第2章 その盾で何を護るか

第2章第1節 パーティー結成

第44話 闘技場

 男が二人、レガーノの中央広場から東に延びた大通りを歩いていた。


 前を歩く男は、鍛え上げられた肉体を持ち不思議な威圧感を纏った年齢不詳の男だ。男は剣帯に一本、使い込まれた剣を下げただけでそのほかに装備らしきものは見当たらない。その後ろを男よりも高い背丈のあどけなさを残した少年が追いかけている。少年も男と同じように剣を吊るしていたが、男と違い背中に逆三角形を盾に伸ばしたような凧盾カイトシールドを担いでいた。


「で、結局、どこに行くんです?」


 気怠そうな感じで、少年―オルレオは目の前を淡々と迷いすらなくまっすぐに歩いてく師―ガイに声を掛けた。


「ついてくりゃわかる」


「さっきからそればっかりじゃないですかー。修行つけてくれるって言ったのに……」


 不満げな声を挙げてぶー垂れながら、オルレオは足取り軽くガイの後に続いていた。


「いいから黙ってついてこい……じきに見える」


 一体何が見えてくるというのだろうか、というか、見えてくるものと修行にどんな関係があるというのだ、とかいろいろ質問をしたい気持ちをグッと押し殺してオルレオは師の言うとおりに黙ってついていった。


 というよりもこれ以上聞いたところで師の機嫌を損ねるだけで何にも意味がないことを長年の経験で理解していたし、大抵こんなことをいう時は驚かせたいときとか説明するのがめんどくさい時とか何かしらの理由があるからだ。


 じゃあ、今回はいったいどっちだろうか?


 街中にある、というなら説明が面倒くさいたぐいのもののような気もするが、もしかしたら山の中では見ることのできない、自分が驚くようなものかもしれないし……と悩んでいたところで。


「おい、見えてきたぞ」


 果たして見えてきたのは、通りの真ん中にそびえ立つ大きな建物だった。さながら中央広場の真ん中に大きな円形の建物をデンっと置いて外周に通りが残ったとでも言えばいいだろうか。


「……なんですか?あれ?」


「入ればわかる。行くぞ」


 言って、ズカズカと歩き始めた師の後をオルレオはまたしても無言でついていった。建物の入り口を潜り、そこからまっすぐに伸びた通路ではなく壁に沿った道を右に曲がってしばらく行くと、下りの階段があった。地下でもあるのだろうか、オルレオが首をひねりながら階段を降りていく師の後へ続き、階段を降りた先から続く出口から光が漏れた通路を歩いていく。


 その先は、外だった。あたりを見れば壁に囲まれていて、その壁のさらに上にはすり鉢の様に内から外へと段差をつけながら広がり、段差にはベンチが備え付けられているのか決して少なくない人達が腰かけながら底を見下ろしている。


 オルレオもいる底の部分にも多くの人が、それも多彩な種族、所属の人々が剣を槍を、盾を、弓を、こん棒を……見たことの無い武器をもった人?か定かでない種族までが訓練に励んでいた。


「驚いたか?」


 師が楽し気に声をかけてくる。呆けたようにあたりを見回すオルレオに勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、だ。


「はい!すっごく!!」


 その答えに満足いったように一度大きく頷く。


「ここは闘技場と言ってだな、向こうにいるこの領の騎士団や衛兵たちの訓練場だ。もっとも、スペースが広くて空きも多いことから冒険者や傭兵も訓練するし、行商や市民も護身術の練習にくることもある。」


 見れば、オルレオ達のいる反対側には金属鎧を身に纏った何人かが必死の形相で打ち合いをしているし、端の方では何人かの女性が素手での格闘を教わっているようだった。


「……今日、訓練に来ているのは新兵ばかりか。何かデカいヤマでもあったか?」


「あ……確か、明日はダヴァン丘陵へ翼竜の討伐にいくはずだったような……」


 オルレオが思い返していたのは北門でマックスから聞いた話だ。オルレオのミッション期限の翌日から騎士団がどうたらと言っていた気がするのだが聞き流していたので思い出せることはほとんどない。


「それで、か……」


 あいまいな情報に得心がいったとばかりに顎に手を添えて何かを考え、そのままガイはオルレオから数歩離れた位置まで歩いて振り返った。


「ここでは、騎士や衛兵が経験を積むために傭兵や冒険者と他流試合をすることもある。また、ここで訓練を続けて騎士団に声を掛けられることもある、かもしれん。冒険に出ない日にはここに顔を出して訓練してみてもいいだろう」


 言い終わったとたん、ガイの身体からいくつかの光が生まれる。それらは主にガイの両腕と左腕の付近から強く輝いてそして一瞬のうちに収束した。


 後に生まれたのは、オルレオでも滅多に見たことがないガイの装備の一部だ。両腕のひし形を長く伸ばしたようなバックラーと一体化したような形の腕甲が装備されていて、左手には金で獅子の紋章が描かれたヒーターシールドが握られていた。


「さて、まずはお前が冒険で編み出した二つの技について説明してやる。構えろ」


 ほんとにいきなりだな、と思いつつもオルレオは背負っていた凧盾を構えた。ほぼ同時に、ガイが右手で剣を抜いた。


「行くぞ、しっかりと耐えろよ」


 その声に、オルレオは一気に全身に力を込めて、腰を落とした。

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