第44話 ヒュペルボレオスの死闘
どうやら奴らの言っていた言葉は事実だった様だ。
「こ……の燃え女!テメェ相当実力隠してやがったな!?」
『それは誤解、先の戦いはあくまで一騎打ちの体。けれど今は手段を選んではいられない。歯がいましきかな、歯がいましきかな。』
ただ……この娘の特徴的な言い回しからも感じるのは、それが本意ではないと言う点。
同時に、爆風娘もその意見に同調している。
『全く、このボクはこうやって因果に振り回されるのは大嫌いだと言うのに!これもあのブラックウインドが予定を早めたせいだ!』
同調する二人は今——完全に初お披露目の連携攻撃を披露している。
得物であるプラズマの刃で近接する神機・クトゥグア背後から、その隙を補う様に襲来するのは神機・ハスターが伸ばす触手そのものな名状しがたき攻撃。
その連携練度たるや、完全に俺が遊ばれる始末だった。
「くっ……こんな触手攻撃なんざ聞いてねぇぞっ!オリエル、援護を頼む!」
『確かに私もこの様な攻撃は見た事もないが……任された!』
俺一人では手に余ると悟るや、すぐ様オリエルへと通信を飛ばしメタトロンの援護を取り付ける。
今までの戦闘経験からして、この両邪神娘を相手取っての戦いはオリエルと連携する事でそれなりの勝算はあったのだが……そんな予測を無きものにしているのは——
『……おのれっ、この尖兵共!?私の行く手を阻む、だとっ!?』
「おいっ、オリエル!燃え女がそっちに……って、今度は爆風娘が相——」
「ちくしょう!尖兵共が邪魔過ぎるだろっ!」
両邪神娘の攻撃をさらに厄介たらしめるのは、深淵の尖兵らによる物量攻撃だ。
先の襲来など話にもならない深淵の尖兵を数に任せてぶち当てて来る。
無数の尖兵が二人の邪神の指示で、蠢く幾重の集団となる。
それが連鎖的に奇襲をかけて来る様は、もはや邪神の狂気そのものが襲い来るが如し。
いくら武に長けた者であっても、こんな生命かどうかも怪しい奴らの総攻撃をマトモに受けては
『カス当主には悪いけどね……マジでボク達も猶予が無いんだよ!クトゥグアみたいに正々堂々なんて真似してる暇は無い訳だよっ!』
「お前さんは最初から卑劣だったけどな!」
『
「おおおおっっ!?この攻撃はシャレじゃすまねぇ!?」
少しでも状況を好転させんと爆風娘を煽ってみれば、こいつは煽れば煽るだけ厄介になる奴だった。
すでに隙を見つける方が困難なほどに触手を四方八方から撃ち放って来る。
触手の百烈拳とか笑えたもんじゃ無い。
視界の隅で今度は燃え女と競り合うオリエル。
メタトロン程の機体も相手取る神機・クトゥグアのスペックは、やはり燃え女が持ち得た本質——あの娘が邪神である事実を改めて突きつけて来た。
そして——
『草薙さんっ!こちらユイレン……これ以上機関施設の攻撃を受ければ
「おいっ!?ユイレン、聞こえてんのかっ!?……クソっ、アイリス——ヒュペルボレオスの被害状況算出できるか!?」
『はい!先の通信時点の物になりますが——マスター……すでにヒュペルボレオス周辺海域はダゴンの襲撃で被害が出始めています!
「なんてこった……開始早々ジリ貧じゃねぇか!」
すでに異形の軍勢内に確認していた本丸襲撃部隊は、その牙を剥き……ヒュペルボレオス施設へ直接侵入を開始していた。
長い戦いの1日は、まだ始まったばかりだと言うのに。
§ § §
「
『了解!これよりフェアリー隊は機関直……あた——ザッザーッ』
「くっ!?これは……!」
機動制空兵装指示の最中。
ヒュペルボレオスは謎の衝撃複数に襲われる。
直衛と指示を受けた
しかしここは海上——そもそも地震振動などが響くはずもないそこでの揺れは、明確な異変であった。
すると……大モニターへ異常を検知した警報の文字が無数に飛び交い、今しがた襲った地揺れの正体が複数モニターにて確認される。
「局長……邪神生命 ダゴンが海中から施設を攻撃しています!さら……キャアァッ!?」
「……何——海中からだと!?ぬおっ!?」
衝撃は幾重にも
海中へとその体躯を滑り込ませた
「……局長!今度は……今度はアトラック・ナクアが——機関の端部各滑走路先にっ!」
「なるほど、これら邪神生命は拠点襲撃部隊——何という後手の状況か!機関対地並びに対海中防衛兵装準備だ、バーミキュラチーフ!」
『ケケケッ!こっちはさっさと撃ちたくてウズウズしてたぜ!?局長さんよ!』
「何でも構わん……これ以上奴らの内部侵入を許すな!機関のコアとなる区画が襲われれば——くっ……こちらは敗北待った無しだぞ!」
『敗北?ケケッ……地球滅亡の間違いだろ!?まあこっちは何とかして見せるさ……
隙により遅れは出たものの、
局長よりの指示が飛ぶより先……すでに機関防衛兵装が各所で起動音と共に邪神生命を目標に捉えていた。
研究室兼防衛兵装管制室は研究室と隣りあい、残念チーフはそこより全ての指揮を執る。
各種モニターを数人の研究員と共に睨め付けたチーフは、すかさずそれに対応する兵装の機動状況確認の後——
研究員も驚愕する指示を飛ばした。
「いいかテメェら!邪神生命をまとめて相手取れるほど、ここの防衛設備は強靭じゃねぇ!ならば各個撃破——
「えっ……はっ!?いえチーフ、それじゃあ奴らの侵攻を——」
「ケケッ!言ってんだろ……各個撃破だ!奴ら総出の体当たりで八咫の鏡が砕ければ、それこそもう後がねぇ!」
「その代わり脆弱部分はランダムだ!後はそこを突き破って来た化け蜘蛛へ集中砲火——弾薬は調整しつつ、ビーム兵装を主体に攻めあげろ!加えて海中の大蛸モドキには、対魔弾頭式魚雷に対魔強襲式爆雷をありったけぶっ込め!いいなっ!!」
その指示だけ聞けば驚愕し困惑に落とされるだろう。
だが——研ぎ澄まされた氷の思考が、現状
ただの古代技術研究者ではない器が、この時研究員皆へと見せ付けられた。
まさに
恐るべき狂気の侵攻で動揺に揺れていた機関研究員。
が……対する武装は兎も角、それを最大限活かしきる事の叶う存在が皆を鼓舞している事実に至った彼らは——
次第に右往左往した思考から一筋の覚悟を心へと宿して行く。
残念チーフも
「ここはあたしらの家族……
「「「イエス、マム!!」」」
残念と呼ばれたチーフが見せる姿は、それこそ戦場で味方を鼓舞する戦の女神さながら。
狂気の邪神へ、同じく狂気を叩き付けんと咆哮を上げる姿に——やがて従う研究員が一つの鋭き刃の如く束ねられて行くのであった。
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