想いでコピー

まてりあ

第1話

「う~~ん…。いいアイディアが思い浮かばん!」

 俺は机の前で真っ白な原稿用紙と格闘していた。

 小説家になりたくて現在コンテスト用の小説を考えている。

「アイディアさえ……アイディアさえ浮かべば、スラスラと書けるのに何も浮かばねぇー」

 イライラして頭を掻きむしると原稿用紙にフケがぽろぽろと落ちた。

 何やってんだと思いつつ、人差し指で一つずつ拾い集め、ごみ箱へ捨てて気持ちを落ち着けた。


 ……


「うん。あれをこうして……それで」

 おっ、これはいいアイディアが閃きそうだという予感がした時、壁の薄いアパートの隣の部屋からゲラゲラ笑う声がした。

「あっ」

 そこまで出かかっていたアイディアが吹っ飛んでしまった。

 俺は壁を睨み付け、パンチをぶつけてやろうとしたが、そんな勇気はなく、すんでのところで止めた。

「はぁ~、散歩にでも行くか」

 俺は気分転換することにした。


 歩いて数分のところに電気街がある。

 電気店で最新の電化製品を見てまわるのが趣味だった。

「おっ、このブランドもう新しいのでてんじゃん。コンテストで賞とったら賞金で買うか」

 夢を膨らませつつ見て周っていると、何とも気になる商品を見つけた。

「ん なんだあれ?」


 POPには商品名「」と書いてあった。


 そばに置いてある商品説明のチラシを読むと自分が経験した思い出をストーリーにしてくれるそうだ。

 何と素晴らしい商品だ!これさえあれば、簡単に小説ができてしまう。そう思った俺は、なけなしの金をはたいて、自宅へ持って帰った。


 さっそく開封。

 説明書の内容によると、原稿用紙をセットし、電極をこめかみに張り付けて、思い出を思い浮かべてスイッチを押すだけで完成するらしい。忘れてしまっている細かい部分まで拾って文章にしてくれるとある。

 さらに、生まれてから現在に至るまで、自叙伝にしてくれる機能もあった。オプションの脚色を押せば、面白い思い出はより面白く、悲しい思い出はよりセンチメンタルにしてくれるそうだ。

「自叙伝にすれば、忘れてる小さい頃の思い出も文章にしてくれるんじゃね?俺って頭いいー」

 たくさんの経験をしているから(たぶん)、きっと膨大な量のページ数になるだろう。それに、アイディアのヒントになるエピソードがあれば、新たに小説も書ける……そう考えた俺は電極をこめかみに張り付け、『自叙伝』『脚色』を選択しスイッチを押した。


「ガガー ピーッ」


 原稿用紙が搬入され、印刷が始まった。すると、すぐさま原稿用紙が搬出された。

 原稿用紙には、たった2行の文章が書かれてあった。

『1996年10月〇日生まれる。

 現在に至る。』

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