第104話 スーパーノヴァ

 その日神秘の衛星宙域で、恒星の如き霊光が駆け巡った。

 それを蒼き大地地球で見上げた人類は、真夜中を過ごす者でさえ真昼かと錯覚を覚える事となる。


「ラードミル……恐らくあれが門なる邪神と呼ばれし、異界とこの地を繋ぐ試練呼ぶ因果だ。そこへかの大邪神と這い寄る混沌がいるのは明白。」


『ええ、ウォガート卿の仰る通りでしょう。そして――我らが騎士会ラウンズの希望たるシエラ嬢を初めとした希望が、未来への切符を手にした様ですね。』


 地上は英国騎士会ラウンズ邸にて――

 元観測者アリスを送り届けた王を継ぐ卿ウォガートが、配下へ地上混乱終息への尽力を命じた後……邸宅の作戦会議室大モニターへ詰めていた。

 救生の志士らが立って数日を数える今、神秘の衛星宙域の異常が最大になる頃。


 状況の摺り合わせと通信を送って来た英国統一防衛軍代表、英国軍の要ラードミルと僅かに言葉を交わし合う。


 天を見上げれば昼夜問わず異変が進行する状況で、英国を初めとした世界各国で確かに混乱が巻き起こり――その沈静化に奔走するのは英国は円卓の騎士会ナイツ・オブ・ラウンズの勤めでもある。


 しかし遥か三十六万キロ彼方で戦う未来ある同胞の安否が気になり、気が気でない状態が続いていた。


「我らはこの地球で成すべき事をなすだけ。彼らを信じようではないか。」


『信じましょう、彼らを。観測者に選ばれし、救生の志士達の奮闘を……。』


 高貴なる者達の想いは言葉ではない意識領域へ。

 やがて蒼き大地地球より延びる命の蛇竜九頭竜から、救生の志士達が闘う地へと伝わって行く。



 世界の命運が激突する、遥かな深淵の戦場へ――



§ § §



 這い寄る混沌ナイアルラトホテップ神たる竜機オルディウス銀嶺の女神ローゼリアが相対する中。

 突如として現れた輝く多面体トラペゾヘドロン金色こんじきの導きは、門なる邪神ヨグ=ソトースへ向かった者達へと溢れる力を呼び起こす。


 さらに響いた元観測者アリスの声――そして救生の当主界吏の咆哮は、すでに宙域をおびただしい数で満たす尖兵さえも凌駕する闘志を戦う者へと沸き上がらせた。


「私はこれまで主の導きの中で戦い続けた! だが……アリスの使徒か――存外に悪くはないな! 」


『エルハンドもそう思うか! 俺などいにしえの時代、あのルシフェルと供に神霊共へと反旗を翻した頃を思い出す! 』


 宙域を悠々進行する門なる邪神へと接敵する天使兵装メタトロン痛み負う黒竜ペイントゥース

 近付けば宇宙を貫く巨大な柱とも思えるそれを相手に、一切の躊躇無くそれぞれが突撃して行く。


 金色こんじきの導きが纏わせた旧神の守りエルダーサインを背にした両機が、搭乗者たる聖霊騎士オリエル宵闇の魔王アルベルトの合図で秘めたる力を爆発させた。


「ならばアルベルト……貴君の新たなる覚醒への選別だ!かつての最高位天使の力再解放を以って、貴君と供に邪神を討つ事をこのメタトロンも願っている……! 」


「行くぞメタトロン! 〈モード・ルシフェル〉――熾天使セラフの力持ちてこの試練を超えて行く! 主の万民への慈愛を胸に、万物を滅する御力をこの手に!」


 天使兵装メタトロンへ十二枚の光翼が輝くと、先に黒竜と究極の一撃を見舞った最高位天使ルシフェルの力が顕現し――

 機体前方へ現われたる幾重にも折り重なった、二つの先端を持つ神槍……聖なる者を貫きし長大なるそれを手にした天使と騎士が一体となる。


「天河を貫く神代の一撃……この神槍 ロンギヌスの一撃を! 得と味わって行け、邪神めが――エイィィーーメンッッ!!!」


 聖人穿つ神槍ロンギヌスを手に邪神へ突撃を敢行する天使兵装メタトロン

 その神の一撃に呼応する様に、痛み負う黒竜ペイントゥース旧神の守りエルダーサインの力を借り……かつての戦いで全盛を振るった真価を見せ付ける。


「なんとも心沸く配慮だ、エルハンド! ならばこちらも、かつての力を呼び起こさねば示しもつかんな! ペイントゥースよ――」


「遥かいにしえ、暴走する神霊を打ち払いし真の魔竜の力をここへ! 真魔竜顕現アクアルドア……〈天魔楼黒竜アーク・バハムート〉! これよりこの試練を超え行くぞっ!! 」


 咆哮と共に三対の黒翼が生まれた黒竜。

 そこより魔霊力の奔流が紫電となって噴き出し、機体各所へ金色こんじきに混じりほとばしる。

 加えて背部へ備えた四対の巨大な衝角が前へと可倒されるや……紫電がそこへエネルギーの奔流となり集束され――


「受けよヨグ=ソトース! 魔軍の誇るこの魔王アシュタロスの一撃を! 天魔楼閣・夜魔霊王天滅衝アーク・ナイトメア・ヘルバスターーーーーーっっ!!! 」


 積層型立体魔法陣ビルティ・マガ・クオント・シェイル・サーキュレイダ——機体胸部前方へ魔族が魔族たる所以の多段層魔法陣を形成し……いにしえの時代、魔軍を率いし魔王アシュタロスの究極奥義が紫電纏う爆光となり放たれる。


 長大なる邪神左右部で、今まさに最後の一撃が放たれんとしていた時。

 天頂とその真逆でも討滅の咆哮が上がる。


「おい、燃えカス! このエルダーサインの力を借りれば、叶うぞ!? 」


『同意かな、同意かな! しかし我らだけでは、十分ではない——と言う事で……剣の君と吸血王にもご助力を賜りたい! 』


 旧神の守りエルダーサインの齎す神代の力は膨大であり、しかしそれを活かしきれない自分達の置かれた状況は二人の邪神も理解の範疇。

 だが彼女らと共にあるは、機動兵装。

 長時間の戦闘には耐えられぬとも、邪神屠る一撃を見舞う程度ならばと助力を残る二人——


 魔剣の侍女シャルージェ赤眼の真祖シューディゲルへと依頼を投げる。


「どの道この質量を相手取って確実な一撃を与えるなど、時間以上に問題がある所——邪神の本領を発揮出来るのならば便乗する他あるまい! シャルージェ卿は如何に!? 」


『ふふっ……皆まで言わずとも分かっているでしょう! むしろそのために私達がここにいるのです! ならば躊躇う事などありません! 』


 邪神娘らの意見へ、問答の余地も無しと首肯を交わす人ならざる者達。

 舞う物量で攻め立てる尖兵を蹴散らすや、直感で各々が寄り添うべき邪神の側へと飛ぶ。


 それを機体モニターで確認した邪神娘達は、煉獄の炎TK=ヘルファイア狂気の嵐TK=マッドストームの纏う旧神の守りエルダーサインより神代の力を引き出した。

 膨大なる物理上のエネルギー ——彼女達の故郷たる異界の宇宙より溢れ出る力を、今いる宇宙の演算方式にて神霊力 必要総量へと相転移させて行く。


 何の事はない……かの宇宙からの力を今、


「ククッ……混沌め、誤算だったな! 救世の志士側にボク達邪神が付いた——あの時、葬り切らなかったツケが回って来たと言う訳だよ! 」


「浅はかかな、浅はかかな! この太陽系に住まう人類とてバカではない——義に準ずる者ならばこの様な神に相対する力を、しかるべき制限の元で管理出来ている! そしてそれは我等にさえ力を与えるのだ! 」


 言うや邪神娘達の機体が、人ならざる者達の機体と一体となる。

 直後……姿宙域へと姿を現した。


 その御姿は——かの邪神娘らの本体とも言える、炎の化身クトゥグア黄衣の王ハスターの神機であった。


「抜かるなよ!?燃えカス! この姿で力を使えるのは一度きり! 本体形状の高密度量子情報を、一時的に実体化させたものだと思考へ刻め! 」


「言わずもがなだ、ハスター! 二人は霊力的に同調してくれれば、我らが力を行使する! 共闘かな、共闘かなっ! 」


『この様な形での共闘とは心が躍る! 承知した……ハスター嬢、我が真祖の力を存分に活用されよ! 』


『中々に相性も良い組み合わせ……流石は策士たるハスター様の采配! このシャルージェの霊的なる御霊——クトゥグア様にしかと活かして頂きます! 』


 煉獄の炎ヘルファイア剣の舞姫ソードブリンガーが融合した炎の化身と——

 狂乱の嵐マッドストーム宵闇の魔王シューディゲルが一つとなった黄衣の王。

 双方の得物の特徴がさらに同調を後押しし、その奇跡の体現がなったのだ。


「奔れ爆轟、煉獄へと包め蹂躙の邪神炎戯! フレア・シュナイダル・アクセラクションっっ!! 」


「舞え、先鋭なる我が尖兵! この身の閃烈なる衝角の刺突と共に、巨大なる御敵を打ち散らす! ダンジグ・ヘッジホッグ・ヘルストームっっ!! 」


 燃え盛る爆炎刃の無双乱舞が……さらには針のむしろの如きビット兵装の閃条の嵐が、門なる邪神ヨグ=ソトースへと叩き付けられる。



 そして——



§ § §



戦乙女ヴァルキュリアを後方へ配し、私達の六機のドレッドを先頭に突っ込みます! 」


『うおっ!? アイリスそれ、大丈夫なのかよっ! 』


『エルダーサインの力を純粋なる貫く力に変える……完全な力技だね。』


『ですがわたくし達のドレッドであの質量を穿つのは、それ以外の手段はなくってよ? 』


 三方の超常の突撃がなる瞬間に合わせた様に、星霊姫達ドールズ旧神の守りエルダーサインを糧に最後の突撃へと心を一つにして行く。


『そだね~~! 相手デカすぎだし~~みんながぶつかるタイミングを考慮したら~~ ——』


『なのです! う、うう……ウィスパ達も……同時に突っ込まねば勝利はないのですぅ~~! 』


「ふふ……そうだね。ヨグ=ソトースを討たなければ、界吏かいり様とシエラ様がルルイエ様をお救いする事など叶わない——」


 火の少女ファイアボルト風の少女エクリス

 そして水の少女ウィスパニア雷の少女ライトニング地の少女マグニア

 星の少女アイリスを中心にモニター越しで首肯しあった、人ならざる歴史に生きた星霊姫ドールが想いを……魂を繋ぎ合わせ——


「ならば私達が出来る事はただ一つ! 他の素晴らしき家族と共に、この門なる邪神を討つ事! ドレッドノート・シクスレイド・スマッシャー……貫けぇぇーーーっっ!!」


 旧神の守りを構成する五芒星を中心に陣を組む古の翼ドレッド・ノート

 それに追従する千の戦乙女ヴァルキュリアが閃光となり、壁の如く聳える門なる邪神ヨグ=ソトースへ決死の突撃を敢行する。


 四箇所へ散った者達の襲撃はほぼ同時期。

 巨大なる邪神の四点がその襲撃に撃ち抜かれ、ただの爆轟を遥かに上回る閃光を撒き邪神が咆哮を上げた。



 それは邪神さえも穿つ超新星爆発スーパーノヴァとなり……神秘の衛星さえも飲み込むそれへ——致命的な破壊を見舞う事に成功したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る