少女を埋めるな
桜庭一樹/「少女を埋める」になんでこんなに腹が立つのかわかった。
この小説で描かれているのは地方/東京 女/男 周縁/中心 の徹底的な二項対立だ。東京を中心とした主人公冬子が属する友人たちの集まりは先進的で素晴らしいものとされており、他方で父の葬儀のために帰った地元の人間関係は原始的で時代錯誤で、母のコミュニケーション方式は無知の象徴のように描かれている。
まじかよ。実際にはクソなところも進歩的なところもどちらにもモザイク状に存在しておりその実態はスペクトラムだろう。まぁしかしここは物語世界なので一旦飲み込む。
主人公は前時代的で独善的な母親の無神経さに感化されダメージをくらいながら、東京の友人に支えられつつ自分の立場を取り戻す。葬儀の席ではあくまで母を支えるよい娘のポジションを崩さず、自らの役割を遂行する。父と母の愛にうるっときたりもする。
葬儀のあとに思い起こされるのは母親や父親の理不尽な言動だ。祖母の人生を取材した時の洞察を交えながら冬子は自分なりの「うちがなぜこういう家系であるのか」についての考察を母に述べる。もちろん母は聞いていないし冬子ももはやそれに動じない。若いころとは違う。東京に戻りマイノリティ、つまり性的少数者や女性のための文章を書く。共同体は個人の幸福のためにと繰り返してちょっと怖い。
この物語が三十代以降の女性の胸を強く打っていることに愕然とする。これはおそらく娘が母の支配から逃れる物語である。私はうっかり平成に生まれてしまって国連の子供のための人権宣言に解放されていたので冬子の解放に共感を寄せることができなかった。
よき娘。よき母。よき生殖。おいおいおいおい2020年代にもなってまだそういう世迷いごとを断ち切るための小説が必要とされているのかよ。一切合切非合理で本来ならないものがあるとされて個人の人生に葛藤を生み出す仕組み。個人が社会との間に生じる葛藤に打ち克つことがドラマとして描かれる。F***。
いい加減にしてくれ、女の人生とか才能を個人や社会との葛藤で消耗させるな
元来なら生じないはずの摩擦でエネルギーを無駄に消費させるなよ。
男に生まれてたらとかじゃないんですわ。
女は「ちょっと足りない男」ではないんですわ
あるものを活用できずに消費している社会の不合理をなんとかしろ
埋められた少女を穴から引き揚げる手助けをするな
埋めるやつらの後頭部をかち割れ
ルールを変えさせろ
評価軸を変えろ
こういうことはあんまり言いたくないですけど、社会との葛藤に苦しむ男の小説は負け犬小説って言って人気がありますね。女性主人公の小説はその負け犬設定がデフォルトなんですわ。これがどういう意味かわかりますか? 男の葛藤・敗北・社会からの遁走が消費されるのと同じ仕組みで桜庭一樹という作家のある意味勝ち組の女の人生は消費されていく。東京に住んでいて病に倒れた父の面倒を見る必要もなく友人に支えられ生きている女の人生は。男の負け犬人生と同じ。
クソくらえですね。女が生涯をかけて戦って勝ち取る結果が、多くの男性がルサンチマンと戦いながら文学に昇華するユニークな孤独と葛藤の人生と同等に(あくまで文学の上では)扱われるというのは。まじでそういうのを殺していきたい。
家族のこととか全く顧みずに自分の人生を謳歌して成功して恨まれて死ぬ幸せな女の話が読みたいなぁ。
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