女神のメメと巴島家の食卓

アーモンド

第1話 来訪、悪魔な女神

プロローグ

その日は雲一つない晴れだった。

僕……巴島はしま繚左りょうすけは気分良くスーパーを後にする。その手にはタイムバーゲンにより格安で手に入れた豆腐やらネギやら、果てにはストック用の香辛料がぎっしりと詰まっている。

主婦達の間を掻い潜り、獲た物は大きい。


「……姉さん達、喜べば良いけど」


家まで8分の帰路、僕は上機嫌にスキップして歩いた。




「…………」


非常事態だった。

僕の家はアパートの2階にある一室(2K、WC・風呂共同)なのだが、その玄関先、ちょうど僕の家のドア前に誰かが座り込んで寝ているではないか。フードを深く被っている為顔は見えないが、恐らく男性だ……。


「……どうしよう」

「…………うぅむ」


バタン。寝相を変え、そのままその人はドア前で横になる。フードが脱げ、顔が夕日に照らされる。

とても白く、触れれば砕け散ってしまいそうな儚さを帯びた肌。その腕は細く華奢で、着ているパーカーの袖や裾が余るほどで、チラリと見えるウエストも細かった。

不覚にもドキっとした。男だと思っていたその人は、とてつもない美少女だったのだ。


……ぎゅるるるる。

少女の腹が鳴り、彼女の表情が歪む。もしやこの子、お腹空いてるのか?


「……姉さん、許してくれるかなぁ……」


少女の肩を軽く叩いて、声をかけてみる。


「……あのぅ……」

「……むにゃ…………」

「あの、すいません」

「…………んむ?」


ようやく反応したその声に動揺しかけたが、振り切って問うてみる。


「大丈夫ですか?お腹空いてるみたいですが」

「誰だ貴様!?ここは!?騎士団は!!?」

「……何言ってるんですか」


もしかして僕はヤバい人に絡んでしまったのではないだろうか。そう思っていると、少女は急に元気を失って倒れた。


「……ぐぅ、もしや血が餓えておるのか」

「……僕ん、寄って行きますか?

すぐそこ……って言うか目の前のここですけど」

「賎民の施しは受けぬ!我は貴族ぞ!?」


あぁ、痛いし面倒だ。

しかも貴族たぁ、随分大きく出てくる。


「失礼ですけど、あんまり無理したら体に悪いです。来て下さい。てか来い!うちの飯を喰って元気出せ!!」

「なっ…………」


思わぬ反撃だったのか、少女は呆然としている。その隙に僕は彼女の手を引き、ドアの内側へ突っ込んでいった。


「おかえり繚左、今日の晩飯は~?」

「あぁ姉さん、今日は麻婆つくるよ!」

「なっ、ママママーボーとな!?」


少女の声に姉が部屋から飛んで来た。ああ、これは面倒な事になる。


「おい繚左、そのお人形さんみたいな美少女はどこの馬の骨だ」

「馬の骨とは不敬な女子おなごよの。我は――――」

「えっ、そういう趣味だったの繚左!ウケる、アハハハハ!!」


駄目だ。これは絶対に駄目だ。

僕が戦戦恐恐としていると、少女が姿を消した。


「我をあまり見くびるなよ賎民の喪女」

「もっ……も……!?」


姉を喪女呼ばわりしたのは、後にも先にもこの少女だけだった。

姉も衝撃が強すぎて、受けとめ切れなかったらしい。キョトンとした顔で、続く言葉をただ聞くのみだった。


「我が名はメメ。――――いや、この国で生きる為の名として承森つぐもり召命めめと名告ろう。

腹が減っておる。のぅ賎民、貴様らを眷族としてやる。対価として我の為に飯を作れよ」

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