者とて八つ裂きにしてくれよう」


 魔王が人間の護衛をするなどルシフェルムが聞いたら卒倒するだろうな。だがワシが守るのだから、これほど安全なことは無かろう。


「では行くぞキケ、サラ」

「「うん!!」」


 こうして元魔王と子供二人でのプチ冒険が始まった。


■■■


 目的地はギルドで貰った地図をみながら進む。

 そしてキケとサラは初めの頃は元気が有り余り、手をつなぎながら一緒に歩いてくれていたのだが、途中で疲れたと言い出したので肩に捕まらせ背中で眠っている。

 魔王の肉体であればこれぐらいの重さは感じることすら無いのだろうが、この人の体では重さと共に体温を感じる。

 細かいことまで感じ取ってしまうことは、なんと不便なことかと最初は思っていたが、この二人が確かに生きている証を感じられそれは心地よく感じた。

 そしてこの二人が目を覚まさぬ様に魔物を威圧しながら進むので、道中にさしたるトラブルは起こらず、スリープゴートが大量にいる草原にやってきた。


「ほら、二人ともついたよ」

「んんーん、おふぁよう魔王様」

「ほら二人とも周りを見てご覧」

「「えっと……うわー!!」」


 先ほどまで目をこすりながら眠そうにしていたのだが、目の前一面に広がる草原を見て目が完全に覚めて感動してくれたみたいだ。

 あの森に囲まれた村の外に出たことが無いということは、必然的にこういった大自然を見たこともない事になる。といっても魔王城から外出してもこういった場所には来ないのでワシも感動しておるのだが。


「すごいね、魔王様!!」「すごいすごい!!」

「そうだな、二人が大きくなって強くなったらもっと凄い景色の場所い連れて行ってやれるぞ」

「「ほんとうに!?」」

「ああ、本当だ魔王は嘘をつかぬ」


 一面に広がる海などは直ぐにも連れていけるが、ワシにしか連れていけない場所も有るからな。


「魔王様、なんだか楽しいね!」

「ああ、そうだな。よしとりあえずさっさとスリープゴートを探して毛を刈ろうか」

「「はあーい!」」


 しかしこれだけ広いと歩き回って探すのは骨が折れるな。

 こういうときはあいつを使うのが一番だな。


 ということでサターナスは指笛をならす。すると、どこからともなく犬の顔をした魔物、コボルトキングがやってくる。


「あーあ! わんちゃんだ!!」

「なんだお主等、このコボルトキング様を見て犬畜生と申したか? 魔王様の御前でなんたる侮辱、かみ殺してくれるわ!!」

「やめんか」


 キケとサラに危害を加えようとしたコボルトキングの首根っこを掴む。

 コボルトは小型で顔が可愛らしい犬のくせ、こういうところが荒々しくてこまりものだ。

 まぁ犬らしく主人に従順に服従しているともいえるが。

 とりあえずキケとサラに聞こえないようにコボルトキングの近くで話す。


「魔王様、どういうことですか? こやつらはは人間のくせに私を……」


 ここでようやくワシの顔がみえたらしい。犬は視力が悪いと聞くがコボルトであっても同じとは。


「なぜ魔王様が人間のお姿を!?」

「なんだ人違いとか思わないんだな」

「もちろんでございます魔王様。魔王様のにおいをこのコボルトキングが間違える訳がございません」


 それではなんだかワシが臭いといわれている気がするので嫌なのだが、話が逸れるので言うのは止めておこう。


「まぁ良いが、見ての通り今のワシは人間だ。詳しくは魔王城にいるルシフェルムに聞くがよいが、今は人と共に暮らしている。そしてこの子達はワシの保護下にある。それに手を出すということがどういうことかは分かるな?」

「もちろんでございます魔王様。そうとは知らず先ほどは失礼しました」


 コボルトキングは耳を手で押さえ申し訳なさそうにしている。

 その様子をみたキケとサラが駆け寄ってくる。


「わんちゃんをいじめたらダメなの魔王様」


 どうやら、ワシがコボルトキングをいじめているように見えたらしい。


「ああ、すまんすまん。ほらもういじめないから」


 コボルトキングを地面におろしてあげる。

 先ほどは二人に高圧な態度をとっていたコボルトキングだが、ワシの庇護にある者たちだとわかったので、優しくなる。


「大丈夫だよ君たち、いじめられてなんかいないから。私はこの魔王様の配下で間違いを起こそうとしたところを止めていただいただけだ」

「そうなんだ……ねぇひとつお願いをきいてくれる?」

「ああ、いいぞ私に出来ることならば何でもしてみせよう」

「ほんとー! ならお手!!」


 まさかの本当の犬扱いをするとは……これはさすがのコボルトキングも。


「おー! このわんちゃん、えらいよ魔王様!!」

「ああ、そうだな偉いな」


 まさか本当にお手をしていまうとは。キレずに我慢したコボルトキングには後でなにか褒美をやらねばならんな。


「魔王様、それより私を呼び出した用件は何でしょうか? まさかこのようなことをさせるためでは無いでしょう?」

「ああ言うのを忘れていたな、お主には一つ仕事を頼みたくてな」

「はい、何なりとお申し付け下さい!」

「ああ、実はこの草原にスリープゴートがいてな、そやつらをここまで追いつめてきて貰いたいのだ

「そんなことであればお易いご用ですよ。ちなみに他の魔物をつかっても?」

「ああもとよりそのつもりだから構わん。だが見た目が悪くない奴だけにしろよ」

「はい、それではここでしばらくお持ちください」


 コボルトキングは遠吠えをしたかと思うと走りだしていった

 しばらく待っていると、大量の足音が聞こえてくる。


「おいおいどんだけ連れてきてるんだよ……」


 数十匹の[ラージウルフ]をあやつり、[スリープゴート]を追いやってきてくれているが、このままではあれを受け止める事が出来ない。


「仕方ない、土で塀を作るから、こっちにおいでキケ、サラ」

「「はぁーい」」


 キケとサラが危なくないように、再び背中に背負い土に手を当てる。

 そして土を盛り上げさせ、簡易の塀を作り上げる。


「「すごーい!!」」


 そういえばこの二人に魔法を見せるのは初めてであったな。


「何、二人も覚えればこれくらい出来るようになるぞ」

「本当に?」

「ああ、お前たちもワシと同じ黒い目をしておるからな。同じ事が出来ぬ訳がないだろう」

「やったー!」


 まぁ無詠唱でここまでのことを一瞬で行うことが出来るようになるかは別問題だがな。


「さて、そうこう言ってるうちにコボルトキングが任務を果たしてくれたみたいだから、さっさと毛を刈ってしまおう」


 倒してしまうことは出来ないので、一匹一匹捕まえて毛を刈っていく。

 しかしこの毛は直接さわると催眠効果があり、キケとサラはすぐに眠ってしまう。なんどか起こして再度挑戦させて見るも難しそうなので、コボルトキングに見守らせ一人で作業をすることにした。


ーーー数時間後


 何とか毛を刈り終え、アイテムバックに詰め終わった。

 しかしあたりは日が暮れ、夕日色に染まってしまっている。


「さあ帰るか……とはいえ今から歩いて帰るのもしんどいよな」

「でしたら魔王様、私目にお任せ下さい」

「何か良いアイデアがあるのかコボルトキングよ」

「ええ、とっておきの方法があります」


 ということでコボルトキングに任せることにしたのだが、確かにこれは快適だ。

 ラージウルフを密集させその上に乗っているのだが、意外に安定していて振動も少ない。

 キケとサラが起きていたらまた騒いで落っこちそうなので寝かせたままにしているが、あとで教えたらなぜ起こしてくれなかったのかと怒られそうなので黙っておこう。



 こうして村の近くまで、ラージウルフにのって帰る頃にはあたりはすっかりと真っ暗になってしまった。キケとサラのご両親は心配そうに玄関で待っていたが、二人が安心しきって眠る様子をみて安心してくれた。

 しかし途中でなにやらはじきとばした様だが、気のせいだろう。

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