第102話 決戦!二柱の大邪神と救世の志士達!

 神たる竜機オルディウス銀嶺の女神ローゼリア叡智の腕輪アガートラムを纏いて閃光となる。

 次いで各目標へと散らばるは、彼らと絆を繋ぎし支える者達。


 迎え撃つは二柱の大邪神——門なる神ヨグ=ソトース這い寄る混沌ナイアルラトホテップである。


 しかし門なる神の全長たるや、神秘の衛星をも上回る4000kmを誇り——

 対して這い寄る混沌は、ここまでのあらゆる策を一柱で弄した謀略の邪神である。


 その邪神相手に救世の当主界吏が見出した策は……その戦い以上のあらゆるものを見定めた末の秘策。


 それは因果の呪いたる混沌——想像を超えた策であった。


『ああ、絶望的です! ええ、絶望的ですとも! もはや我が儀は完成間近……その次元壁の先では百億を超える同胞が、審判の時を今かと待ち詫びて——』


「うっせぇな、黙ってろ……この混沌ヤロウ! そこにいるんだろ、いにしえの観測者! アリスにとっての大切な家族……ルルイエっ! 」


 神たる竜機オルディウス内モニターを占拠する混沌の蔑みを、救世の当主は怒号で両断する。

 発せられる言葉が、眼前の少女然とした体躯からではない……高位次元から強制的に干渉を強いる別の存在からのものと察したから。


『……わた、しの……名を? あなた……は? 』


 当主の呼び掛けはただの言語による響きではない、宇宙と重なりし者フォースレイアーに与えられたギフト。

 〈霊言フォノンワード〉――その響きが混沌からの干渉より、神格存在の意識を引き剥がす事に成功する。


「俺の名前は草薙 界吏くさなぎ かいり! けど時間がねぇから、ちっとだけ言わせて貰う! 俺達のそばでアリスが今も悲しんでる……あんたが混沌に浸蝕された今に! だから——」


「だから少し辛いが待っててくれ! 俺と、共にある仲間達がその因果のくびきを断ち切ってやる! これは、あんたが悲しき因果を背負わされた原因――その俺達人類を代表したせめてもの罪滅ぼしだ! 」


 力の限り救世の当主が吼える。

 今も閃光となりて、そこへ向かう彼らを阻む様に展開する尖兵を……超重刀剣アメノムラクモで薙ぎ、穿ち、討ち払いながら。


「この、お前らの相手はしてられねぇ! 邪魔、すんなっ! ルルイエっ……あんたは十分戦った! ならもう……素直になってもいいんだ! あんたの想いを聞かせてくれっ!! 」


『私の……想い。私、は……——たい。永劫の因果の地獄から……救われたい。助けて……助けて、草薙 界吏くさなぎ かいり……。』


 響く声音は元観測者アリスの様にはかなげで、慈愛に満ちた女神のそれ。

 その存在が今……幾億の時を超えて、ようやく己の心を曝け出す事が出来た。

 救世の志士達にとって、今はたったその一言を得られただけで充分であった。


「へへっ……それが聞けただけで充分――行こうぜ、シエラさん! アリスも今さら躊躇ためらうんじゃねぇぞっ!? 」


『あなたは変わらないわね……。ええ、行きましょう。そんなあなたがいたからこそ、今の私達がいる……そうでしょう?アリス。』


『ええ……その通り。ありがとう、シエラ――そして界吏かいり様。ありがとう……私が愛した人類達! 』


 救生の当主の声に罪越えし少佐と元観測者が応える。

 少佐としてもこの戦い当初は、当主と幾度も対立し衝突もした。

 が――今はそれこそが、この瞬間のために必要であったと心に刻み込んでいた。


 何の事はない――彼女も、そして友人たる元観測者もそれで心が救われたのだから。


『キヒヒヒッ! キヒヒヒヒヒヒヒヒッ!! 人類、人類人類……人類がっっ!! もはや審判を覆す事など出来ないのです! ええ、出来ないのですよ! 、狂える因果を呼び込む原因を生んだのはあなた方なのですから!! 』


 膨れ上がる狂気と供に、宇宙を繋ぐ儀の完成を控え……神たる竜機オルディウス銀嶺の女神ローゼリア接近を察知した這い寄る混沌は機体を迎撃態勢へ移行させた。

 だが門なる神から溢れ出る狂気の奔流は、かの者へも影響を及ぼし――混沌の禍々しき様相がさらなる狂気で覆われる。


 体躯もさらに一回り巨大化したそれは、二柱の因果の機体を相手取るためほとばしる狂気のままに宇宙を駆ける。


「さあ、これより最終ラウンドです! 足掻き、苦しみ、憎悪に苛まれながらその生涯を邪神への供物として捧げなさい! ジ・ン・ル・イ・ガーーーーーーッッッ!! 」


 異様なまでに広げた狂気の翼が次元さえも歪曲させ――



 希望の二柱の存在と絡み合う様に……接敵した。



§ § §



 神たる竜機オルディウス銀嶺の女神ローゼリア這い寄る混沌ナイアルラトホテップと激突する中――

 それぞれが向かう先へと散った救生の志士達は、次々門より呼び込まれる尖兵を穿ちながら飛ぶ。


「よいか、アルベルト! 我等でこのヨグ=ソトースの東西方面をそれぞれで穿つ! 抜かるなよっ!? 」


『誰に言葉を向けている! この魔王アルベルト……数多の魔族の同胞の未来さえもかかるこの一世一代の大勝負で、手抜きなど言語道断! 、魔界創生になぞらえた名が廃る! 』


「ふっ……では私も、その――楽しもうではないか! 」


 門なる神ヨグ=ソトースの中心より東西方面へ、それぞれ単機で飛ぶ天使兵装メタットロン痛み負う黒竜ペイントゥース

 その機体内でのやり取りはすでに、長く供に戦った戦友のそれ。

 聖霊騎士オリエル宵闇の魔王アルベルトが距離を置こうと強き繋がりを見せ付ける。


「エルハンド卿と魔王殿は単機での突撃も叶います! しかし我等はそれらよりも一撃に劣る――ならばやるべき事は一つです! 」


 さらに門の中心より下方へ向かうは、疑似霊格機動兵装タケミカヅチの四人。

 魔剣の侍女シャルージェ赤眼の真祖シューディゲル炎の化身クトゥグア黄衣の王ハスターである。


 四人を纏める様に飛ぶ剣の舞姫ソード・ブリンガーが並み居る尖兵を二対の光剣デュアル・フォトン・ソードで薙ぎ、舞い飛ぶ先を睨め付ける。


『言わずもがなだ、シャルージェ卿! 邪神のお二方も……この最後の戦い、今一度 共闘願おう! 』


 長身と短身の銃砲で近接し、蝙蝠型ビット兵装で閃条をばら撒く魔の不死王ロード・ドラキュリアスが舞姫の背を守る様に飛び――


『ここまで来たんだ! 一蓮托生……ふむ――この言葉も良きかな、良きかな! 後はヨグ=ソトースを供に屠るだけだっ! 』


『その気概だけは買うけどね、この燃えカス! 計測などせずとも理解に足る程に、骨が折れるぞっ!? 』


 さらに飛ぶ通信は二柱の邪神娘。

 余裕さえ浮かべる炎の化身に対し、絶望的なまでのサイズ差に嫌な汗を躍らせる黄衣の王。

 言うに及ばず、他の霊格機動兵装の30mを越えるサイズでさえ点に見える状況で10mに満たぬ疑似霊格兵装タケミカヅチなど比較にすらならなかった。


 だが――


「お二方もシューディゲル卿も……秘めたる霊格は機体を遥かに上回る! なればこの守護宗家が生み出した、タケミカヅチが力を発揮します! ならば――」


「この力を結集させれば……、相手ではありません! 」


 口角を上げて咆哮を上げるは魔剣の侍女。

 彼女とて邪神らに及ばずとも、人ならざる時の中を生きる者。

 眼前の人ならざる者達の戦略的霊格総量さえも見抜いていた。


 モニター先で、受けた賛美へ同じく口角を上げる人ならざる者達が一斉に気炎を纏うと――

 非現実的なまでのサイズ差を物ともせぬ気概をたぎらせ、門なる神へと激突して行く。


 そしてその対角線上では――


「ヴァルキュリアで波状攻撃の後、私達ドレッド・ノートの連携でヨグ=ソトースへと接敵します! 皆、続いて! 」


 星の翼テラーズドレッド内で凛々しき咆哮を上げる星の少女アイリス

 その号令で、罪越えし少佐シエラに従った戦乙女ヴァルキュリアの群体が一糸乱れぬ突撃を敢行していた。


『うっひょ~~! なんかアイリスが、界吏かいり様やシエラ様みたいだぜぃ! ニシシッ! 』


『やはりマスター方と長く共にあったアイリスは、一味違いますわ。』


『そうだね。僕達もなんだか戦う力が沸いて来る様だよ、アイリス。』


「も、もう! からかわないで下さい、三人とも! 」


 少女の変貌した様は、星霊姫達ドールズもよく知る所である救世の当主と罪越えし少佐の如し。

 素敵な家族の素敵な進化へ歓喜に沸く火の少女ファイアボルトと、地の少女マグニア雷の少女ライトニング


『はわわわっ!? 前、前を見るのですぅ!? 尖兵の大群が、こちら目掛けて押し寄せて来てるのですぅ! 』


『あ~~てかこの数はヤバイね~~!倒した数の~~比じゃないよ~~!? 』


 そんな中……古の翼ドレッド・ノートの武装をばら撒き接敵する、水の少女ウィスパ風の少女エクリスが警告を発する。

 そんな事はすでに承知と……モニターで敵状況を確認した少女達は、続いて視線を合わせ首肯しあう。


「もはや猶予もない所——けれどあのナイアルラトホテップから、界吏かいり様とシエラ様がきっとルルイエ様を救い出してくれます! なればこそ私達は、この時代で目覚めた星霊姫ドールとして恥じぬ戦いをこなして見せましょう! 」


「では行きますっ! 星霊姫達ドールズ……ドレッド・ノート、輪舞ロンドっ!! 」


 六機の古の翼ドレッド・ノートは、千の戦乙女ヴァルキュリアを従え宇宙の嵐となる。

 程なく門なる邪神を形成する歪な巨大リングの四方箇各所で、爆轟が次々花開いた。



 人類の存亡を懸けた大戦は、遂に佳境へと突入して行く。

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