第107話 盗賊退治6
幅広く整えられた街道を馬車が4台連なって歩いていく。先頭を行く一台だけは幌が備え付けられているが真ん中の2台には幌が無く、代わりに檻があった。
檻の中にはツタの様なもので縛り上げられた粗末な装備を纏った男たちがぎゅうぎゅうに積み込まれていて、そのせいで馬車の速度はやや遅い。
奇妙な馬車隊の周りは数人の冒険者に囲まれていて、檻を破ろうとする者がいないかを見張っていた。
トロトロと街道を歩くこの馬車を通りを行く人は好奇心いっぱいに、中には嫌悪感を剥きだしにしながらジロジロと眺めながらすれ違い、または追い越していった。
「よくぞこんなにもまぁ、行き交うやつらのほとんどが後ろのやつらに気ィとられんだろうなぁ、ったく」
先頭の幌付き馬車の中でモニカがうんざりとした表情で独り
幌を開け放った馬車の後ろから、盗賊どもの仲間が奪還に来た時の為に警戒していたのだがそんな気配は全くないと言っていいほどで、すっかりと飽きてしまった様子だ。
「ま、もうちょっとの辛抱さ。直に、レガーノから応援の冒険者や衛士たちがやって来る」
声は幌の上からした。
フレッドだ。ホビットならではの軽さと小ささを利用して、幌の上から遠方を見渡して警戒をしてくれている。
「つまんねぇ~、盗賊どもは雑魚ばっかだったし、アッという間も無く終わっちまったし……ハア……」
ずいぶんとやる気のない声をだしながら、床に敷いたクッションの上でモニカが横になり始めた。
「だらしないですよ、モニカ」
ニーナがその様子を横目で見ながら注意しても、肝心のモニカは聞く耳すら待たない様子で剣帯に吊るしていた剣を鞘ごと取り外してしまった。
「オルレオ、お前も警戒はフレッドに任せてゆっくりしちまえ」
『ちょっと!』、と上から抗議の声が降ってくるのを無視したが、声をかけた相手からの反応がまるでない。
おかしいな、と思ったモニカが馬車の前方、御者台近くに座っていたオルレオへと向き直ると……
そこにあったのは、馬車の揺れを気にせず、すっかりと眠りに落ちた少年の姿だ。
その姿を見たモニカはのそのそと床を這ってオルレオに近づき、軽く指でほほを突いてみた。
が、オルレオはというと全く動じることもなく、ぐっすりと寝ていた。規則的に上下する胸と聞こえてくる呼吸の音は、ほほをつねってみたところで変わりがない。
「……コイツ、左肩を
そう、オルレオは盗賊のリーダーと思われる騎兵との戦闘中、槍の一撃を盾で防ぐも、避けきれず左肩に掠めていた。
敵はそのときにオルレオが放った一撃で自身の右足と馬の横っ腹に傷を付けられてそのまま戦線を離脱したことから勝負としてはやや負け気味の引き分けといったところだろうか。
その後、リーダーが逃げたことで戦意を失った残りの盗賊をニーナの魔法で縛り上げ、監視をしていたフレッド達と合流、今はこうしてレガーノまで盗賊どもを護送中といったところだ。
幸い、オルレオの負傷は軽いものでヒールジェルで傷を塞いで包帯を巻き、さらにポーションと念のための
「よっぽど疲れていたんでしょうね……ぐっすりと眠ってしまってます」
そう言って、いつの間にやら近くに来ていたニーナがそっとオルレオの頭を撫でた。
いくら傷の治療をしたところで、疲労までは回復しない。
そのことを良く知っているモニカは、ふっ、と小さく鼻を鳴らした。
「ったく、しょうがねえなぁ」
モニカは少しだけ小さな声でそう言うと、がしがしと自分の髪をかきあげながら元いた場所まで戻り、剣を拾い、オルレオの隣にやってきて、警戒を開始する。
その様子をニーナは微笑まし気に見守りながら、視線を後方に向けた。
♦♦♦
何事もなく、穏やかに時間がただ流れていく。街道を通る誰もが檻付き馬車に目を奪われるも、手は出さない。すれ違いざまに見ながら街道の安全が確保されたことに安堵し、それぞれの目的地へ旅を続ける。
「お! レガーノ衛士隊の旗が見えたよ!」
森からレガーノまであと半分ほどを残したところで、フレッドの目が増援を捉えた。フレッドが後続に向けて合図をすると、馬車隊はゆっくりと速度を落として衛士隊と合流する準備をはじめ、護送に従事していた冒険者たちは伸びをしたり、あくびをしたりと完全に気を緩め切っていた。
そんな中で、本来ならいの一番に騒がしくなりそうな馬車の中が静まり返っているのをフレッドはおかしく思った。
首を傾げながら「お~い」と何度か声をかけるも応答が欠片もないことを確認して、フレッドはある予感をさせながら幌の上から中を覗き込んだ。
「まったく、もう、護送中だってのに完全に寝ちゃってまあ」
予想通り、馬車の中ではオルレオを挟んだ格好で三人が仲良く眠っている。
「ま、何事もなかったからいいけどね~」
仕事でみるのとはまた違う、年相応の三人の姿を盗み見て、フレッドは嬉し気に笑った。
まだまだ十代の少年少女たちなのだ。こうして子供らしいところを見せられても悪い気は起きないどころか、安心感さえ覚えてしまう。
ふわりと地面に降り立ちながら、フレッドは楽し気に笑った。やってきた衛士隊の隊長と冒険者ギルドから派遣されてきた職員を迎え入れながら、さていつごろ三人を起こしたものか、とそんなことを考えていた。
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