第54話 カッコつかない男らしさ

 ウルカ村を出た直後、オルレオ達はレガーノまで延びる街道から外れ、より広く踏みならされた道へと足を向けた。鉱夫達が毎日、何十人と歩き続けることで凹凸の消え人が歩きやすくなった道をオルレオは少しだけ警戒を強めながら二人の前を進んでいく。


 後ろを歩く二人を盗み見てみれば、エリーが小ぶりな杖を胸の前に構えてオルレオの後ろに続き、最後尾をイオネが鎚を持って警戒に当たっていた。ウルカ村までの道中では錬金術と鍛冶の分野の違いはあっても同じ職人を志す仲間意識が芽生えたのかお互いにあれやこれやと楽し気に会話をしていたというのに緊張しているのだろうか今は一言も話さずにきょろきょろとあたりを見回している。


「そんなに緊張しなくてもいいよ」


 思わず、オルレオの口からはそんな言葉が飛び出していた。


 いきなり言葉を掛けられて驚いたのか、それともその内容に呆気にとられたのか、二人してキョトンとした顔をしてオルレオをのことを見つめてくる。


 ふり返ってその様子を見ていたオルレオは二人のその表情にちょっとした胸の高まりを感じながらも表層を装いながら。


「さっき地図を買ったときにも言ってたじゃないか。『この辺じゃまだ魔獣が見かけられてない』って、だからそんなに気を張らなくてもいいよ」


 オルレオは二人に気を遣わせないように出来るだけ気楽に言ってのけたが、それでも二人の表情は晴れなかった。


「あっはは、まあ確かにいっぱい人が来てたのも危険がないって意味だろうし気にしすぎちゃダメなんだろうけど……」


 努めて普段通りに明るく話すイオネだが声には少しだけ震えが混じった。


「だからって言って全くの無警戒でオルレオに任せっきりってのも何だか変な話でしょ?」


 そんなもんか?と一瞬考えたオルレオだったが、それでも胸の内から湧き上がる思いがあるのに言葉にはならず、何と言ったらいいのかと首をひねった。


「でも、ほら、一応は護衛依頼だし……二人のことはオレが守らなきゃいけないんだからもうちょっとこう……」


 自分の中でもはっきりとした形にならない感情をとにかく拙いながらにゆっくりと言葉にしていくオルレオ。


 その様子を見ていたエリーはスッと肩から力を抜いて、柔らかに微笑んだ。


「……別に、オルレオのことを疑ってるってわけじゃないわよ。むしろ逆。あなたが強いってことは前のことで十分にわかってる」


 言って、少しだけ肩から力を抜きながら。


「それでも全部丸投げして『よろしく』っていうのは違うでしょ?」


「そーそー!護衛と依頼人って形かもしれないけど、今は三人で一つのパーティなんだしさ!みんなで頑張ったほうが絶対いい結果につながるよ!!」


 言ったイオネの顔には満面の笑みが浮かんでいた。


「そうかな?」


 またしても首をひねったオルレオに笑顔の二人が頷いた。


「そういうもんよ」


「そうしようよ!」


 二人の笑顔を見て、オルレオも力強く頷く。


「じゃあ、気を取り直して行こうか」


 オルレオが再度前を向いて歩き出し、二人もそれに続く。


 さっきと同じ隊形で歩く三人だったがその距離は近づき、時折楽し気な会話と笑みが一行を包んでいた。


 そうしてしばし歩んだところで、不意に山影が途切れた。


 目の前にあったのはほぼ垂直に切り立ち草木の一つも生えずにそびえたつ巨大な崖だ。


「流石に大きいわね……」


「生で見ると迫力が違うね~」


「……すっげ~」


 三者三様に声を漏らしながら、それでも全員がその威容に圧倒されていた。

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