第68話 新しい趣味
昼前のレガーノは朝方とは違うゆったりとした空気に包まれている。朝方の大通りでは多くの人が行き交い、道端には露店が立ち並んでいたが、今の時間帯はそんな賑わいはどこに消えたのか、ガヤガヤとした喧騒は全くと言っていいほど感じられない。
代わりに街に響くのは子供たちの遊ぶ声だ。通りを駆けまわる子もいれば、広場で遊びまわる子も多くいる。街の人は仕事をしながらも、時折、手を止めて子供たちを微笑ましさが9割、羨ましさが1割入り混じった暖かな視線で見守っている。
そんな子供たちの声をかき消すように、大きく6回、鐘を突く音があたりに響いた。真昼を告げるその音に、子供たちは何かに急かされるようにしばしの別れを告げてあっという間に散り散りに走り去っていく。
入れ替わるように大通りに見える大人たちの姿が増えていき、各店からは呼び込みの声が盛んに叫ばれるようになると、街の静けさは一転して騒然とした様子に包まれていく。
そんな移り変わりの中を冒険者ギルドを後にしたオルレオはゆっくりと北に北にと歩いて行った。
目的地は鍛冶屋街にある
だがしかし、ここで一つ問題が起きた。
ギルドに行くのが少し遅い時間になってしまったせいで、“鐵の鎚”にたどり着く前に昼を迎えてしまったのだ。今から工房に行ったとしても休憩の邪魔になってしまうだろう。
これはまあ仕方がないことだ。とオルレオは一人で結論付けるとそのまま大通りに並ぶ店を眺めながらのんびりと歩くことにした。
そもそも、イオネからは“5日くらいで出来上がるからそれくらいに来てほしい”としか言われていないのだ。別に今日、取りに行くとも約束していないのだし、昼を食べてからでもいいだろう。
そうやって自分に対して言い訳をしながら、オルレオはところどころで現れる飲食店を見つめては、うんうんと唸っていた。
レガーノの街は食の豊かな街だ。北には山地が多く山の幸が取れ、南には平野が広がりそこでは多くの人が農業・牧畜に汗を流している。さらには街には大きな河が隣接していて川の幸の恵みがあり、海からくる船便で海の幸も楽しめる。
山では主に、川魚と獣の肉、あとは山菜や街から買ってくる保存のきく食べ物くらいしか食べてこなかったオルレオには選択肢が多すぎてどれを食べたらいいか分からないほどだ。
そもそも味の想像が出来ないものも多くある。そこで、今日までの5日間の休みで、オルレオが修行と勉強以外の空いた時間を食べ歩きに費やすことにしていた。
海産物の干物を煮戻して作られた旨味が凝縮したようなスープや、たっぷりのチーズを使って焼き上げられたあっつあつのピッツァ、シンプルに塩だけで味付けされた肉汁滴る牛串に、ほんのりとした甘みがある焼き菓子……
どれもこれも最初は美味しいのだろうか、と疑問に思いながら、食べ方すらよくわからずお店の人に教わりながら挑戦していったオルレオだったが、結果としては口の中が今まで感じたことの無い刺激で溢れかえり、暇を新しい料理を探して食べるのが一つの楽しみになっていた。
今日も今日とて、何か今までにない食べ物はないかとジッと辺りを見回しながら歩いていたところで、オルレオの鼻に今までにない食欲をそそる香りが飛び込んできた。
誘われるままにふらふらと歩き出したオルレオは、大通りから一つ細い路地に入り、そこからさらに一つ角を曲がった。
そこにあったのはこじんまりとした店だった。
中にテーブルなどはないのか店の入り口のところで包みを手渡している。
店の前には数人の客が並んでいて、どうやら持ち帰って食べるのだろう。暖かな包みを抱えて路地を引き返していく。
オルレオもその列に並んで自分の番が来るのを待つことにした。しばらくもしないうちに自分の順番が回ってきたオルレオは開口一番。
「ここで一番人気のやつください!」
もはや注文のときのお決まりになった言葉を発した。
「ここの商品は、“ハンバーガー”一つだけさね! ほら、しっかりと手を洗ってから食べるんだよ!」
そういって、商品を手渡してきた
その疑問は、大通りまで引き返して、包みの中をそっと覗いても解消しなかった。
ぶ厚く、丸いパンを上下に切り分け、その間に肉だの野菜だのを挟み込んだホットサンドに、付け合わせで芋やジャガイモ、ゴボウのフライがついている。
「これが、はんばーがー、か」
そう呟いたオルレオは広場まで歩くと空いているベンチに腰掛けて、包みの中からハンバーガーを取り出してかぶりついた。
「あっつ、おいし! ……あっとっと」
まだまだあったかいパンと肉汁零れだす肉、そこに酸味が効いた野菜が相まって極上の旨味が引き出されている。
もくもくと食べ進めようとするのだけれど、油断するとすぐに挟まれている具材が飛び出そうとして慌てて向きを変えたり手で押さえなくてはいけない。
「こりゃ、確かに手を洗わなきゃだめだな」
一つ疑問が解消したオルレオは勢い込んでハンバーガーをぺろりと平らげると、後に残ったフライをパクパクと摘まんであっという間に食べきってしまった。
「美味しかったんだけど、ちょっと口の中が脂っぽい感じだな……」
どうしたものか、と思ったオルレオの目の前に、一台の屋台が目に入った。ジュース販売の屋台だ
オルレオがじっと眺めていたところで店主のおじさんと視線がかち合う。
「うちのは搾りたてだぜ!」
結局、オルレオはこの店でさっぱりとした風味の果物を掛け合わせて作られたジュースを買って、昼の
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