第27話 (和樹)のせいで
久し振りに会えて良かったと俺は聖良と会話して、そのまま全員でショッピングモール内を歩く。
このままお茶でもと思ったのだが聖良は、ううんと断った。
用事が有るから、だそうだ。
それはきっと、宗家の問題だろう。
俺はその事に複雑に思いながらも少しだけ嬉しく思いながら。
歩いていると、背後からオイ、と声がした。
俺は火矢の方を向く。
「.....どうした?火矢」
「.....なんつうか.....お前も一匹狼だったのか?」
「.....そうだな。.....俺は羽が折れた天使みたいな感じだったよ。だけど、あの子が俺を救ってくれたんだ。それでこの今が有るって感じだな。俺はお前を弟の様に見てる。俺が.....今度は救ってやりたいって思うんだ」
「.....お前は俺を救えるのか?」
その様に呟き、火矢が立ち止まる。
俺も立ち止まった。
谷なども目の前の火矢を見下ろす感じで見る。
そんな俺達の横に劇場が有って幸せそうな映画の家族のポスターが貼って有った。
それから俺は火矢を見て、強く、頷いた。
俺が救えると確信して。
「.....例え、絶望が有ったとしても.....俺はお前を救うよ」
「.....何故、救えると言い切れる」
「自信が有るから.....では言い訳にしかならないな。簡単に言えば.....俺は.....俺の悲しみを知っている。孤独を知っている。全てを知っている。だから俺は俺と同じ様なお前を救えると自信が有.....!?」
火矢が震えながら涙を流していた。
俺はかなり驚愕し、りん、も驚愕に驚愕していた。
きっと、初めて見る光景なのだろう。
火矢はそのまま、涙声で俺に話し出した。
まるでどっかの一般的なガキの様に。
強がる姿はそこには無かった。
「.....何で.....お前はそんな優しいんだよ.....俺の周りは.....誰も俺を救ってくれなかったのに何でだよ.....!!!.....お前と居ると調子が狂うんだよ.....クソが!」
「た.....高島くん.....」
膝を曲げて、俺は身長を合わせた。
床に膝を置く。
汚いとか関係無く、俺は今。
「.....火矢。お前はもう孤独じゃ無くて良い。俺達を頼れ。何ならヒーローにも頼って良い。あの女の子の事だが」
「.....グスッ.....クソッ.....」
「.....強いけど.....お前はまだクソガキなんだよ」
谷も笑みを浮かべつつ、火矢の頭に手を添えた。
俺はその谷に頷きながら、火矢の頭を撫でる。
すると、りん、が火矢の右手を握った。
瑠衣も火矢の左手を握る。
「「「任せて」」」
言葉が重なって俺達は驚愕する。
火矢も驚愕した。
そして少しだけ笑いが出る。
火矢も少しだけ笑っていた。
多分、俺達が初めて見る笑みだ。
そうだ、少しでも良い。
俺達は少しづつ、個性を持って。
歩み出せば良いんだ。
俺はその様に思いながら、火矢にハンカチを渡した。
今はこのままでも良いと思う。
少しづつだ。
少しづつ全てを変えるのだ、と思うんだ。
好もきっと、そう賛同してくれると思うから。
俺はその様に思いながら、火矢を見た。
☆
あっという間の16時だ。
俺達は帰路に着く。
電車の中で、りん、瑠衣は眠りこけ。
谷、火矢は外を見ながら。
俺はメッセージでラ●ンしていた。
相手は未知瑠さんだ。
(調子はいかがですか)
(大分、落ち着きました。好.....このまま回復してくれると良いんですが)
(.....そうですね.....)
(そちらは楽しめましたか?)
はい、と俺は返事する。
そして車窓から外を見つめる。
オレンジ色に輝く、海が見え、桜が一本だけ見える。
俺達の街で、そして俺が好に告白された場所だ。
複雑な思いを抱きながら、俺はゴマ粒の様な桜を見つめる。
「.....大丈夫か。和樹」
「俺は別にな。しかし火矢が」
「別に。眠くねぇしよ」
「そら良かった。でも瞼が.....」
喧しいわと俺に悪態を吐く、火矢。
俺はその光景を見ながら、苦笑した。
コイツ、瞼が落ちそうになっているのだ。
「ったく.....調子が狂う。(和樹)のせいで」
「.....ん?今、お前、和樹と言ったか?」
「.....ハァ?言ってねぇよクソボケ」
今までお前とかコレとかしか呼ばなかったやつが、か?
少しだけ顔を赤くしながら、横を見る、火矢。
俺は目を丸くしながら、ニヤついてフッと笑った。
火矢が何だよ、と怒る。
「.....別に何でも無い。ハハッ」
「お前な.....俺を馬鹿にすると大変な目になるぞ」
「ガキがそんな力有るかよ」
「オラ!俺をコケにすんな!」
火矢はイラつき、マジギレしながらパンチを振るう。
そんな火矢のパンチを俺達は受け止めながら、笑った。
ったくコイツは.....。
まあ、面倒だが良い義弟の様に感じる。
その様に思いながら火矢が暴れているのを宥めていると駅に着いた。
俺は瑠衣と、りん、を起こす。
それから、両サイドドアから外に出た。
新しい時が始まる。
そんな感じで、思いながら。
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