第77話 支える者達、戦場へ

『アイリスのテラーズドレッドに続くよ~~! 侍女さん準備いい~~!? 』


「ええ、こちらはいつでも! 行って下さいまし! 」


『んじゃ、エクリスが先行するからね~~! 皆後ろはよろしく~~! 』


『ニシシッ! 後方はファイアボルトにお任せだぜぃ! 』


『ううう、ウィスパもいるのですぅ!? 仲間外れは無しなのですぅ~~!? 』


『あらあら、威勢のいい事だわ?ファイアボルトも皆も。でもアイリスとライトニングがいない状況……油断は禁物でしてよ? 』


 星の翼テラーズドレッドが発艦を見るや続くは残る古の翼ドレッド・ノート達。

 その一機——風の翼ワイズドレッド下部へ抱き合わされて固定されるは、魔剣の侍女シャルージェが駆る擬似霊格兵装タケミカヅチである。


 彼女を含めた兵装は宇宙での運用を構想上準備されるも追加改修が間に合わず、現時点で備わる推進機能では星間航行に大きく支障の出るレベルであった。

 そこに来て邪神群本体への対応と月面遺跡起動組との戦力分断の状況——航行機能改修を中断し、各戦場での局所的な戦闘能力特化に注力していた。


「真祖 シューディゲル、本当にこちらを任せても良いのですね!? 」


『皆まで言わせるな。我が主たるアルベルト猊下に誓って、造反行為など無い。その様な下賎な行いは、猊下のお顔に泥を塗る事になるからな。行け、魔剣の君よっ! 』


 その限られた戦力を割く様に、魔剣の侍女は罪越えし少佐シエラの護衛に——そして赤眼の真祖シューディゲル盾の要塞艦ヒュペルボレオス防衛に残る。


 しかしその間も、黒山羊譲王シュブ=ニグラス率いる黒仔山羊の大群が月面へ……そして撒き散らしながら狂気のガス塊ウボ・サラスが対艦砲撃をばら撒きつつ接近していた。


「計らいに感謝します……武運を! 」


『そちらもな! 』


 共に同型機を与えられた二人。

 本来敵対していたはずである騎士に仕える侍女と、討たれる側の真祖が妙な感覚を共有する。

 から遠くかけ離れた……宿の渦中にある現実を。


 四機の古の翼ドレッド・ノート盾の要塞艦ヒュペルボレオスより発艦。

 が……状況を見越した様なガス塊からの実態弾が強襲した。


 それを——


「やはりこの機体でこれほど大質量の邪神……相手取れと言う方が無謀だな。だが——守りに徹するならば話は別だっ! 」


 口走るや盾の要塞艦ヒュペルボレオス、かつての地上部であったカタパルトから飛び出した擬似霊格兵装タケミカヅチ……そこから無数に飛来した使弾幕を撃ち落とす。


『ウボーーーッ!? オレサマノコーゲキ、ジャマサレターーッ!? キサマ、ナヲナノル……ウボッ! 』


「邪神と銘打った割には、随分と珍妙な物言いだな。それこそ、ユーモアの塊。そこは兎も角——」


「俺の名はシューディゲル・ファーケン。この様な形ではあるが、侮ってくれるなよ? なにせ——溢れる力は無制限ゆえ、手加減などできぬからな。」


 機体周囲へ舞うは蝙蝠を彷彿させるビット兵装。

 しかしそれは本来擬似霊格兵装タケミカヅチには備わらぬ武装である。

 それが備わる経緯は「邪神世界の技術が使えるなら、何でも使うぜ? 」との残念チーフバーミキュラの意向の元、わざわざ赤眼の真祖が持つ魔の特性を融合させてあつらえられた。


 加えて——邪神世界の技術が影響し、元々の物質構造にさえも変容が及び……深淵の宇宙へかの不死王 吸血鬼ノーライフキング ノスフェラトゥが降臨したかの姿を取る。


「存外に技術の恩恵というのも悪くはない。吸血鬼が機械兵装を纏い宇宙に打って出るなどと、昔の俺ならば一蹴していた所——」


「されど今我が心酔するは、宇宙……天楼の魔界セフィロトより来たりし魔王猊下。魔族が宇宙をねぐらとすると分かった以上は、この宇宙空間にて邪神と渡りあうも一興だっ! 」


 赤眼の真祖の咆哮に合わせた様に、盾の要塞艦ヒュペルボレオス各所からの対艦砲撃の嵐が見舞う。

 当然目標となるは狂気のガス塊ウボサ・ラス


 ばら撒かれる砲火に混じる様に擬似霊格兵装タケミカヅチ シューディゲル専用カスタム機〈T・K=ロード・ドラキュリアス〉が気炎を吐いた。


 構える武装は二丁――

 短火線砲に加え……彼が罪越えし少佐襲撃の際用いた、近接格闘対応銃を彷彿させる大型短銃である。

 奇しくも今前線で立ち回る、雷纏う竜機オルディウスが振るう得物と近似する。

 、あの雷の少女ライトニングであるのは想像に難くなかった。


「では救世の志士達の、帰りし場所を守り抜いて見せようぞ! 宇宙に舞え、ロード・ドラキュリアスっ!! 」


 迫り来るガス塊を前にしたその機体体躯は10m弱ほど。

 そんな事を置き去りにする様な魔のほとばしりは、地上に於ける闇夜を統べし者ノーライフ・キングのなせる技。



 ……真昼を歩く真祖ハイ・デイライト・ウォーカーが機関の防衛戦へ突入した。



§ § §



 風の翼ワイズドレッドを先頭に、三機の古の翼ドレッド・ノートが追従しつつ……襲い来る黒仔山羊の大群をすり抜ける。

 生命で言う山羊ゴートよろしくそれらの行動は、正しく群れなす動物の大移動。

 違う点で言えば、それが邪神生命であり——巨大さもさる事ながら生命と思えぬ異形を宿している所か。


 古の翼ドレッド・ノートは、擬似霊格兵装タケミカヅチを抱えるにしては僅かに足らない10mを下回る全長。

 L・A・Tロスト・エイジ・テクノロジーの恩恵からくる性能はさて置き、邪神生命を相手取るには決定的な一撃に欠ける。


「うわ~~! 山羊やぎさんがいっぱいだ~~! 山羊さんかわいい~~! 」


『エクリス……(汗)。これらは、私達のいる世界の山羊ゴーととは大きく異なる異形ですわ。どうかと思いましてよ? 』


『うへぇ!? 何こいつら!? 山羊やぎなのに超キショイじゃん!? 』


『でで、ですから……邪神世界の異形と——ひっ!? こここ、怖いのです~~っ!? あっち行けなのですぅ~~!! 』


 大気無き月面上へ一気に下降する古の翼ドレッド・ノート達。

 その際群がる黒仔山羊の異様なる姿へ、それぞれの反応で返す星霊姫達ドールズ

 程なくモニター先で、その黒仔山羊に囲まれんとする星の翼テラーズドレッドを視界に捉える。


「シエラ様っ!! 」


 すでに光学映像有視界。

 ガウェイン家が誇る罪越えし少佐シエラの窮地を察するや、風の翼ワイズドレッドに抱き合わせられた擬似霊格兵装タケミカヅチ——シャルージェ専用カスタム〈T・K=ソード・ブリンガー〉がパージされた。


『ちょっ……侍女さん!? 気が早いって~~! ああ、もう……皆~~テラーズドレッドと侍女さんの機体援護——開始しちゃうよ~~! 』


『ニシシッ! ならばあたしが護衛一番乗りだぜぃ! ちょっと暴れた足りなかったんだーーっ! 』


『やれやれ、仕方がありませんわ。ではわたくしとウィスパで後方支援——ファイアボルトをシャルージェ様の直衛へ。エクリスはこの撹乱……よろしく頼みますわ? 』


『が~~っ~~てん、だ~~! エクリスに、お任せだよ~~! 』


『了解だぜぃ! 』


『なのですぅ! 』


 はや魔剣の侍女シャルージェを追う様に、古の翼ドレッド・ノート達が月面上空を滑空する。

 神秘の衛星重力は地球の6分の1足らず。

 大気さえ存在しないそこで——古の翼それは地球の大空を舞う鳥の如く黒仔山羊を交わし、避け……星の翼仲間を守る様に編隊を組んだ。


 それを確認するや、すでにパージされた剣の舞姫ソード・ブリンガーがスラスター逆噴射の勢いのまま黒仔山羊数隊の間をすり抜ける。

 赤眼の真祖シューディゲルに対する機体は近接戦闘を主体に置きつつ、対邪神用に調整された高集束火線砲エルダーサイン・ストライカーを背に——彼女が得意とした二双一対となる光量子の刃フォトンソードが疾る。


 剣閃乱舞で爆散する黒仔山羊の群れを尻目に、月面地上へ重力制御で降り立つは剣の女神を連想させた。


 その機体内。

 双眸へ只ならぬ決意宿すは、魔剣の名を冠する侍女 シャルージェ・アロンダイトである。


「ここは行き止まりです、邪神生命共! この私……いにしえよりランスロット家に仕えしシャルージェ・アロンダイトが、ここに推参した限りはっ! 」


 月面上の空間を裂く剣閃。

 周囲を囲んだかに思われた黒仔山羊も、瞬く間に一掃される。

 赤眼の真祖の機体同様、劣る体躯から来る一撃の弱さをカバーするは魔剣の侍女本来の能力。

 明らかに人類を相手にしていた際の加減は皆無であった。


 さらに周囲へ護衛と飛ぶ火の翼フレアドレッドが、高集束プラズマ・ウイングブレードで援護する。


『シャルージェ……ここを任せても? 』


「皆まで言わずとも、そのつもりでここまで参った次第。シエラ様は遺跡へっ! 」


 罪越えし少佐シエラもここに来て、頼れる魔剣の侍女へ帰れと告げる無粋など持ち合わせていない。

 星の翼ドレッド・ノートより期待の羨望を送れば、即座に愛しき友人たる侍女が嬉々として応じた。



 それを一瞥した少佐も元観測者アリス星の少女アイリスと首肯しあうと――

 今成すべき最優先目標へとその翼を向かわせた。

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